第50話 The Last Judgement -Side B-

嘲笑と罵声の中 私はまた歌いだし

何度目かの審議の邪魔をした

判事はパッと見でも分かる程苛立ち

何度目かの退席命令を私に下した


そんなある日の審議の退席直前のこと

私の頬を何かが掠め 私の頬を少し裂いた


壁には鉄の棒が刺さっており

角度から見るに傍聴人席かがこっそり持ち込み

私に向けて投げつけたのだろう


傍聴人席に目を向けると 一人の若い男が目を血走らせ

興奮した様子で喚いていた


妹の仇だ 殺してやる!

俺の前へ出せ 殺してやる!

何が何でもぶち殺してやる!


遺族連中はそんな彼の声に同調し

次々と同じような言葉を吐いた


我等の手で殺す権利を与えろ

我々に復讐の権利を などなど

本当に同じようなものだ


アハハハ ハハハハ

私は思い切り見下した目でもって

そんな彼等を心底嗤ってやった


彼等には無理だ 彼等に人は殺せない

他人を殺す権利を他人に求めている時点で

殺人の為に越えるべきラインを越えられはしない


笑いながら 微笑みながら 鼻唄を口遊みながら 人間を犯し

笑いながら 微笑みながら 鼻唄を口遊みながら 人間を殺し

笑いながら 微笑みながら 鼻唄を口遊みながら 死体をバラし

笑いながら 微笑みながら 鼻唄を口遊みながら 死体を食べる


それらを誰からの命でもなく 誰からの許可もなく

私は私の意志でもってやってきた 殺ってきた

それらを誰からの命であったり 誰からの許可がなければ

踏み出せない者は人殺しになんてなれはしない


そんなに殺したかったのならば あれこれ喋らず

黙って傍聴人席から飛び降りて その鉄の棒で私の頭を砕けば良かったのだ


私の脳漿をぶちまけて 踏みつけて

小便かけて笑えば良かったのだ

それができたか?


アハハハ ハハハハ

私は嗤いながら退席していった

これが最後と知らぬままに


そう 私がいくら道化を演じても

私がいくら審議を邪魔をしても

終わりは突然訪れる


1992年10月4日 私の裁判は終わり

私は52件の殺人罪で死刑を宣告された


判事はこう述べた

彼が犯した途方もない犯罪を考慮すると

彼は刑罰を受けるに値する

私は彼を死刑に処す


その瞬間 裁判所は人気公演のカーテンコールの如き拍手喝采に包まれた


何かがおかしい! 何かがおかしい! 何かがおかしい!

このようなことはあってはならない


今更52人を殺めた事実は誤魔化しようがなく

死刑を免れるには精神異常とされるしかなく そして

事実 私の精神は常人のそれとはかけ離れているだろう


ならば私が受けるのは罰ではなく 治療であり 無罪放免だ

その上で再び人を殺す権利が与えられるべきなのだ


イカサマだ! インチキだ!

お前の嘘なんか聞かねぇぞ!


感情で判決を下す判事に文句をつけたが

判決が覆ることはないまま 裁判は終わった


私は死刑


最後の最後で私に話をする機会が与えられたので

私はとりとめのない話から始めた

私が何故 殺人鬼となってしまったか

一つ一つ話していった


人を愛するのに理由はないが

人を殺めるにはそれ相応の理由が

ないならばそれに至る為の物語が

必ず存在しているからだ


私の中にも勿論それらは存在し

私は一つ一つ 一人一人

思い出しながら話していったのだが


誰も私の話に耳を傾けることもないまま

誰も私の話に心動かされないまま

全て終わった


クズで変態で 国民的な嫌われ者のまま

最初から決められていたシナリオ通りに


私は死刑


嗚呼 私は独り ずっと独り

誰からも悲しまれず

追悼の言葉すら貰えず

地獄へ堕ちる


堕ちるのだ

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