第12話; 登校初日目

月曜日の朝を迎え、ホストママにバス停の場所を教えてもらったし、オリエンテーションの時に配られた地図には、ホームスティ先の最寄りのバス停から学校の最寄りのバス停までのバス経路がハイライトで記されているし、陽子さんが

「終着駅が学校の最寄りのバス停です。バスにさえ乗れたら、私は終着駅で待っているので必ず会えます」

と言われていたので、心配はしていなかったが、ホストママは私を心配してバス停までついて来て、ホストママは私がバスに乗るまで見とどけてくれた。その上、

「Mikuは今バスに乗ったことを私からYokoに電話を入れて伝えておくわ」

と言ってくれた。

私が乗車したバスは終点に着きバスを降りると、陽子さんが待ってくれていた。そして一緒に飛行機に乗った数名の生徒たちの姿もそこにあった。

陽子さんは

「あと2名到着するまで、みんなここで待ってね」

と言って、まだ到着していない2名の生徒を乗せたバスの到着を待った。

私たちは同じ語学学校に通うけれど、滞在するホームスティの家々はばらばらなので、乗車するバスの番号も異なることをその場で理解した。

5分ほどして、最後の2名も到着し、

「今日と同じバスに乗れば、明日からも一人で登校できるはずです。金曜日にオリエンテーションをした語学学校は、このバス停から徒歩5分です」

と説明を受け、陽子さんを10名の生徒たちを連れて歩きだした。

明日から自分で学校に行ける様に道を覚えなきゃと少し緊張していたが、バス停から少し歩き出したら、金曜日に行った学校のビルが見えることに気が付いた。これなら、迷うこともないだろうと安心した。


学校に到着すると、新入生は私たちだけではなかった。数名の英語圏ではない外国から英語を学びに来た留学生たちもいて、私達10名はその外国人たちと一緒に別室に入れられ、今から英語のレベルを知るためのテストをすると言われた。私以外は、今日のスケジュールを説明してくれている外国人のスタッフが何を言っているか全く理解できない様子だ。

要所々々に陽子さんが通訳してくれる。

今日の英語力試験の結果で、明日から勉強する英語のクラスのレベルが決まるそうだ。

2時間の試験が終わり、日本人スタッフから「試験はどうだった?」

と尋ねられた。

全員が

「全く分からなかった~。」

と言っている。

確かに難しかったけど、「なぜカナダに留学したのですか?」を英文で書きましょうという質問はきっと出ると私は想像していたので、昨日ホストママに手伝ってもらって予習しておいたので、少なくてもその問題は完璧に書けたはずだ。

すると、

「ヨウコに聞きたいんだけどさ~。」

と一人の女子生徒が陽子さんに話しかけた。

慌てて

「陽子さんでしょ」

と他の日本人スタフが彼女に注意するが、

「あんたの名前はアコだっけ? カナダは親しみを込めて名前で呼ぶんでしょ。親しみを込めて呼んでんじゃん」

あくまでも反抗的だ。

注意をしたスタッフの亜子さんは、これ以上言っても相手は聞く耳を持っていないと理解したのか、私達に

「ホストファミリーが持たしてくれたランチを早く食べて下さい。ランチを食べ終わったら、私が引率して電車でバンクーバーダウンタウンに出かけますから。他に質問がある人はここで聞いて下さい」

と言う。

私達は、使われていない教室に案内され、テーブルに座って今朝ホストママに渡されたランチバックを開いた。

どんなお弁当なのかとワクワクしながらランチバックを開けると、意外に質素なサンドイッチが入っていた。

ジップロックに入れられたサンドイッチの中身はハムが1枚入っているだけで、私が日本の学校で遠足に行く時に作ってくれたママのお弁当は、サンドイッチの時は、レタスにトマトにピクルスと数種類のハムが入ったハムサンドと、ゆで卵を包丁で刻んでキューピーマヨネーズで和えた卵サンドと、から揚げにプチトマトが入っているなど、栄養や彩りなども考えてくれていて、別の小さなタッパーウエアにはうさぎ耳に包丁を入れ、色が変色しない様に塩水に浸したりんごが入っていた。なのに、ホストママが作ってくれたサンドイッチは、ハムが1枚しか入っていないではないか。もう一つのジップロックには、生のブロッコリーと人参が入っていた。

