第46話 Scenes of Psychopath

私はまずとりとめのない話から始めた

私が何故 殺人鬼となってしまったか

一つ一つ話していった


人を愛するのに理由はないが

人を殺めるにはそれ相応の理由が

ないならばそれに至る為の物語が

必ず存在しているからだ


私の中にも勿論それらは存在し

私は一つ一つ 一人一人

思い出しながら話していった


幼少期に受けた屈辱とホロドモール

少年期に受けた屈辱と性の失敗

青年期に受けた屈辱と受験の失敗

兵役 電話工 結婚 転職を経て

教師期に受けた屈辱と そして狂気


地獄への一本道を私は落ち続けていた

その中で出会ったのがレーナ


私という人間にとってレーナは救いであり

私という殺人鬼にとってレーナは発端であった


コストイェフという余計なオマケも付くが

私は久し振りにまたレーナの痕跡を辿った


レーナと出会い 話した場所

レーナを犯し 殺した場所

レーナを投げたあの川


気付けばもう 13年も経っている

思えば遠くまで来たものだ


レーナの後にはあの売春婦を殺し 子供を殺し

ホームレスを殺し また売春婦を殺してから……


一つ一つ 一人一人痕跡を辿っていくと

私自身驚く程に過去の殺しを覚えていた

それはコストイェフやKGBにとって僥倖で

一つ一つが証拠となっていくのだろうが


もう私は完全に独り

どの世界からも切り離され

全てを失った私にとって


私を未だ世界と結び付けているのは

残していった多くの亡骸と

私への遺族の憎悪だけ


話すことに 曝け出すことに

何の躊躇もなかった


嗚呼 こんな私など 生きていても何の価値もない

誰かを憎ませることはあっても喜ばせることはない

誰かに憎まれることはあっても喜べることも殆どない

そんな私にとって たった一つ得られた喜びは


レーナとはあんなに 激シク突キ合ッタノニ

レーナとはあんなに 激シク愛シ合ッタノニ


あの時のプレイを最初から最後まで

何一つ間違えることなく思い出せるのに


世間的にそれは

アレクサンドル・クラフチェンコとかいう

訳分からない者のものとなっていた

その誤解が解けたことだけだ

他には何もない


やはり亡骸だった


私の世界はそうしてバッドエンドを迎えたのだが

そのバッドエンド後にも世間は動き続けていた


与えられた新聞に目を通せば ソビエト政府の崩壊は進み

今やその命は風前の灯となっていた

その様を傍観者の目で眺めている


バットエンドを通り過ぎた私の人生はもう無いも同然で

世がどうなろうが知ったことではなかったのだ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る