第14話; 発達障害って何?
陽子さんの話では、この語学学校のジュニアクラスに入学してくる中学・高校生は、カナダの高校(現地校)に入学する前のしばらくの間、集中して英語を学び、英語力をブラッシュアップするために入学してくるそうだ。
私達、通信制高校からの留学生も、希望すれば現地校に入学することができるらしい。
カナダに留学にくる学生たちの国籍は、日本、韓国、台湾、中国、南アメリカ(ブラジル、コロンビアなど)、ヨーロッパからはドイツ、フランスからもカナダに英語を学びに来るそうだ。
数日が経ち、自然とレベル2のクラス内でも座る席が決まってきた。
私の右隣はいつも16歳のブラジル人の女の子ソフィア。私と同じ年なので仲良くなった。でもブラジル語訛りの英語を聞きとるのは難しい。左隣りには、ドイツ人の男の子ルイス。クラスの人数は、12名。日本人が4人、韓国人が4人、ブラジル人が2名、ドイツ人が1名、コロンビア人が1人といった構成だ。悪くないと私は思った。
授業は、アンジーが英語で英語を教えてくれる。渡された教科書には英語しか書かれていない。
日本で勉強してきた英語のテキストによく、S+V 、S+V+C 、S+V+O、などの文法が出てきたが、カナダに来て、S(主語)はSubject の略、V(動詞)はVerbの略、Adj(形容詞)はAdjectiveの略、C(補語)はComplementの略、O(目的語)Objectの略、Adv(副詞)adverbの略だと初めて知った。
ここでの私の目標は、2ケ月後にレベル3に上がることと決めた。
この語学学校に入学してくる通信制高校の生徒たちを担当することが陽子さんたちの仕事らしい。
私も含めてだが、留学してくる通信制高校の生徒たちは様々な問題を抱えている。陽子さんは、夜遅くにホストファミリーから生徒が帰ってこないと連絡を受けると、その生徒が見つかるまで車で探しまわるそうだ。
休み時間には、必ず陽子さんは誰かから相談を受けていた。ノブもその一人だった。
私は英語の質問をするために、休み時間に語学学校の中にあるバンクーバーサポート校のオフィスに行くが、ドアの前にカウンセリング中と書かれている時は外で待つのだが、カウンセリングを終えて出て来るノブの姿を良く見かけた。
私と同じで、ノブも少しずつクラスメートに溶け込んでいった。最近では、ノブが自分で自分の頬を殴る様な自虐行為を目撃することもなくなった。
「ノブ、最近変わったよね?」
とクラスに私とノブしかいない機会があったので話かけてみると
「僕のことを見てくれている人がこの学校にはいるから、帰国して成長した僕を父親に認めてもらいたいからね」
なんて意味不明な言葉を返してきたけれど、見てくれている人とはおそらく陽子さんのことなのだろうと想像ができた。
ノブは、陽子さんに勧められて、市内にある日本語学校でボランティアを始めたらしい。小学生クラスで日本語教師のアシスタントをしているとノブが教えてくれた。私たちが通う語学学校でも、ノブが小学生クラスで英語を学んでいる子供たちの遊び相手になっている姿を良く目にする。
なんだかノブは最近イキイキしていて、楽しそうだ。
私の方はどうだろうか? ノブみたいにイキイキ出来ているだろうか?
日本の学校には、どの教室にも窓があった。語学学校の多くの教室には窓がなく、窓がない教室で勉強することは何故だか私を苛つかせた。そんな時は決まって時計のチクタクの音が気になり、授業に集中が出来ない。
そんな日々が続き、陽子さんから
「調子はどう?」
と話かけられ、何げ気なく
「窓がない教室での授業が辛くて。教室の時計の音が気になって集中できないし」
と、陽子さんに打ち明けると、
「放課後に、私のオフィスに来なさい」
と言われた。
放課後になり、バンクーバーサポート校のオフィスを尋ねると、陽子さんはドアの外にカウンセリング中のサインを掛けて、私と話す準備をしてくれた。
陽子さんは、私の話を先に聞き、そして
「美紅、私達スタッフは医師ではないので、毎日子供たちと接していても、例えばこの生徒はADHD(注意欠如・多動性障害)であるなどと判断することは決して出来ないわ。でもね、生徒たちと毎日身近に接していると、この子は発達障害ではないかと感じることが正直言うとあります。でもそれが、ADHDなのか、アスペルガー症候群なのか、トゥーレット症候群なのかは分からないわ。私の経験だとね、通信制高校に通う子供達は、発達障害の子供が決して少なくないの。でも彼らは、自分が、いいえ家族でさえ、そうであると気付いていないのかもしれない。誤解しないでね。美紅が発達障害だと私は言っているのではないのよ。もしも、もしもそうなのであれば、早い治療が美紅のためであることは間違いがないので、次に日本に帰国する時に検査を受けてみたらどうかしら?」
「障害」という言葉に私は驚き、陽子さんの言葉を受け入れられない。
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