十五話目

たけるの叔父の泥棒事件から二ヶ月経過した。

あれからたけるはきよみと一回も話さなかった

原因はやはりたけるの叔父の事件だった...


「はぁ...」

「何よ、きよみ。またたけるくんの事で悩んでるの?」

「うん...」

「ここ最近、なんか一人になってる姿をよく見るよね...たけるくん」

「うん...」


学校できよみとゆなが話している。

内容はたけるの事だ。

あの事件の事は、誰にも話していない。

迂闊に話してしまったら、たけるを傷付けてしまうのではないかという事を恐れていたのだ。



━━そういえば...


そういえば、もうすぐ夏休みになる。

ふときよみが思っていると、ある事を思いついた



放課後、きよみはたけるの元へ向かった。


「あ、あの...たける...さん」

「...」

「あの...?」

「...」


きよみはたけるに話しかけるも、たけるは机に突っ伏したままで、何も返事がない。まるで、屍かのように


「たけるさーん」

「...ボソボソ、ボソボソボソッ」


ゆさゆさとたけるを揺らすとたけるは何か言った


「え?」

「...すまない、一人にしてくれ」


きよみが耳を近付けると、たけるの言っている事が聞こえた。


「嫌、と言ったら?」

「...何?」


たけるはムクリと体を起こした。

そして、少し怒ったかのような顔できよみを見つめる。

対して、きよみは頬を膨らませていた。


「どうして...」

「...」

「どうして、避けるんですか...」

「......どうして...つってもなぁ...とりあえずごめん、今の時点ではどうしても言えない事が起こってたから、その整理が付いてから話をさせてくれ...」

「...分かりました、私もそんなことが待てない狭量な女では無いので」

「...ごめん」


たけるはきよみの顔を見てハッとした表情になっていた。


「とりあえず、本題へと移りますが...今度の夏休み、どこか出かけますか?」

「...それはまたなぜだ」

「今、たけるさんは何か大きな『悩み』を抱えている様なので、気分転換にと思って...難しそうですか?」

「そうだね...」


そしてたけるは考え込み始めた。


しばらくして


「まぁ、良いだろう」

「やった!ありがとうございます!」

「あ、あぁ...」


たけるの答えにきよみはテンションが上がったようでたけるの手を握り上下に振り始めた。


そうして、きよみの気分転換作戦が幕を開けるのであった...

さて、たけるはこれから先、何か悪いことが起こりそうな予感がしているが、喜んでいるきよみを前にしては何も言えなかった。



━━━それから一週間掛けてきよみとたけるは出かけるための計画を立てあげていた。

まるで悩みがなかったかのようにたけるはきよみと計画を立てていたので、きよみは一安心していた。


━━計画としてはこうだ


・夏休みに入ってすぐは宿題に徹する

・宿題が終わり次第遊びまくる

・行先は海など



「こんな感じですかね...」

「そうだな、楽しみだな」

「そうですね!」


きよみとたけるは話し合いの最後にそう言って話し合いを終えた


━━━それから約二週間後の七月下旬...


その日、きよみ達は一期目の終業の日だった。

教室に対して感謝の気持ちを込めて大掃除をしたり、全校生徒が集まって、荘厳な終業式をし、一期目最後のホームルームで一期目の振り返りをして、一期目最後の学校生活を終えた。



━━それから、きよみはたけるの所へ行った。


「たけるさん!帰りましょう!」

「そうだな」


そして二人は一緒に学校から帰り始めた。


「そう言えばさ、きよみさん...なぜ、俺を...俺なんかを出かける計画に入れてくれたんだ?恋人同士だから?それとも...」


たけるは心の奥に秘めていたあることについて、打ち明ける事にした


「それとも、気分が沈んでいる俺を見て同情してるのか?」

「いいえ、そんな事は無いです。決して!」

「そうか、それなら良かったけど...」


たけるの問いにきよみは即答した。

たけるは安堵の表情できよみを見つめた。


それから二人は、夏休みの最初の十日間を宿題を終わらせる為に潰した。


そして、待望の日、出掛ける日になった。


「さあ、たけるさん。今日から出掛けますよ!」

「そうだな、荷物の準備は出来てるよ」

「じゃあ行きましょう!」


二人は神奈川の相模湾へと向かった。


「着きました!相模湾!」

「そうだな、相模湾。結構広いな」

「そうですね。着替える場所は...あ、あった!」

「じゃあ、着替えに行こうか」

「はい!」


そして二人は更衣室へと向かい、水着へと着替えた。

たけるときよみは二人で水泳競走をした。

たけるもきよみも泳ぐのが得意なようで、勝敗がつかないという事態になった。

そのうち、二人は飽きてきたようで海から上がってきた


「はー、たけるさん速いですね」

「きよみさんこそ」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、これからどうする?」

「じゃあカフ」


━━ズドドドドォォォォォンンン!!!


そんな音とともに二人に大きな揺れが襲った。

二人とも思考が停止しているのか、唖然としていた。

たけるがはっとなり、こう言った


「地震だ!」


と。

きよみもはっとなった。


「や、やばいじゃないですか!に、逃げないと...」

「そうだな!早く逃げ...は!?あ、あれは...」


きよみがオドオドしていると、たけるが避難誘導をしようとしていると、たけるが海を指差した。

きよみがそれを見るとそこには...


