番外編七~かれん視点~
ここは神奈川県茅ヶ崎のある所にある一軒家。
この家には私と夫の二人で仲良く暮らしている。
「たすく、おはよー」
「ん...あぁ、おはようかれん」
「もうごはんできてるよ」
「あぁ、ありがとう。すぐ行くよ」
「うん、準備しておくね」
それから、私たちは朝食をとった。
今日はたすくの大事な商談が入っている━たすくは茅ヶ崎建設という建設会社の営業へ務めている━ため、お弁当にはたすくの好きな揚げ餃子を入れておいた。
“これで商談が成功するといいな”
そんな願いを込めたお弁当。
「それじゃあ、行ってくるね」
「うん、気を付けてね」
「分かった」
そしてたすくは家を出て行った。
それから私は、朝食で使ったお皿や調理器具を洗った後、部屋の掃除を始めた。
(あぁ、これが終わったら何をしようか...)
私は掃除の途中でそう思い、頭の中を巡らせた。
暇だと嫌だから、本を読むことにした。
すると...
━━ガタガタ...ドォォォォォォォォン!!!
大きな音とともに激しい揺れが私を襲った。
そして、しばらく経ってから揺れが収まった。
(あ!こうしちゃいられない!)
私は大慌てでテレビがある居間へと向かった。
テレビを付けると、アナウンサーが話していた。
「大津波警報です!大津波警報が出ました!沿岸部にお住まいの方は直ちに高台に避難してください!危険ですので海には近付かないでください!大津波警報です!」
(え...お、お、大津波警報!?しかも家のすぐ近くの海岸に!?)
混乱した私は何も持たずに家を飛び出た。
━━━急いで高台に向かった私は、ギリギリ津波が到達する前に高台に着いた。
その高台は普段は住宅街を見下ろす場所で、老人の憩いの場でもあった。
住宅街を見下ろす場所には、落下防止の柵が設けられてある。
そこには、二十人くらいの人がいた。
私はそこにいる人と少し話していた。
おそらく三十分程経った頃だろうか。
「あ!あれを見ろ!」
と言う声で目線を声の方へと向けた。
その方向には、海がある。
きっと津波が来ているのだろうと思い、目線を向けていると、なんということだろうか、高台の柵より少し高い波が押し寄せてきているではないか。
パニックを起こした私は何をすればいいのか、頭が回らなくなっていた。
「見な!落ち着くのだ!みんなで柵から離れれば良い事だ!」
大きな声でそう叫んでいたのは、一人の老人だった。
私は一瞬ポカーンとなったが、すぐに指示を仰ぐことにした。
そして、皆が離れた頃
━━バシャァン!
という音と共に波が高台へと浸入してきた。
再びパニックを起こしそうになったがグッと抑えた。
幸か不幸か波は離れた場所に少し及ばず、戻って行ってしまった。
私が引いていく波を目で追っていると...
「え、あそこ...人が...人が倒れてる!」
私は思わず声を上げてしまった。
「なんだと!...事実なのが悲しいが」
(え、でも、確か、高台に居る人ってみんな柵から離れていたはずだから、これは波に連れてこられたのかな...?それに、服装的に男性かな...?)
私は一人で結論を出し、一人で納得していた。
それから、その男性を男性三人で柵から離した。
そこへ、さっきまで叫んでいた老人がその男性へと近付き、隣にいた女性が持っているカバンを開き、その中から注射器を出し、その男性へと刺した。
それから、しばらくして、その男性が目を覚ました。
「あ、目が覚めたかい?」
「あ、はい...あなたは?」
「儂かい?儂は医者だ」
...「「「「「えぇ!!???医者なのぉぉぉぉ!!!」」」」」...
「こら!騒ぐんじゃない!」
みんなに混ざって私も驚いてしまった。この人、医者だったんだ...
「あの、俺津波に流されていたはずですけど何故ここに?」
「儂らもよく分からん。波がこの高台に入り込んで、その波が引いて行ったら君がいたからな」
「そうだったんですか...すいません」
「良いんだよ、自然とやらは無限の可能性を持っているからな...」
「そうなんですね」
(津波...やっぱり多分波に流されてきたのか...)
