第45話 Postlude of SK -Discharged from the world-

逮捕された私は 民警やコストイェフと対峙することとなった

その頃の私はまだ 私の真実を話すつもりはなかった


内なる狂気がまだ 私に囁きかける

この場を誤魔化して もっと殺そう

この場を乗り切って もっと殺そう


例えそれが叶わずとも 話すならば家族から

そう考えていた私に対して


彼等はまず私の手に目を付けた

私の手にはいくつか傷痕がある

彼等が目を付けたのは最新の傷痕

スヴェータが噛みついたその跡だ


その傷はどうしたのかと問われたので

私は仕事中にやったのだろうと適当に答えたが

彼等は私の答を信じることなく医者を呼び

誰かに噛まれた跡だと結論付けた


恐らくは分かった上での茶番だ 性格が悪い

彼等は私に再び問いかける


その歯型は私自身のものとも フェーニャのものとも一致せず

最近犠牲になったスヴェータのものと一致する

それはどういうことなのだろうかと


その問いに対し私は 通りすがりの知らぬ輩に

突然やられてしまったのだと答えた

あまりに不愉快な出来事だったので

記憶を封印していたことにした


では仕方ない 治療してやろうか

コストイェフは意地悪く笑いながら

医者を呼ぼうとしたが それは断った


コストイェフの茶番は不愉快だが

それとこれは別だ


この傷痕はスヴェータが残した証

この傷痕がある限り彼女は私と共にある

もう殆どの傷跡は自然治癒してしまったが

私に残された傷跡はどれも私の誇りだ


その傷痕は怪しいんだがな それだけでは到達できぬか

彼等はそう考え 私に自白を迫る試みを始めた

実に愚かなことだ


私はシリアルキラー その点は間違いない

もし起訴されたならば 100%死刑になる


そのようなことは私自身誰よりも分かっているが

精神異常認定されれば起訴されないとか

たわけた誘いを仕掛けてきたのだ


嗚呼 本当に不愉快な程にたわけた誘いだ

そのようなことがある訳がない

そのようなことがあったならば


レーナ殺しの際の アレクサンドル・クラフチェンコはどうなった?

連続殺人の冤罪で 連行された人達はどうなった?

皆 死んだではないか


それを理解し 黙る私に対し

コストイェフは溜め息をつきながらぽそりと話した


フェーニャに歯形を見せに貰いに行った際

彼女は夫である私に対して大層怒っており

あんなクズ死ねばいいとまで言ったとのこと


その言動は俄かには信じられぬものではあった

嘘と怒鳴り散らしたいものではあったが

コストイェフはそんな私に

紙切れ一枚を差し出した


それは確かにフェーニャの筆跡で書かれた 離婚届であった


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ


小さいまま 役立たずで

白い胤を吐くだけの私を フェーニャは

責めたりしなかった 罵ったりしなかった

辟易して 気味悪がったりしなかったのに


教職を続けるにはもう無理があるし

続けて得る希望もないので


私はあっさりと別方面の仕事を探して

私は国営工場の幹部職員となった


フェーニャはそれに対し少しガッカリは顔をしたが

思っていたよりもすんなりと私の転職に納得してくれたのに


今度は絶対に許してはくれないらしい

それを知り 私の世界は完全に崩れ落ちた


フェーニャとのセックスに官能を感じなくなっていた

人の肉体の破壊にしか官能を感じなくなっていた

フェーニャの手料理に味を感じなくなっていた

殺した人の血肉にしか味を感じなくなっていた


こんな化物が 食屍鬼が

彼等との間に隔たりを感じるのも無理はないが


それでも細い蜘蛛の糸一つで繋がっていたのに

その最後の糸さえも断ち切られてしまった


嗚呼 これで私は完全に独り

どの世界からも切り離され

全てを失ってしまった


ならば話そう 真実を話そう

失った家族の為でもなく 私自身の為でもなく

民警やKGB 意味不明な正義の為でもなく

私が殺めた犠牲者たちの為


私は自供することにした

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