第四話 時空の魔女

久しぶりに朝から雨が降っている。

キッチンでひとり分のコーヒーを淹れながら、僕はなんとなく……。

あの雨の日に拾った女のことを思い出していた。

彼女は僕と、雨の三日間だけ暮らし、そして雨が上がり、傘をたたむように消えてしまった。

テーブルの隅っこには彼女が忘れていった? USBメモリがぽつんと残されている。

「取りにくるのかな?」

熱いコーヒーをすすりながらひと口飲む。なんだか、やけに切ない味がした。


変な女だが、なぜか気になる。

名前さえ知らない、僕が訊いても彼女は教えてくれなかった。

「自分で付けたものではないのに、名前になんの意味があるの?」

彼女はいきなり切り口上でいった。

「だけど……名前は必要だろう」

「わたしの名前を聴いた瞬間から、あなたの中でわたしのイメージは固定されてしまう、だから教えたくない」

「変なこだわりだね」

そんなことにムキになる彼女が可笑しかった。

「ええ、つまらないことに、こだわるのがわたしのこだわり!」


そういうと彼女はパソコンを開いて、僕に詩を読ませた。



  【 メビウスの輪 】


メビウスの輪 

 始まりも 終わりもない

  時はループして 無限となる


愛することも 生きることも

 この世は 何もかも笑える

  追っているのは 幻想にすぎない


しょせん 人は独り

 そう 完璧に孤独だから

  ニヒリストは 絶対に泣かない


メビウスの輪 

 喜びもない 悲しみもない

  時空の魔女 年齢は∞なのさ



「時空の魔女かぁー、やっぱしナルシストだな」

彼女の書いた中二病みたいな詩を思い出し、くすっと笑う。


降り止まない雨のせいで、彼女のことをぼんやり考えている僕。

窓の外で雨音がする。

ポツ ポツ ポツ ポツ ポツ……


窓ガラスに雨粒が落ちて、涙のように零れていく……。

なんだか人恋しい。

ポツ ポツ ポツ ポツ ポツ……


規則正しくリズミカルな音だなぁー

あぁ、いつの間にかコーヒー冷めちゃった。

コツ コツ コツ……


耳を澄ますと、ドアを叩く音が混じっている。

あれれ、誰だろう?


ワンルームの僕の部屋は玄関まで一直線だ、ドアチェーンを付けたまま細めにドアを開く。

「はい、どなた?」

「忘れ物を取りにきたの……」

ドアの外に、自称詩人の女が立っていた。

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