「「つ、津波!?」」


二人、声を揃えてそう叫んだ。

津波は無情ながら二人へと徐々に近付いて行っていた。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」


二人は走って津波から逃れようと走り始めた。

しかし、津波が速いようだった。二人は津波に巻き込まれてしまった。

きよみは、途中にあった信号機に辛うじて捕まったが、たけるはそのまま流されてしまった。


━━きよみは、力の限り信号機を登って行った。

なんとか水の上へと辿り着いた。

津波の勢いはとても速く、家が次々流されて行っていた。


(これが津波の威力...なんてこと...そうだ。た、たけるさんは...)


その現実を見たきよみは唖然としてしまった。

そのうちはっとなりきよみはたけるが流されて行った水の進行方向を見つめた。


(たけるさん...大丈夫かな...)


しばらくすると、ヘリコプターが飛んできた。


「ここにいまーす!助けてー!!!」


きよみは必死にそう叫んだ。

叫ぶのも虚しく、ヘリコプターは通り過ぎて行った


(...どうしよう、ずっとこのままなのかな...)


きよみが悲観していると、さっきのヘリコプターが戻ってきた。


「ここでーす!助けてー!!!」


きよみに気付いたらしいヘリコプターはきよみへと向かってくる。

きよみの頭上へと着くと、ハシゴらしきものが落ちてきた。


(これで登れと?)


きよみが登ろうとしたら上から


「こっちから向かうのでそこで待っててください!」


と言われたのできよみは大人しく待つことにした。

一分足らずできよみの所へ救助員が降りてきた。

そして、きよみを背中に背負ってハシゴを上がって行った。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「いえいえ、これが仕事ですから」


救助員と話していると、きよみはヘリコプターへと到着した。

ヘリコプターには運転手ときよみを助けた救助員を含めた二人の計三人が乗っていた。


「助かった...」

「ここまで来ればもう大丈夫です」

「ありがとうございます。あの、なんとお礼を言ったらいいのか...」

「いいんですよ、これが我々の仕事なのでお気になさらず」

「本当にありがとうございました」


きよみが深々と頭を下げているともう一人の方の救助員が返答した。

そして、きよみは津波から逃れた東京のとある地域の避難所へと避難した。


「ここまでどうもありがとうございました」

「どういたしまして、気を付けてね」

「はい!」


きよみが再び深々と頭を下げた。

救助員の一人が笑顔で答えた。


きよみはそこの避難所の人達と色々と談話を交わした。

途中、たけるのことを聞いてみるも、まだなんの情報もないのか誰も知らなかった。

ある人から「もうその人、死んでるかもね」などという薄情なことを言われたが、きよみは心の底からたけるが生きている事を信じていた。


翌日、ある線からある話が入ってきた。


『たけるくんが見つかった』


と。

きよみはその人に情報提供をお願いした。


すると、たけるは海から離れた所の高台に流されていたそうだ。

流されたという表現で良いのかと思いながら聞いていた。

今は津波がまだ残っている為、引くまで待つ事になった。


きよみはたけるの情報を持ってきてくれた人と談話していた。

たけるの事など色々な話をした。



━━約一週間後。たけるがいる地域の津波が引いたそうで、たけるが女性に連れられて来た。


「たけるさん!大丈夫でしたか!?」

「あ、あぁ...心配かけてすまなかった」

「たけるさんが無事でよかった...」


きよみが再開した事に喜んでいると、たけるを連れてきた女性が話しかけて来た。


「あなたがきよみさん?」

「は、はい!あの、たけるさんをここまで連れてきて下さりありがとうございます!」

「いいのよ。実はね...」


女性はそこから、たけるがどうやって高台に着いたのかを教えてくれた。


・高台に避難していると、高台の高さくらいの津波が押し寄せてきていた。高台の壁に強く衝突し、波が高台へと侵入してきたらしい。しかし、高台に衝突した衝撃で勢いを無くしたのか、高台に侵入してきた波は引いて行ったそうだ。

・波が無くなる頃、高台の柵に人が倒れているのを発見したそうだ。男性で、見た目は高校生のようだった。彼女の独断で津波に流されて高台に着いたと判断したそうだ。その場に居合わせた医師により応急処置を施された。応急処置を施したのが幸を喫したのか、少ししてから目が覚めたそうだ。

・インターネットの口コミにより、きよみのことを見つけた。

彼に確認すると彼女という事が発覚。しかし、連れていくにも車も何も無いため、徒歩で連れて行くことになった。

・徒歩で行くにも津波があると危険な為、津波が引くまで待つ事になった。


そして、今に至る。と言う話だった。


「そうだったんですね、大変でしたね...そんな中ここまで来て下さりありがとうございます」

「いいのよ、ここあたりに知り合いがいるから土地勘はあるのよ」

「そうなんですね」

「えぇ」


「たけるさん、帰りましょ。もう、ここにいる必要は無いでしょ?」

「あぁ、そうだな。...どうもありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」

「えぇ。気を付けて帰るのよ」

「はい。ありがとうございました」


きよみとたけるが一緒に頭を深々と下げた。

そして、二人は埼玉へと帰った。


━「「大変だったね...」」━


二人はそう呟いて自宅へと帰った。

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