第18話; Please be my girlfriend
そして、いよいよ2月14日のバレンタインデイがやってきた。
カナダでは、バレンタインは女子が好きな男子に告白する日ではなく、男女に関係なく、男子が女子に告白しても、女子が男子に告白しても良い日らしい。
ホストママに
「KENにチョコレートケーキを渡したいから作り方を教えて」
とお願いすると、
「え? 美紅が告白するの? だめよ、バレンタインデイは男の子から告白してもらわなくちゃ」
と言われてしまった。
レイプ経験を持つ私でも人を好きになっても良いのだろうかと、心の底から後ろめたくて、この悩みだけは誰にも打ち明けることは出来なかった。一度は人生のどん底まで落ちた私だけど、こんな私でもKENの笑顔を思い浮かべると、KENに好かれたいと願った。私は、KENの前ではごく普通の16歳の女の子だった。
そして、バレンタインデイの日がやってきた。
始めて焼いたチョコレートケーキにI LOVE KEN とアイシングで書き、バンクーバーにもあるダイソー(バンクーバーでは全ての商品が2ドルショップだ)に行き可愛いケーキ箱と包装紙を購入して、初恋の思いを伝えたくて一生懸命に準備をした。
この年の2月14日は日曜日で学校がお休みだった。数日前からどうやってKENにチョコレートを渡そうかと計画していたら、クラスメートの韓国人女子たちが私に力を貸してくれた。
彼女たちの提案で、2月14日はスクールメイトの韓国人3名と日本人3名でバンクーバーダウンタウンに買い物に行くことになった。
ランチに何を食べるか、6人でワイワイ話しながら、お寿司を食べに行くことが決まった。
私は、ジャパニーズレストランで、アソーテッド寿司を注文した。アソーテッドとは、盛り合わせという意味で、ランチにはお手頃な値段でバラエティなお寿司を食べることが出来る。
私のアソーテッド寿司が運ばれてきた。他のクラスメートが注文した品々も順番に運ばれてきた。
すると、私の目の前に座っていたKENがいきなり私の寿司皿から、きゅうりが入ったカッパ巻を取って自分のお皿に移し、自分のお皿の中に乗っている寿司ネタから鉄火巻を私のお皿に入れてきた。
「え?KENって鉄火巻嫌いなの?」
と聞くと
「好きだよ」と言うので、
「どうして?」と聞くと
「美紅はきゅうりが嫌いだろ?」
と言うではないか。
ドキューン、私がきゅうりを嫌いなことをKENが知ってくれているなんて。
まわりの友達に「ヒューヒュー」とからかわれ、恥ずかしくてレストランから飛び出したくなった。
夕方までみんなで買い物を楽しみ、スカイトレインに乗ってサレー市に帰っていると、みんなが気を使って、サレーセントラル駅に着いたら、用事があるからと、私とKENを残してみんないなくなってしまった。
私は朝か持ってきていたチョコレートケーキの形が壊れていないかがずっと気になっていたが、思い切ってKENに
「I Made a Chocolate cake for you. Please try to eat it. チョコレートケーキを焼いたので食べてみて」
と手渡したら、KENは私の手を引っ張って駅前の花屋さんに行き、バラの花を一輪買ってくれた。
そして
「Please be my girlfriend.」
と言った。
私は暫く立ち竦みながら、プリーズビイマイガールフレンドと復唱してみた。
意味が分からなかったのだ。
そうしたらKENが日本語で
「もっと英語を勉強しろ」
と笑って私にデコピンをしてきた。
「も~痛いよ」
そして
「僕と付き合って下さい」
と日本語で言われた。
しばらく沈黙が続き、私は
「よろしくお願いします」
と答えた。
こんな風に男の子から恋の告白を受けたことがなかった私は、KENに頭を下げて「よろしくお願いします」と答えながら、さっきKENが私の手をにぎって花屋に連れて行ってくれた手のぬくもりを思い返し、幸せすぎて怖かった。
私とKENは、お互いに16歳。日本人と韓国人と国籍は違うけれど、カナダという地で留学生という共通の環境を共にして、彼氏彼女の関係となった。
私、田中美紅の初めての恋、KENは初めての彼氏です。
ホームスティ先に帰り、夕食の前にいつもの様にホストパパがお祈りを始めた。今まではただ目を閉じて、パパの祈りが終わるのを待っているだけだった私が、この日初めて心の中でお祈りをした。
「神様、今までの私のお行いを許して下さい。二度と間違った道を歩まないので、この幸せを私から取らないで下さい。アーメン」
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