【Ⅲ】贈る
岬の突先から眼下の海を見下ろす。
今は穏やかなこの海が、昔一度だけ荒れ狂い、ある家を飲み込んだことを覚えている人は、他にもまだいるだろうか。
草に埋もれてしまった慰霊碑を撫でるこの手も、いつの間にかこんなに皺だらけになってしまった。随分と待たせてしまったようだ。
「ごめん。でもやっと決心がついた」
不器用なりに包んだ贈り物に手紙を添えて、海へと投げ込む。
あの日、内緒で贈る筈だった誕生日祝い。君の故郷で美しいと評判の珊瑚を用いた腕輪は、きっと今の君にも似合うだろう。
どうか、今も色褪せないこの想いと共に受け取ってほしい。
まだ、君からの迎えは来ない。
でも、いつまでも、いつまでも、君の訪れを信じて待っている。
───ありがとう いとしい あなた
あわになる ことばで あいを おくりつづける
【了】
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