四月五日(金)

22.情熱

 キャラクター作りを進めていく。鎖肉爪鷹というキャラクターをより魅力的にするために、より詳細に、その設定を詰めていく。

 それと同時に、爪鷹の魅力を最大限に引き出せるような『舞台』を用意する。セット、バック、背景だ。爪鷹が暗躍する街。どこでどういった行動を取るのか、その具体的なビジョンを形作っていく。N県の某市に事前調査に繰り出して、細かい調整をする。試しに爪鷹になってみる。実演。実演。

 それとは別に、また同時に、爪鷹の魅力を最大限に伝えられるような『かませキャラ』を用意する。

 演出を考える。キャラクターがより魅力的に見えるようなシーンを考え、それを実演する。

 それを、社長に見せる。

 それを、読者に見せる。

 私が作ったキャラクターが本当に素晴らしいものであるならば、そのキャラの『シーン』を読んだ三次元の読者に、大きな影響を与えることができるはずだ。その読者というのがクリエイターだったならば、その人が作る、こことはまた別の『二次元』に、そのキャラは生まれ落ちることになるのだ。

 二次元が三次元に干渉する。

 それが本当にできる。

 声を上げることができない二次元。三次元に従属している二次元。三次元の掌の上にいる二次元……そんなか弱い世界の住人である二次元キャラが、私たち二次元キャラが、三次元の世界に干渉できる……かもしれない。

 そう思うと、この会社、ヒロインワークスはとんでもない企業かもしれない。未だかつて、どんな二次元の世界にも、こんなことを企む会社なんてなかっただろう。

 そんなヒロインワークスが最終的に作ろうとしている『究極のキャラクター』とは、一体どういうものなのだろう。

 究極のキャラクター。それに、社長か羽子さんがなり切ったとしたなら? それを読んだ三次元の読者に、何かすごい影響を与えられるのだろうか。

 ううん……。

 まあ、それを考えるのはやめておこう。社長にも言われた通り、今、私がやらなければならないのは『キャラクター作り』だけだ。魅力的なキャラ、斬新なキャラ、面白いキャラ、私が思う最高のキャラ、至高のキャラ。それが完成すれば、それが本当にいいキャラだったなら、きっと二人は私を認めてくれるはずだ。新人ではなく、一人の社員として。

 凝ろう。こだわろう。やり込もう。

 社会人は地獄だなんだと言っていた高校時代の友達がいたが、案外悪いものじゃないなと思う。こうして仕事に熱中するのも悪くない。

 なるほど、私が凝り性というのは、どうやら本当のようだ。

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