3.
その時……「ぐぅーっ」という音が聞こえた。
反射的に音の発生源を凝視してしまった。
発生源は、間違いなく彼女のお腹だった。
隣でウエシマが我慢しきれず「クックックッ」と笑い声を漏らし始めた。僕は奴の脇腹を肘で突き「おい、失礼だろ」と小声で言った。
少女は視線を下げて自分の腹を見つめ、軍手をした右手でさすった。
「あのぅ……」
少女が再度視線を上げ、僕とウエシマを交互に見て言った。
「お腹が
「は、はぁ……」交互に見つめられた僕とウエシマが生ぬるい返事を返す。
「ご飯を頂けませんか?」
「はぁ?」これは困惑のあまり思わず出てしまった
「あ、あの……なに言ってるんスか?」とウエシマ。
「お腹が
ウエシマは「あ……ああ……」と
今にも頭の横で人差し指をくるくる回しそうだった。
(こんな訳わかんない
僕は、どうしようか迷った。
確かに、この女の子、どう見ても怪しい。
ハザード・ランプ点けっぱなしのゴミ収集車に、灰色のツナギ服と軍手とコンバット・ブーツ。
通りがかりの僕らに、いきなり「飯を食わせろ」と言い、
こういう手合いとは関わらないに限る。
そうだ。
さっさと家に入って玄関に鍵をかけよう。
それが正解……分かってる……でも……分かってるんだけど……
ぐずぐず迷っていると、ウエシマが「あっ、そうだ!」と大声を出してポンッと手を叩いた。
「俺、急用があったんだ。忘れてたわ……
要するに、煮え切らない僕を置いて単独離脱しようって訳だ。
「あ、それから、お嬢さん」ウエシマが最後に俺の肩を叩いて言った。「こいつ、フジロウって言うんです。家は……ホラ、すぐそこのアレです。アレ……しかも、コイツ、お嬢さんに一目惚れしてます」
「ハァーッ?」僕は目をギョロッと
言語中枢が壊れた。
人間は、脳みそがオーバーヒートすると冷却のため血管が膨張し、顔が真っ赤になる。
僕の顔は真っ赤だった。
鏡を見なくても分かる。
チラッと少女を横目で見た。
真っ赤な僕の顔をジッと見つめていた。
「コイツなら
僕とツナギ服の少女だけが残された。
冬の午後。日の傾いた住宅街。
「あ、あの……もし良かったら、僕ン
いきなり僕は何を言い出すのか。
とうとう脳みそが熱暴走し始めたのか。
「大したものは無いけど、でも何かしら食べ物くらいあると思うんだ」
もう一度、自らに問う……僕は何を言ってるのか。
「ほら、これが僕の家」
ツナギ服の少女がググッと僕に近づいた。
顔もググッと近づいた。
「ありがとうございますっ」
ググッと近づいた顔がペコリと下がってお辞儀をした。
もう
僕はクルリと後ろを向き、数歩先にある我が家の玄関に向かってロボットみたいなガッチガチの動きで歩いた。
ツナギ服の少女が僕の後について歩いた。
僕は……さっき少女が言った『ご飯を食べさせてくれたら何でも望みを叶えてあげる』という
(本当に、何でも望みを叶えてくれるのか?)
チューさせて下さい、とか。キスしても良いですか、とか。
すっごく気持ち良いことしてあげるから目を閉じてごらん、とか。
……そういうキモい望みでも叶えてくれるのか……な?
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