第47話 Last Farewell
ある日私に面会があり
私は独房を出て向かった
相手はフェーニャ
私の銀行口座解約の為
必要にかられてのものだった
戦争時に祖国を裏切った父の時以上に
彼女や私の家族は糾弾されていると聞く
故にKGBの計らいでチカチーロから名前を変え
別の町での生活をするようになったらしい
時代の影響もあった父とは違い
今回のコレは全て私のせい
本音を言ったならば
彼女はそんなことをした私に会いたくはないだろうし
私も本音を言ったならば
そんなことをしてしまった彼女に合わせる顔もなかった
故にこれが最初で最後の面会となるだろう
私がフェーニャに会うのは最後になるだろう
そう分かっていたのだが
最後だからという特別は何もなく
面会は非常に機械的で
人間味の無いものになった
最早意味がないと分かっているのか
彼女は私に何も問わないし
私も彼女に何も話さない
ただひたすらに必要最低限のことをするだけ
必要最低限の言葉を発するだけ
部屋の中 ただ無音が続く
私はその間 頭が空いたその間
フェーニャとの日々で
何を誤っていたのか思い返していた
私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ
私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ
永遠ニズット 死ヌルソノ日マデ
あの時はそう思っていたし 股間の現状はずっと変わらないが
それでも子供を授かることができていた
結婚してからずっと
チカチーロ・ファミリーはかつてない幸福に包まれていた
妻が穏やかに微笑み すぐ傍に小さな2人の子供がいる
少し離れた所では 妹夫婦と両親が微笑んでいる
誰もが幸福を感じていて
不満を抱く者がいなかった
これはまるで夢の光景ではないか
このような幸福 昔の私では
想像することさえできなかったから
皆が幸福なのだから 私も幸福でなければいけないと思っていた
皆が不満を抱いていないのだから 私も抱いてはいけないのだと思っていたけど
心の何処か片隅で 私は常に不満を抱いていた
自分自身に対して抱き続けていた
私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ
私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ
永遠ニズット 死ヌルソノ日マデ
嗚呼 そうだ このコンプレックスが解消されなかったから
私は私自身を普通未満としか思えていなかった
このコンプレックスがなかったら 治せていたならば
私も忌まわしき化物になることはなかったに違いない
最後にそう言うと フェーニャは薄く笑い
何も言わず 決して振り返らず
真っ直ぐに出ていった
そこに何も残さないままで
そんな彼女の背中にかけられる言葉などなく
私にはその資格さえもない
それは全て自業自得で
私は独り ずっと独り
誰からも悲しまれず
追悼の言葉すら貰えず
地獄へ堕ちる
もう最後のお別れさえもしてしまった私には
やるべきことさえ何もなく
屍のような面持で ゾンビのような足取りで
ただ独房へと戻っていった
さようなら
そんな言葉さえ声にはならない
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