34.テロリスト
「そんじゃ、これで講習も終わりだ。以上がうちの会社のやることの全て。で? どうする? 有馬侑」
「どうするって?」
「やるか、やらねえかだよ。抜けるなら今のうちだぜ。てめえも分かっただろ? あたしらはテロリストだ。この会社で働くってことは、そういう行為にてめえ自身も加担するってことになる。それでもいいなら、歓迎だ」
「テロリスト……」
思わず復唱する。
テロリスト。暴力によって目的を達成しようという集団。まさか自分がその活動を行うことになろうとは、生まれてかれこれ二十年、一度も思わなかった。
「テロっつっても暴力を行使しようってんじゃねえ。あたしらがやることはキャラクターを作ること、ただそれだけだ。そんで、別に三次元を支配したからって、血祭りを開催しようとかは考えてねえよ。むやみに三次元の奴らをぶっ殺そうとかは思ってねえ。ただ、殺そうと思えば殺せる状況を作り上げようってだけだ」
「……」
私は黙り込んだ。
社長が畳みかける。
「特別なんだぜ? あたしが、あんなクソみたいなキャラを自身満々に惜しげもなく披露した人間を雇ってやろうってのは。これがウィンウィンの関係ってやつだ。てめえは職にありつける。そんで、あたしらは目的を達成できる。お互い損してねえだろうが」
「まあ、そうですけど……」
まあ、そうだ。確かにそうではあるのだ。仮に、私がこんなところで働きたくない、テロリストに協力するのなんてまっぴらごめんだ……と、彼女らを拒絶したとしても、外で待っているのはバイト地獄だ。そうなったら私は、未来に何の展望もない、指針もない、専門学校卒のフリーターだ。それよりは、ここで働いた方がまだましというもの。そもそも、私は望んでこの会社に入ったのだ。いや、正確に言えば望んでではないけれど、でも、この会社で頑張っていこうと決心していたことは事実だ。クビにさえならなければ、三週間前にこの講習を受け、そして彼女らの計画に加入、テロに加担していたのかもしれない。
テロ。
そう、これはテロだ。二次元が三次元を転覆しようとする計画。紛れもないテロ行為。しかし違法ではない。この世界の法では、この会社を裁くことはできない。ヒロインワークスを裁くことは不可能だ。
だから、これは倫理の問題だ。私が、城崎きずきと箱根羽子の二人が言うところの『革命』に納得できるかどうかの。
もしくは、これは覚悟の問題だ。二次元の住人である私、有馬侑に、三次元に牙をむくだけの覚悟があるかどうかの。
いや、待てよ。
そもそも、私にこの会社を辞めるという選択肢があるのだろうか。そんな権利があるのだろうか。ここにいる二人はテロリストだ。その計画に、私という存在を必要としている。だったら、何が何でも私を辞めさせないだろう。多少の無理をしてでも、私に手伝わせるだろう。どんな手段を使ってでも、私に協力を強制するだろう。ここは地下だ。それも無人島の地下なのだ。誰もいない。私と城崎社長と羽子さん以外、誰も。だから最悪、ここで二人が私に『何か』をしたとしても、それが外にばれることはない……。
そう考えると……やばい。怖すぎる。
「一つだけ……訊いてもいいですか?」
「あん? 何だ?」
「もし私が『やらない』って言ったら……あなた方はどうしますか?」
「『やる』って言うまでこの部屋から出さない」
「やります」
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