第48話 Psychiatric Test

私が逮捕されたあの日から

フェーニャと最後に会ったあの日から

どれくらいの月日が流れただろうか


1990年が終わり 1991年も終わり

1992年になったというのに

私は変わらぬままだ


フェーニャとの面会の後 間もなくして

私の身柄はロストフからモスクワへ移された

1991年8月19日には外でクーデターが起こり

風前の灯火だったソビエト政府は終わりを迎えたのに


その間もずっと私への取り調べと裏付け調査

そして私の精神鑑定が行われ続け


私はずっとここにいる 捕らわれの身のまま

いつまでも終われずにいる


今更52人を殺めた事実は誤魔化しようがないので

死刑を免れる為には精神鑑定しかないし

事実 私の精神は常人のそれとかけ離れているだろう


なぜなら 私は52人を殺したことに悔いなどなく

それどころかもっともっと殺したいと今でも思っているのだから

嗚呼


殺したい 殺したい 殺したい 殺したい

殺したい 殺したい 殺したい 殺したい

殺したい 殺したい 殺したい 殺したい

殺したい 殺したい 殺したい 殺したい


もっと犯したい もっと殺したい もっと食らいたい

私の中の赤い狂気は訴え続けているのに

もっと犯したい もっと殺したい もっと食らいたい

私の中の赤い狂気は凶悪に暴れているのに


その渇望が 満たされることは 癒されることは

もう永遠にないだろう


仕事を失い 家族を失い 全てを失い

私にはもう殺人しか残されていないのに

それすらも奪われ 失われていく


精神鑑定の結果 責任能力を持たない者だ

そう判断されれば死刑は免れることができるが

病院に入れられ 二度と出ることはできない


精神鑑定の結果 責任能力を持つ者だ

そう判断されればまず間違いなく死刑となり

私の命そのものが終わりとなる


永遠の監獄か 死か 未来は二つの一つ


故に希望など今更持てなかった

未来などもう死に絶えていた


ただ 全て私の自業自得


そんなある日 私の精神鑑定の結果が出た

案の定異常でありながら責任能力ありと判断され

私はすぐさま起訴されることとなり


1992年4月14日から ロストフ地方裁判所にて

私の裁判が始められることとなった


そう 茶番劇第二幕の始まりである

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