それからその男性と談話した。
彼の名前はたけるくんだそうだ。
高校一年生、そして埼玉から遊びに来ていたという。
不幸に...
付き合っている彼女がいるらしいが、どこに居るのか分からないらしい。
と言う内容だ。
私はその後、持っているスマポを使ってクチコミなどから情報収集をした。
翌日、クチコミの情報で、彼女さんと同じ名前の人が東京の清瀬市に避難している事が分かった。
私は急いでたけるくんに伝えた。
「たけるくん、きよみさんが居たらしいわよ」
「本当ですか!?」
「でもね、ここからだと、結構遠いのよね。それに...」
ここから歩いていっても半日近く、いや、半日以上掛かるかもしれないのだ。
それに、津波がまだあるから危ない。津波が引くまで待とう。という話で纏めた。
送るのは私がする事になった。
━━そして、一週間後。津波が完全に引いた。
私はその日の朝、その高台から出発する事にした。
「今までお世話になりました」
たけるくんはそう言って頭を下げて、出発した。
とても長い道のりだった。
途中、開いている食堂があった為、そこで食事を取ったり、コンビニなどでお弁当を買って食べたりした。
お金は、全て私が払った。
そして、夜闇が深くなり始めた頃、彼女さんが避難している避難所に到着した。
「たけるさん!大丈夫でしたか!?」
「あ、あぁ...心配かけてすまなかった」
「たけるさんが無事でよかった...」
彼女さんがたけるくんに近づき、安堵した表情でたけるくんを見ていた。
「あなたがきよみさん?」
「は、はい!あの、たけるさんをここまで連れてきて下さりありがとうございます!」
「いいのよ。実はね...」
そして、彼女さんと二人きりでたけるくんから離れて話した。
そこで、彼女さんにたけるくんの事を話した。
津波で高台に流されてきたこと、クチコミで彼女さんのことを知った事、ここまで来たこと。
そして、話し終わって戻るとちょうどたけるくんも外から帰ってきていた。
「たけるさん、帰りましょ。もう、ここにいる必要は無いでしょ?」
「あぁ、そうだな。...どうもありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」
「えぇ。気を付けて帰るのよ」
「はい。ありがとうございました」
二人は深々と頭を下げ、帰って行った。
私は二人の仲がいい姿を見て、昔の私とたすくのことを思い出してしまった。
(ああ、いけない、たすくに連絡するのをすっかり忘れてた。大丈夫かな...)
色々とパニックで忘れていた事を思い出し、たすくへと電話した。
「現在、電波の届かないところか、電源が入っていないため、繋がりません」
と言われ、切れてしまった。
(たけるくんみたいに津波に流されたとか...?いやいや、そんな訳が無い...よね...)
私は東京から急いで茅ヶ崎の高台へと帰った。
避難指示が出ているため、避難指示が解除されるまで高台で過ごす事にした。
その間、たすくに何度も連絡したが、全く繋がらなかった。
きっと、充電切れになってしまったのだろう
そう思って、避難指示が解除されるまで待った。
食事などはトラックごと届いた。
━━━約三ヶ月後、避難指示が解除され、私は自宅へと帰ることになった。
自宅につくとそこは...
「更地...うぅ...たすく...どこなの...たすく、生きているなら帰ってきてー!!」
自宅は流され、更地になっていた。
私は感情が溢れ出してしまい、涙を流しながらたすくを呼んだ。
「かれん!!」
すると後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返るとそこには...
「た、たすく!」
「かれん!大丈夫だったか?怪我はしてないか?」
「うん。たすく...電話、したんだけど...」
「あぁ...ごめん、充電するの忘れてて、地震が起きた時点でもう電源が切れてたんだ...心配したんだろ?電話に出なかったから。」
「うん...でも、無事でよかった...」
そこにはたすくが居た。
私はたすくと再会することが出来た。
━━━それから私達は引っ越すことになった。
茅ヶ崎から離れ、中国地方へと引っ越した。
そこで私達がずっと幸せに暮らせると信じて、今日も一日過ごしていきました。
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