第九話 プラスチックな夜

夕方近くに彼女が起きだしたので、さっきのこともあって……。

外に食べに行こうと彼女を誘う。高いものは奢れないよと僕がいうと「いいよー」と嬉しそうについてきた、ふたりで初めての外食である。

僕らは人目もあるので、ずっとアパートの中でコンビニお弁当とか食べていた。

行きつけの牛丼チェーンのお店に入って、並を二つ注文する。彼女は量が多いからと僕の丼に自分のご飯を入れてきた。

こういうお店って、あんまり入ったことないんだぁー、キョロキョロとあたりを見まわして面白がっている。まったく子どもみたいな女だ。


食べ終えて店をでた僕らは、小雨の中、小さなビニール傘に身を寄せ合って歩いていた。



  【 雨宿り 】


降り止まない雨に

舌打ちして 空を睨む

思い通りにいかないことばかり

心がざらついて

軋んだ音が鳴りだす


苛立てば

心の瘡蓋はがれていく

『 いつも君を想ってる 』

あなたの声が降ってきた

疲れた心に灯りが燈る


泣きたい時は

あなたの胸で雨宿り

小さな傘でも寄り添えば

濡れなくて済むんだ

もうひとりで生きられない



ようやく雨も止みそうだ。僕はさっき言い過ぎたことを彼女に謝ろうか、どうしようか……心の中で迷っていた、悪いと思っているが、どうも言葉が出てこないんだ。

ふいに彼女の携帯が鳴った。

ボストンバッグから取り出して、相手と二言三言しゃべったら携帯を閉じて、ふーっと小さなため息を漏らした。


「わたし、すぐに帰らなきゃあ……」

「そう」

「ありがとう」

彼女は僕の手をギュッと握った。

「じゃあね、さようなら」

ぱっと手を振り払うと、くるりと踵を返し小走りで彼女は去っていく、その後ろ姿に僕は何も言えずに立ちすくんでいた。

急な別れだったので彼女にかける言葉も見つからず……。

たぶん、出張から夫が帰ってくるんだろう、それで彼女は急いで帰って行ったんだ。きっと、今ごろは駅に向かって急いでいるのかな?

雨の日に拾った女だから、どこから来てどこへ帰るのか僕は知らない。



  【 プラスチックな夜 】


汚れちまった悲しみに……

中也の悲しみは

なんだったんだろう?


彼は孤独人

人を欲しながら

人を拒絶していた


誰にも理解されない

孤独な運命を受け入れた

その引き換えに

神から創作の種を与えられた


深層に潜む

妄想の中の わたしに会いに行く

彼女はいつも

泣いてる! 叫んでる! 怒っている!


解放されない言葉は 澱のように淀んで

寸断された思考は 赤く錆びていく


優しさなんか もういらない!

生きる方法より 楽な死に方を!

激しい感情の起伏に疲れ果て

蓑虫みたいに 殻に閉じ篭る


灰色の孤独が骨に 

染み込んで

神経を腐蝕させいく……


プラスチックな夜

干乾びた魂が震えだす

無機質な抱擁で どうか包みこんで!

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