第14話 回想 ①

 「清流殿、さっきから真剣な顔をして一体何を見ているんだい?」

 声の主は朧だ。不思議そうな表情で清流に問い掛ける。

 「さきほど火事があって、燃えた家の中から人間の娘が出て来たんだ。幼い妹を抱えて出て来て」

 清流は人里を凝視したまま、そう説明した。

 朧も同じ様に顔を前に向ける。確かに、彼が言うように怪我や火傷の具合を見て貰っている姉妹の姿が見える。

 「受け答えもしっかりしているし、二人とも大丈夫そうだね。

 そうだ、清流殿。あのたちを見ていて思い出したんだけど、昔奇妙な光景を目にしたことがあってね」

 「奇妙な光景?」

 「顔や手に火傷の跡がある人間の少女が蔵に連れて行かれたんだよ。その娘を閉じ込める時に女がね、奇妙なことを言ったんだよ。『娘を返せ、この親殺し』ってさ」

 「娘を返せ? どういう意味だ?」

 「親殺しと口にした女は恐らく、火傷を負った少女の祖母だ。火事で自分の娘を殺されて、孫娘を憎んでいるといったところか」

 「その孫娘だって、火傷を負ったんだろう?」

 「そうだ。なんでも、変わった少年と逃げていて、その少年と別れた後に倒れた木の下敷きになったらしい。母親がその少女をかばって焼け死んで、少女の方は生きていたが顔と身体に火傷を負った」

 「……え?」

 「清流殿、どうしたんだい?」

 「朧、その変わった少年って言うのは? 顔と身体に火傷を負ったってどういうことだ?」

 思わず朧に詰め寄った。

 自分の身体の中が急激に冷たくなっていくのを感じる。

 聞きたいことはたくさんあるのに、それ以上言葉が出て来ない。

 「落ち着いてくれ。一体どうしたんだ?」

 朧の顔には怪訝とも困惑とも取れる表情が浮かんでいる。

 あごに手をやって、少し考える素振りを見せた後、

 「何か事情がありそうだね。今夜その蔵に行ってみるかい?」

 「ああ、頼む」

 清流は懇願するようにそう口にした。彼の下ろしたままの両手の拳はまだ震えているのだった。

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