第24話 木苺と金平糖 ②

 清流が目を覚まして洞窟を出る頃には、辺りは真夜中の静けさに満ちていた。周りに目をやると仲間の魍魎もうりょうたちが何時ぞやの時みたいに寝転がっている。

 (また酒を飲んだのか……)

 宴でも何でもないのによく酔い潰れるまで飲めるものだ。

 清流は溜息を吐いてから仲間たちを踏まないように気を配りつつ獣道を進んだ。山を下りる途中で昼間に天と行った木苺が生えている箇所に向かう。なるべく実の大きな熟したものをいくつか手に取ると、手拭いに包んで懐に入れた。

 木苺が生えている箇所を後にして、再び獣道を下りていく。

 夜空は今日も快晴で星がよく見える。黄金に輝く月がはっきりと人里を照らしている。

 月明かりに照らされながら、清流は紅蓮の元に向かった。


 ※※※


 「清流!」

 屋敷へ入り蔵が近付いてきた時、紅蓮に名を呼ばれた。

 格子から顔を覗かせる彼女の姿がそこにある。

 けれど、紅蓮はそわそわとしていて落ち着きがない。彼女のこんな姿を見るのは初めてなのではないか。

 「何かあったのか?」

 「どうして分かったの?」

 驚いて紅蓮が聞き返す。

 「何だかいつもと様子が違うからさ。何か嬉しいことでもあったのか?」

 彼女の楽しそうな様子にこちらも笑みを浮かべて尋ねてみる。

 「今日、甘味を貰ったのよ。金平糖って言うの」

 紅蓮はそう言うと、その金平糖が乗った小皿を清流に見せた。

 桃色、白、黄色と様々な色にとげとげとした突起が周りに付いている、不思議な形をした甘味。

 清流は初めて見るその甘味をまじまじと見つめてから、顔を上げて、

 「これ、食えるのか?」

 「ええ。砂糖で作ったものよ。あなたは山に住んでいるからこういったものはしょくさないかもしれないけれど。清流、口を開けて」

 清流は言われた通り口を開ける。紅蓮は金平糖を一粒つまむと彼の口の中に入れた。

 噛んだ瞬間、カリッと小気味良い音がしたと思ったら甘味が口の中に広がった。昼間食べた木苺よりもずっと甘い。甘いというよりも、むしろ甘ったるい。

 「初めて食べたがずいぶんと甘いんだな。人間はこういうものが好きなのか?」

 清流が驚きつつ尋ねると、彼女は笑みを浮かべて、

 「人によって好みが違うかもしれないけれど、私は好きよ。子どもの頃よく食べていて、懐かしかったの。あなたにも一度食べて欲しくて」

 その言葉を聞き、清流の顔はみるみる赤くなった。

 小皿を見ると、金平糖は残り二粒。

 「清流、もう一粒どう?」

 「いや、残った分はあんたが食べろ。それから」

 清流はそう言いながら懐から手拭いを出した。

 手拭いをめくって包んでいた木莓を一粒つまむ。

 「俺もあんたのために持ってきた」

 「木莓?」

 清流は頷く。

 「紅蓮」

 名を呼んでから木莓を彼女の口の中に入れてやる。

 「甘酸っぱい。初めて食べたけれど、こんな味なのね」

 微笑む彼女につられて清流も笑みを浮かべた。

 

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