27.実演と評価

 舞台設定を実行する。

 外の空間がそれに合わせて変更される。

 設定ノートを開く。

 そして私は。

 鎖肉爪鷹になった。


(中略)


 鎖肉爪鷹の一連の活躍を見終わった二人は。

 私の上司と先輩社員の、二人の反応は。

「……」

「……」

 と、いうものだった。

 いや、分からないか。

 解説しよう。

 二人とも、微妙な表情をしている。絶妙な表情ともいえる。

 まず、羽子さん。つい一週間ほど前に『超魔術貿易王ジュピター』の本文を読み終えたときとまったく同じ顔をしていた。両目が横線のようになっていて、汗が地球の中心に向かって真っ逆さまに滴り落ちており、口をもごもごさせている。

 そして、社長。真顔だった。サングラスを外し、素顔を晒しながらの、真顔だった。能面のようだ。表情らしき表情がない。読み取れない。魂が抜けてしまったかのように、人形のように、ただただ私を見つめている。

「いや、あの……」

 恐る恐る声をかけてみたが、反応がない。どうしていいのか分からないのだろう、向こうさんも、そして当然ながらこっちも。

 白い正方形タイルがびっしりと敷き詰められた地下空間で、三人の若い女衆がただただ突っ立っているという、世にもシュールな光景がそこでは展開されていた。

「ま、まあね。良薬は口に苦しっていうしね……」

 羽子さんが苦し紛れの意味不明なフォロー(?)を、小声で呟いた。

「何? そのクソみたいなキャラ」

「っ!」

 ストレートな社長の罵倒に、横に立つ羽子さんが素早く反応した。顔をグルんと九十度、とんでもない角速度で回転させて社長の方を向いた。「それを言っちゃあおしまいだあ!」と言わんばかりに口を大きく開けている。目を見開いている。

「てめえさ……それ、マジでやってんの?」

「……いや、私は……まあ、そういうつもりだったんですけど……一応」

「一応じゃねえよ。大真面目にやってたかって訊いてんだよ」

「……はい。真面目にやってました」

「真面目にやって、それでできたのが今の?」

「はい……」

「そうかい、そうかい……」

 ふうーと息を吐く社長。腕を組んで、顔を上げて、天を仰いで、そして、顔を降ろして、私を見据えて、そして、一言。

「クビ」

 妥当だと思った。

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