7.直接指導、その二
「と、このようになるわけ。これが私が作ったキャラクター設定の『生命伝承』。主の血を浴びた物体が、その見た目に応じた生命を持つって能力だよ。当然『生きる』わけだから、このように血液から内臓までもが生み出されるって設定なんだ」
ニコニコ笑顔で血まみれの両手を使って説明する箱根羽子さん。左手首に巻かれた、血に染まった包帯を解いて、
「そしてこの包帯が特殊なやつで、主の血を吸っても生命が宿らないんだ。それと同時に止血もできるって優れもの。ほら」
解いた後の左手首を私に見せつけてきた。見ると、確かに、傷口は綺麗に塞がっていた。さっきの『行為』を何度も行ったためについたと思われる、傷跡が複数確認できた。
いや……それにしては、数が多くないか?
……。
ま、いいか。気にしないことにしておこう。
「そして生命伝承の力によって生命を与えられた物体は、その生命を失うと、元の物体に戻るんだ。こんな感じで」
羽子さんが、真っ二つに割れた人形を拾い上げ、私に見せた。さっきまで大絶叫を上げていた人形少女は、すでに普通の……ではないけど真っ二つになってるから……人形の姿に戻っていた。血も消えている。ただしその顔は、断末魔の苦しみにもだえる鬼気迫る形相と化していた。怖い。
「と、以上が私が考えた『キャラクター設定』だよ。こんな風に設定を考えて、きずきちゃん制作の特殊なノートにその設定をまとめて、そしてその設定の持ち主を指定するってわけ。今の設定の持ち主は私だね」
……そういう、ことか。
つまりは、キャラクター設定を考えて、それをまとめる。そしてその設定の持ち主を指定……私に指定して、完成と。これを城崎社長に発表すればいいわけだ。羽子さんの場合は生命何とかという力を考えて、その力の持ち主を羽子さん自身に設定したため、今のような事態が起きたのだ。
リストカット。
随分と痛そうな能力を考えたものだ。てか羽子さん、普通に生きた人形をぶっ殺してたし……。
「痛くないんですか? 手首」
「大丈夫大丈夫。切っても痛くないって設定だから。まあ、リストカットは慣れてるしね」
えへへと小さな女の子のように微笑む羽子さんであるが……何やら壮絶な過去でも背負っているのだろう。さっき見た大量の手首の傷跡……あんまり突っ込まないようにしておこう。うん。そうしよう。
「私ね、昔は漫画家を目指してたんだ。それで挫折して、きずきちゃんに誘われてヒロインワークスに入って……で、その漫画家志望時代に書いてた漫画の設定がこれなんだ」
「血しぶき命ヤドカリ?」
「生命伝承だよ! 何? 血しぶき命ヤドカリって……」
間違えた。そしてネーミングセンスがないのは自覚済みだ。
「と、こんな感じで侑ちゃんも色々考えればいいよ。小説家志望だったんでしょ? そのときのネタをまとめて整理してみたらどうかな?」
「え? 何で私が小説家志望だったって知ってるんですか?」
「え? 履歴書に書いてあったからだけど」
ああ、そうか。一応、私は『ヒロインワークス株式会社』の採用面接を受けたんだった。そのときに自分の経歴はある程度伝えてあった。面接官の正体が謎だけど。
「投稿して没になったネタを洗練してまとめて……みたいな感じですよね」
「うんうん、そうだね。それを一週間後にきずきちゃんに向けて発表って感じ」
なるほど。それなら私にもできそうだ。期間も一週間あることだし。黒歴史……ではなく、小説の新人賞に投稿して落選した原稿から、いいのをピックアップして、まとめて、自分にその設定を宿らせる。
……何というか、これだけ聞くと本当に夢のような話だ。自分が作ったキャラに、自分自身がなれるのだから。コスプレの究極形だ。
「はい。これが侑ちゃんのノート」
「あ、どうも」
城崎きずき特製の『設定ノート』を受け取る。パラパラと開いて中を見てみたが、市販のものと何ら変わりない、普通のB5サイズ大学ノートだった。罫線が引かれた三十枚の。
「じゃあさ、侑ちゃん。お昼行こうよ。もう十二時だし」
「分かりました」
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