30.再会

「ファミレスでバイトしてたんだね」

「どうして分かったんですか? 私のバイト先」

「ちょっとね。人に聞いたんだ」

 人? 誰だろう。私と羽子さんとを繋ぐ人だ。心当たりがない。そもそも、私と羽子さんは仕事上での付き合いしかないのだ。共通の友人はいない。

 私たちはファミレスのテーブル席の一つに座って、向かい合っていた。目の前の彼女は会社のときと同じスーツ姿で、私はバイト上がりの私服だった。

「それで? 何の御用ですか?」

「うん……話しておかなきゃって思ってさ」

「何を?」

「キャラクターとは何かってことだよ」

「結構です」

 私は席を立った。

「いやいや、聞いてよ! 大事なことなんだから!」

 羽子さんが私の服の袖をつかむ。

「放してくださいよ。もう私はクリエイターでも何でもないんです。キャラクターだとか、二次元だとか、そういったことからは足を洗ったんです。もうきっぱりと」

「侑ちゃんは知りたくないの? 気にならないの? まだ、私、答えを言ってなかったよね。『キャラクターはいつ、どこで生まれるのか』の答え」

「だからもう結構ですって。そんなの、ググれば出てくるでしょ? で、私がそれを知らないってことは、まだググってないってことですよ。三週間という期間がありながらググってないってことは、興味がないってことですよ」

「ググっても出てこないよ!」

「出てきますよ! グーグル先生は万能なんですから」

 ポケットからスマホを取り出した。店のWi-Fiを利用してググってみる。

 結果。

 出てこなかった。何か某有名キャラクターがどの国で誕生したのかといった、クソほどもどうでもいいような記事が多数ズラリと並んだだけだった。

「ね?」

「そう……ですね」

「だからさ、とりあえず座ろうよ」

「……分かりましたよ」

 スマホをポケットにしまう。そしてそのまま、言われた通りに着席する。

「偉い偉い」

 にっこりと微笑む羽子さん。

 ……。

 言わなかったけど。

 決して、言わなかったけど。

 心の中でも言わなかったけど。

 一切、描写しなかったけど。

 何か……うざいんだよなあ、この人。

 男から見ればかわいくて仕方がないのだろう。こういったタイプの女の子は。いや、こういったタイプの『ヒロイン』は。ちっちゃくって、世話を焼いてくれて、表情豊かで……。もし私がライトノベルとかギャルゲーにありがちな『男主人公』だったなら、おそらくこの人と何かしらのラブコメをしていたに違いない。フェミニストも真っ青な不健全極まりないスキンシップだとか、やれやれ何なんだよこの女はとか言ってなんやかんやで仲良くなって触れ合って顔を赤らめてだとか新キャラ登場だとかイベントイベントイベントハプニングハプニングハプニングあれやこれや。

 まあ、ないけど。

 私、女だし。

「閑話休題」

「え? 何?」

「何でもないです。それで? 話っていうのは?」

「ああ、そうだね。説明するね。二次元とは何か。キャラクターとは何か。コンテンツとは何か。そして、うちの会社、ヒロインワークス株式会社とは何かってことについて」

「……」

 こうして、羽子さんは語り始めた。

 真実について。

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