第4話 火上国(ほがみのくに)③

 「清流、まだ人里なんか眺めてんのか?」

 「ああ、気になって」

 こちらに歩いて来た水羽すいはが清流の隣に並んだ。

 同じ様に人里を見下ろす。

 さきほどまで燃え上がっていた炎はようやく沈下に向かっているようだった。高く上がっていた火柱もずいぶんと小さくなっている。後は時間の問題だろう。

 ただ、人家は見事に真っ黒に焼け焦げて、家としての形は跡形もない。

 「お前も物好きだよなぁ。人間の家が燃えてるとこなんか見て面白いか?」

 「そんな理由で眺めているわけじゃない」

 「へぇ。なあ、そういえばお前さ、昨日宴の途中でいなくなっただろ? 一体どこ行ってたんだ?」

 「ちょっと風に当たりに行っていただけだ。酒の匂いがきつくて気分が悪くなった」

 「まあ、昨日もたらふく飲んだからな。んで、お前はいつまでここにいんだよ?」

 「もう少し。あの炎が消えるまで」

 「お前ってば本当に。まあ別にいいけどさ、好きにしろよ。戻って来たら、酒瓶片付けるの手伝えよ?」

 「ああ、分かった」

 答えてから、清流は再び人里に顔を戻した。


 ※※※


 火の沈下を見届けた清流が仲間たちのいる場所に向かっていると、魍魎の青年が脇道の傍にある石に腰かけて頭を押さえているのを見つけた。

 「緯澄いすみさま?」

 「ああ、清流か」

 「どうされたんですか? 頭が痛むのですか?」

 「さすがに三日三晩は堪えるな、当たり前だが。なに大したことじゃないさ。そういえば、お前は全然飲んでいなかったな」

 「酒は好きではないので。臭いがきつくて、どうしてもダメなんです。あと、あの味も」

 「そういえば昔、宴の席で飲んで倒れたことがあったな」

 「はい。あれ以来、受け付けないのです」

 「それなら無理をしない方がいいだろう」

 そう言うと、緯澄は頭を抑えたまま立ち上がろうとする。その瞬間、足元が少しふらついた。

 「大丈夫ですか? もう少し休まれた方が」

 清流が緯澄の身体を支えながらそう言うと、彼は苦笑して、

 「すまないな、清流。いつまでも寝ていられないと思って気分転換に外に出たんだが、あまり変わらなかった。私のことはいいから、お前は早くお戻り」

 「ですが……」

 「もう少し休んだら、おさの元へ顔を出しに行くつもりだ。私を選んで下さったことに対する礼をしなければいけないし、牡丹さまにも改めて挨拶を」

 「分かりました。それでは、俺はこれで。あまり無理をなさらないで下さいね」

 緯澄は頬笑みを浮かべると黙って頷いた。

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