これは一体何? とショックを受けていると、他の数名の生徒たちも、私と同じ様な愚痴をクチにしている。

「何このサンドイッチ? イチゴジャムが塗られているだけじゃん。気持ち悪い」

「私なんか、ピーナッツバターよ。食えないし」

「何これ? りんごが丸ごと1個入っているんですけど。どうやって食べろっていうのよ」

様子を見にきたスタッフの亜子さんに

「このランチひどくないですか?」

と生徒が口々に文句を言うと

亜子さんは

「これが、カナダ人が作る普通のランチよ。早く慣れなさいね。食べられないなら、学校の近くにファストフードのお店が沢山あるから、自腹で買って食べるしかないわね」

と言われる。

なんだ、ホストママが意地悪して私にこんな質素なランチを持たせたわけじゃないと知り、それだけでも私はほっとした。

そんな中で、一人の生徒が山ほどの野菜とハムが入った超豪華版サンドイッチを食べている。彼女の美味しそうなサンドイッチを見つけた一人の女子生徒が、

「なんでリカのお弁当だけ超豪華なのよ!」と言い出した。

亜子さんは

「だって、リカのホストファミリーのポリシーは、ランチは自分で作って下さいだから、リカは早起きして自分で作ったのよね?」

と言うではないか。

「え? 自分で作ってもいいの?」

と誰かが言い出した。

「日本の代理店のスタッフから聞いているわよ。ホストファミリーのプロフィールを配布した時に、備考欄にランチは自分で作って下さいと書かれているホストファミリーは、リカ以外の生徒全員のご両親から断られた」

って。

そういえば、ママが言っていたことを思い出した。

「ホームスティ代金を支払っているのに、なんで美紅ちゃんが自分でランチを作らなければいけないの。そんな意地悪なホストファミリーになんかに、美紅ちゃんを預けられないわ」

と言っていたのは、こういう意味だったのか。

「なぜ、リカのホストママはリカのランチを作ってくれないの?」

とリカに聞くと

「私のホストファミリーには、私と同じ年のホストシスターがいるんだけど、彼女も高校に持って行くランチは自分で作らせているから、リカも作り方は教えるから自分で作ってね、と言われたの。でもお陰で、ホストシスターと仲良しになれたから、それに今日みんなのランチ見せてもらって、私は自分で作れるから超ラッキーだと思ったわ」

と言うのを聞いて、ランチを作ってくれないから悪いホストファミリーと思う考えが正しくないことを学んだ。

そして色々な生徒たちのホームスティ先の様子を聞かせてもらい、私のホストファミリーはかなり良い家族であることも改めて感じた。そのホストママが作ってくれたランチなのだから、きっとこれがカナダ人の食べる普通のランチなのだろう。

「ランチは自分で準備しても良いですか?」って、英語で何と言えば良いのだろう。早く英語を身につけなければと、質素なランチにめげず結構私は前向きだった。


ランチを終えると、亜子さんが私たち10名を連れて、電車(スカイトレイン)に乗ってバンクーバーダウンタウンに連れて行ってくれた。

「今日入学してきた留学生のスケジュールは午前に行われた英語の試験だけです。君たち以外の新入生たちは帰宅しましたが、バンクーバーサポート校に入ってきた高校生は、私がこれから電車の乗り方を教えますので、切符の買い方、電車の乗り方、などを覚えて下さい。バンクーバーダウンタウンまでは、電車で約40分です。ダウンタウンまで行ったら、牛丼屋もあれば山頭火のラーメン屋もあるし、日本のコンビニまであるから。週末に友達とダウンタウンに出かけて、ホームスティ先では決して味わえない日本食を食べたりしたら良いと思うわよ」

と亜子さんが教えてくれた。

それを聞いた私達はテンションMAXで、そんな私でさえ気になったくらい、他の女子生徒たちは車内では大声ではしゃぎまくり、亜子さんは何回も

「他の乗客に迷惑だから静かにしなさい」

と言い続けたが、静まる気配はなかった。

きっと同じ電車に乗り合わせたカナダ人は私達が何を話しているかは分からなかっただろうけれど、見苦しい留学生に見えたことだけは間違いはないだろう。

そんな中、一人の女子生徒が

「あ、ブラジャーのホックはずれた」

と言い出し、車内でTシャツをめくりブラジャーのホックの位置を胸の前に移動して留め具をはめだした。

グレイターバンクーバーを走るこの電車は、スカイトレインと呼ばれるそうだ。

サレーセントラル駅で乗車し、電車はウェストバウンド(西)に向かっている。

スカイトレインは無人電車で、コンピューター制御で走っていると亜子さんが説明してくれた。駅には改札口もなくて、乗車前にしたことは自動販売機で切符を購入しただけだ。

改札口がないなら、次にダウンタウンに行く時には無賃乗車が出来るかと思っていたら、黒人の裸体の大きなスカイトレインのロゴ入り制服を着用した人が車内の検札にやってきた。

亜子さんは

「時々こうやって検札があるから、無賃乗車してやろうと今思っている子がいたら、見つかったらとんでもない額の罰金を請求されるから気をつけなさい」

と言われた。

亜子さんは既に私達がしようとしていることを見抜いていた。

そして、亜子さんはグランビル駅で私達を連れて下車した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る