第49話 The Last Judgement -Side A-

裁判が始まってもしばらくは他人事

まるでフィクションの出来事のように感じられた


「サディスト!」「キチガイ!」「人殺し!」

私の姿を見るとたくさんの傍聴人席 観客席からは

雨あられのようなブーイングが浴びせられ


まるで演劇で悪役を「演じている」ようだったので

折角だからと愛想よく手を振ってやった


此度はいつぞやの冤罪の時の裁判とは違う


あの時は年老いたことで薄くなった髪を七三にし

黒縁の眼鏡をかけた固いお役人スタイルで

丁寧な言葉遣いと温厚な振る舞いを心掛け

最上級の紳士であるように演じた


おおよそ殺人を犯したとは思えない

イメージ戦略を施したのだが


連続殺人を犯したと 確実に分かってしまっている今では

そのように演じる意味はないので


虱避けの為に剃り上げられた坊主頭と

モスクワオリンピックの開襟シャツという

カジュアル気味の服装で臨んだ


会場ではまずは静かに

報復防止用と称された檻に入れられた上で

検事や判事 そして野次馬共の声に耳を傾ける


が 大人しく彼らに喋らせてはいけない


今更52人を殺めた事実は誤魔化しようがないので

死刑を免れる為には精神異常しかない


精神鑑定の結果 責任能力を持たない者だ

そう判断されれば死刑は免れることができるが

病院に入れられ 二度と出ることはできない

出すつもりもないだろうが


生きてさえいれば チャンスはゼロにはならない

生きてさえいれば また誰かを殺せるかもしれない

その為なら何でもしよう どんな道化でも演じてみせよう


真面目くさった顔をして検事が喋る中

私は自分のズボンを下して イチモツを晒して叫ぶ

俺は妊娠している!


真面目くさった顔をして弁護人が喋る中

私は隠し持ったポルノ写真を掲げ 自慰を始め叫ぶ

俺は同性愛者じゃねぇっ!


真面目くさった顔をして証人が喋る中

私は高らかにソビエト連邦国家を歌い そして叫ぶ

僕の脳はチェルノブイリに汚染されている!


その上でさらに私の犯した殺人を否定したり

犠牲者数が少な過ぎると喚いたりした


「サディスト!」「キチガイ!」「人殺し!」

たくさんの傍聴人席 観客席からは侮蔑的な嘲笑と

雨あられのようなブーイングが浴びせられたので


悪役は悪役らしく その声に対してさらにどぎつく返し

悪魔のようにカカカカと嗤ってやった そんな私に


判事はパッと見でも分かる程の苛立ちを見せ

裁判を侮辱するつもりなら退席せよと言ったので

その判事にも


何言ってるかさっぱり分からんなぁ

ウクライナ語の通訳をつけろと怒鳴ってやった


私の裁判はそうしてグダグダな展開になった

この私の態度を弁護人も責めたが

変えるつもりはなかった


生きてさえいれば チャンスはゼロにはならないから

生きてさえいれば また誰かを殺せるかもしれないから

その為なら何でもしよう どんな道化でも演じてみせよう

私は固くそう決意していた


誰に嗤われても 誰に疎まれても

全てに嗤われても 全てに疎まれても


また人を殺す その蜘蛛の糸を辿る為に

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