第9話 Mortification Ⅳ -A Little Sister's Friend-

あれはまるで体中に稲妻が走ったようだった

あの日 あの時 私は恋に落ちた

恋に落ちてしまった


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ


心の中で幾度も唱えていた固い決意を

彼女の存在が軽々と粉砕してしまった

私の大きなコンプレックスも 小さなプライドも全て

彼女の存在が軽々と粉砕してしまった


彼女の名前はターニャ 妹の友達だった

寝ても覚めても頭の中から彼女の姿が離れない

気が付けば 私は夢中で恋をしていた


妹の所へ彼女が遊びに来たならば

用事を捏造してでも彼女に会いに行った

妹と彼女が話しているならば

壁に耳を当てた盗み聞きだって厭わなかった


あの時の私にとって 彼女の顔はアフロディーテより美しく

あの時の私にとって 彼女の声はセイレーンより悩ましかった


ターニャ! ターニャ! ターニャ! ターニャ!

私の想いを 体を 頭から足先 心や魂まで全て

何もかも貴女に捧げてしまっても構わないから

どうか貴女自身を私に呉れないか


自分の股間を弄りながら 心の中で幾度も叫んでいた

嗚呼 私は狂ってしまった


ターニャが欲しい! ターニャが欲しい! ターニャが欲しい!

熱病にうなされた心は 脳の回線をショートさせ

ある日の私に 信じられない行動をさせた


妹が驚き 叫ぶ声が何処か遠く聞こえる

その一方でターニャの顔が何よりも近くに見える


有無を言わさず 私はターニャを押し倒していた


恋に狂った私はターニャに 服を脱ぎ捨て

思い付く限りの 愛の言葉を吐きながら

熱病のままに腰を振りだしていた


狂っていた 狂っていた 狂っていた

だがその狂気の裏で 非常に冷たい現実を

私は俯瞰していたかのように気付いていた


私の股間は イツモツは それでも小さいまま 不能のままだった


いくら熱く想えども いくら狂えども

この冷たい現実からは逃れられない


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ


何をしようとしても 全てが空回り

何も為せぬまま砕けて散って そして終わる


こんな私をターニャも嗤っている

追い打ちをかけるように見下し 嗤う


「ぷぷっ お兄さん やっぱりフニャチン野郎なんだ 情けなッwww」

私に押し倒された時には驚いた顔をした彼女だったが

私のイチモツを見た途端 大いに馬鹿にし鼻で笑った


その後すぐさま ありったけの罵詈雑言を私に浴びせかけ

恋人としてどころか 男としても 人としても何もかも全て

失格したクズ野郎だという烙印を押したのだった


まるで体中に稲妻が走ったようだった

あの日 あの時 私は恋に落ちた

恋に落ちてしまった


そんな恋の熱病は一気に氷河と化し 砕け散った

良いものは何も残らず 残ったのは痛恨ばかり


嗚呼 やはり私はダメなんだ


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ


故にツルゲーネフが描きそうな恋物語が

私の身の上に起きる訳ない ありえない


普通に恋をして 普通に幸福になりたかった それだけなのに

どうしてその普通さえもすることができないのか?


神に叫んで問えども 何に叫んで問えども

答は何処からも返ってくることはなく


私はダメ人間なんだ

そんな内からの声が虚ろに響き渡るばかり

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