第2話 清流と妖狐
紅蓮のいる蔵を後にして、獣道を歩いているとどこからか笑い声が聞こえてきた。
清流が気にせず歩みを進めていると、
「あらぁ、
独特な話し方と高い女の声が今度は一層近くに聞こえた。こちらに近付いて来ているのが分かる。
声のする方に顔を向ければ、目の前にいるのは雪を連想させるような真っ白な妖狐。
「酔い?」
清流が怪訝な顔で聞き返すと、妖狐はくすくすと笑いながら、
「昨晩も大いに盛り上がっていらっしゃったでしょう? なんでも魍魎さまの昇進祝いだとか」
「ああ、昇進した者は長の側近になれるんだ。非常にめでたいことだから、そのための宴さ。だが、俺は一滴も飲んでいないぞ」
「おやまぁ、飲まれなかったのですか? なんと、もったいない! アタシだったら、いくらでもお付き合いしますのに?」
清流は妖狐に何も言わず、黙って歩き出した。
その後を何故か妖狐も付いて来る。
「それにしても、ぱったりと静かになりましたねぇ。昨日まで三日三晩の宴をしていたのが嘘のようですよ。アタシたちの住処にまで、その賑やかなお声が届いていたんですから」
「悪かったな、うるさかったろう。今度からはあまり騒がないように仲間に言っておく」
すると、妖狐は更に声をたてて笑った。
「宴なのに騒がずにいるなんて、野暮以外の何ものでもありませんよぅ。騒がずにどうするんです? ああ、なんて羨ましいこと」
「そんなに飲みたかったのなら、混ざればよかっただろう?」
「まさか! 妖狐ごときが魍魎さま方と席を共にするなんて、ありえませんって」
「ところで、お前こそこんなに朝早く何してるんだ? 妖狐だってまだ眠っている頃だろう?」
「それは内緒ですよぅ。それでは、アタシはこれにて」
妖狐は何事もなかったようにそう言うと、高く飛び上がりあっという間にその姿を消してしまった。
清流は顔を前に戻して、再び歩き始める。
魍魎たちが住処としている場所へ着くと、辺りには酒瓶やとっくりが無造作に転がっていた。
その近くでは、これまた飲んで騒ぎ疲れた仲間たちが身体を横にして爆睡している。
清流はその様を見て溜息を吐いた後、寝入っている彼らの身体を踏まぬように気を配りながら、自分の寝床にしている洞窟へ向かった。
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