第23話 毒丸と近重
「そういやこの前、表の方で変わった芸を見たぜ」
「変わった芸?」
毒丸の言葉に近重が首を傾げる。
「ああ。水芸だったんだが、それが不思議な芸でな。両手から水を出してその出した水を魚の形に変えちまったんだ」
「あら、この前聞いた弥助の兄さん方の話と同じねぇ」
何日か前に人里でいつもの顔馴染みの男たちと酒を飲んでいたのだが、そのうちの一人が不思議な見世物を見たと言い出した。
その内容は今毒丸が話したものと全く同じ。
他の男たちも噂は耳にしていたようで、その話で大いに場が盛り上がったのを思い出す。
「両手から出た水は丸い形になった後、だんだんと魚の形に姿を変えたって兄さん方が言っていたわ。
でも、その水の芸は評判が良かったんでしょう?」
「ああ、表の奴らがもう一回見せろって詰め寄ってたな」
「アタシ、人間たちがやる芸事を何度か見たことがあるけれど、そんな不思議な芸を見せる芸人は今まで見たことがないのよねぇ」
「普通の芸人なら、まずあんな真似は出来ねぇな。あれは人間の技なんかじゃなかったぜ」
「毒丸、それってもしかして……」
近重が毒丸を見る。彼はニヤリと口角を上げてから、
「お前の仲間だろ? 狐か何かが化けていると俺は見たが」
自信ありげな
「おい、何だよその顔は?」
「嫌だわぁ、毒丸。狐は水なんか操れないわよぅ?」
近重は笑いながら片手をひらひらさせて、それを否定した。
「じゃあ、俺が見たのは
睨むような目つきで近重を見てそう言うと、
「きゅうりをあげて確かめたらよかったじゃないの」
彼女は更に楽しそうに笑ってから、河童の腕と言われている謎の物体を手に持ち毒丸に突き付ける。
「俺が出て行ったら、それこそ反感を買うだろうよ。表の奴らは俺らを嫌うからな。まあ、妖狐のお前にゃ分からねえさ」
「まあ、
河童の腕らしきそれを元の場所に置いてから、自分の顎に手を当てて近重が言った。
「この前、真夜中にこの辺りをうろついていたぜ。屋敷に行きたいとかなんとか言ってたな」
「お屋敷?」
「ああ。こんな夜中に何で屋敷に行きたいのかさっぱりだったが。近重、どうしたんだ。変な顔して」
見ると近重は固まったまま動かない。少ししてから、我に返ると笑顔を浮かべて、
「あらぁ、何でもないわよぅ?」
穏やかそうに笑ってそう答えると、毒丸に背を向けた。
近重の頭の中に初めて清流と出会った時のことが浮かぶ。
「水を操る能力に人里……」
彼女が呟いたところで返事を返す者はいなかった。
毒丸に目をやれば、彼もまた何か物思いに
気のせいか、彼の目がいつも以上に暗いような気がした。
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