手袋
植物を触れない手をまじまじと見ていた
手袋という物を知らない頃の話
近づけば朽ちると
いつも壁に身体を預け、土を踏み
生き物に触らないよう心掛けていた
触らなくても死んでしまう事はあったけれど
自らの手で『何か』が死んでしまうのが
虚しくて嫌だった
どんな喜びも一瞬で砕かれ絶望を味わい
それが足を引きずるなら倒れてしまいたい
けれども当時は死を齎す自分が、己も死ねるとは思ってはいなかった
何度も言い聞かされた『化け物』という言葉と
知識のなさ、知ろうとしない愚かさ
摂取しようなど考えもしないほど心の海は波も立てず静まり返っていた
ぼんやりとした、言われることだけをしていく日常を
ここの人たちは歩調を同じにしてくれた
無理強いをせず、ただあるがままにしてくれた
ただ『死』だけが霧のように身体を包み込んでいる
服装も言われるがままに着ていた
今なら一月は寒く、足は痛く、手はかじかむ
肌は刺されたように痛い、それが分からなかったこと
今なら赤くなった手に息を吹きかけ「手袋をつけなくちゃ」と
思うだろうに、当時は思わず、感じず、帽子を被りながら、そこに居た
僕に手袋をプレゼントしてくれたのは――さんだ
特製の手袋で――さんが研究して作ってくれたと言う
「ああ、真っ赤じゃないか」別段、怒ることもなく
――さんは懐から手袋出して、手に着せてくれた
小さい手に似合った、少し薄手の手袋だった
元より冬着としてではなくて、僕の特性を抑えるためだけの手袋で
装着したのを見た――さんは、僕の手を引いて植物がある所まで引っ張り
「大丈夫だよ、触ってごらん」と一本の花を抜き掲げた
触れば茶色くなるのに、そうぼんやりとした考えで花を受け取ると
花は色を変えず、あるがままの存在で目の前にあった
初めてのことで目を丸くしていると――さんは微笑みながら「今度、お花見いこうね」と言い
僕の空いている手を引いて
「――さんに見せに行こう、――にも研究成果でたって言わないとね」
そう言った
花と――さんを交互に見ながら動揺している僕に――さんは微笑んでくれた
「プレゼントだよ」
それがどちらかのことか、そんなのはどうでもいい
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