第1話 逢瀬 ①

 四月も半ばになり春らしい温かさを感じることが増えてきた。だが、それでも夜は冷える。ましてや、それが山であるならば尚更だ。

 清流せいりゅうはまだ日が昇らない真っ暗な獣道を下りていた。

 山々に住む獣も深い眠りについている刻限だから、当然彼らの鳴き声も今は聞こえない。

 落ちた枝を踏む音やフクロウらしき夜行性の鳥の鳴く声に耳を傾けながら、目的地へ向かうために黙々と歩みを進める。

 人間ならば、どこまでも闇が続くこの山を下りるのは容易ではないだろう。

 それに比べて、彼の視界に映るものは木々も含めてみな、輪郭がはっきりとしていて、その先にある道まで判別することが出来た。

 真昼の時ほどの明るさはなくても、歩くぶんには困らない。

 清流は一度足を止めて、人里を見下ろした。

 真っ暗なその中でも、人間たちが住む家々をいくつも確認することが出来る。

 彼が息を吐き出すと、闇の中に白いものが浮かんだ。しかし、それはすぐに消えて、辺りはまた闇ばかり。

 清流は人里から目を離すと、再び獣道を進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る