第25話 挨拶

「あれ、思ったより早かったですね。」

図書館を出るとソウさんか待っていた。

「あれ、ソウさん!」

「なんでここにいるんだ?」

「お2人が戻る道を間違えてはいけないと思いまして」

「いやさすがにそんな短時間では間違えませんけど」

「あはは、嘘です。ただ、私の用事が思ったより早く終わったので。お2人ならきっとここだろうと思ってきたのですが、やはり当たっていたようですね。」

「まぁ、行くって言いましたしね。」

「俺らが動いてなくて良かったな。」

「まぁ、お2人の言う通りですね。・・・では、いい時間ですし行きましょうか。お2人とも頼りにしていますよ?」

「・・・わかりました。」

「なぁ、俺思ったんだけど」

「何ですか?」

「何?」

「ギルドマスターって、どうやって選ぶんだ?」

「あぁ、それは前の人が候補を10人から選んで、その中で模擬戦をして決めるんですよ。」

「それって勝ったやつは相当強いってことか?」

「ええ、そうなりますね。」

「へー、・・・あれ?」

「え?」

アレンハイド、何を考えて・・・あ。

「あー、確かに」

「え、マイカさんまでどうしたんですか?」

アレンハイドの言いたいことがわかった。

「多分、アレンハイドは強いなら護衛なんて要らないんじゃないかって思ったんですよ。ね、アレンハイド?」

「あぁ。」

「あー・・・えっとですね、普段ならそれでいいのですが、今回は挨拶なので、僕は武器を持って部屋に入ることができないんですよ。」

「だって挨拶ですよ?たったそれだけで襲われるはずないじゃないですか。」

「んー、まぁ、普通ならそうでしょうね。」

「普通なら・・・って、今回の挨拶って・・・」

「はい。実はここのギルドとは何年か前に少し揉めまして。それ以来、何故かここのギルドの支部長は私を敵対視しているんですよ。実際、過去にも襲われましたし。」

何故かってそれが原因でしょうが。

「じゃあ別に挨拶なんて行かなくてもよくないか?」

「いえ、それはギルドのルール的に無理ですね。ちなみに、ソルーナにあるギルドの正式名称は『フィランサ王国冒険者ギルド南部ソルーナ本部』と言うのですが、東西南北部全てわ統率するグランドマスターは国王なので訴えるとかは大事になるのでしたくないです」

「あー、泣きわめいてまで護衛が欲しい理由がわかりました。というか行かないと色々めんど・・・大変そうなので行きます」

「今面倒っていいかけましたよね?・・・でもありがとうございます。この恩は必ず」

「私たちは相応の報酬さえもらえれば何も言いません」

「俺も別になんでもいい」

「・・・わかりました。では、もうそろそろ行きましょうか。」

「はい。」

「そうだな。」


「着きました。ここがソレイユシティーのギルド・・・のはずです。」

「あれ?思っていたよりも大きい?」

「あぁ、俺も田舎っぽいからもっとボロいと思ってた」

それでもソルーナにあるギルドよりは小さいけと。

「えぇ、確かボロかったはずです・・・」

「はず?ここがギルドじゃないのか?」

「場所的にはここなんですけど・・・」

「前に来た時とあまりにも見た目が違いすぎる、とかですか?」

「はい。まさにマイカさんの言う通りです。前に来たときはもっと古い感じの建物で、こんなに大きな建物ではなかったはずです。」

「へー。なんか改修とかしたんじゃないか?」

「そうですね。あとで挨拶のときにサラッと聞いてみましょうか。今はとりあえず中に入りましょう。」


「あ、中も外見とあっている感じですね、それに綺麗です!」

「へー、やっぱ中身も外見に揃えるもんなんだなぁ」

「・・・中も綺麗になっていますね。驚きです。ここのギルドはそんなに潤沢には見えなかったのですが・・・」

どうやら、外観だけでなく中も変わっているらしい。

やっぱりソルーナにあるギルドよりは小さいけど。

「まぁそれは支部長への挨拶でわかるんじゃないですか?」

「そうですね、では行きましょうか。」


「お待ちしておりました、ソウ様とそのお連れ様でございますね?」

部屋の前に行くと、1人の女性がいた。

「はい、そうです。僕がソウ、こちらが僕の連れです。」

「左様ですか、ようこそいらっしゃいました。私は秘書のレベッカと申します、以後お見知り置きを。支部長が中でお待ちです。」

「そうですか、わざわざお出迎えありがとうございます。」

「いよいよかー、少し緊張するね!」

「そうか?俺はそんなでもないぞ。」

「いや、ここは普通緊張するところだよ!?」

「そう言われても・・・」

「さぁ、お2人とも、入りますよ。」

ソウさんに言われて、扉の前に向き直る。

コンコン

少しあって、中から人の声がする。

「誰だ?」

「レベッカです。お客様をお連れしました。」

「ご苦労だった。入れ。」

ガチャッ

「失礼します。」

部屋の中はこれまでの感じとは似合わない、例えて言うなら中世のお城のような感じだった。

「お待ちしていました、ソウ殿。・・・おや、そこのお2人は?」

中に入ると、1人の男性が出迎えてくれた。

小太りで目が細い、典型的な中年のおじさんだ。

この人がギルドマスターか・・・なんか本名を名乗るのが怖いな。

「あぁ、彼らは私の連れです。2人とも、ご挨拶を」

あれ?挨拶?こんなの聞いてないんですけど。

・・・ソウさんとはあとで少しお話が必要みたいだ。

「お初にお目にかかります、我が名は・・・ミィと申します。こちらはレン。以後お見知り置きを。」

「ほぉ、ミィ殿にレン殿ですね。私は、ここソレイユシティー支部のギルドマスターをしているトルマン・ガランと申します、名前の通り私の家、ガラン家は三等男爵家です、以後どうぞよしなに」

うわ、なんか自慢気に「三等男爵家」って言ってきたよ、この人。

・・・というか、この国にも貴族制とかあったんだな。

それに、今の人―えっと、トルマン男爵だっけ?が名字を名乗ってたってことは、貴族になると苗字が貰えるんだ。

そういえば、今まで出会った人の名字なんて聞いた事なかった。

・・・ん?私か最初にアレンハイドと出会った時、私「和泉 舞華」って言った気がする。

・・・うん。確実に言った。

あれ、そうしたらアレンハイドには貴族だと思われてるんじゃないか。

・・・いや、あの人は今「ガラン家」と言っていた、つまりこの国では名字を後から言うということだ。

でもアレンハイドは私のことを「マイカ」と呼んでいる。

これはつまり私の名前が「イズミ」では無いと考えていて、私が「イズミ マイカ」と名乗ったことを併せて考えると、出てくる結果は「スキルのおかげ」ということ。

じゃあ、もし名字を名乗るときが来たら意識しないとスキルに消されるってことか。

今知れて良かったー。

ん?何か視線を感じる。

ふと顔をあげると、こちらを向いていたトルマン男爵と目が合った。

「あの、私の顔に何か・・・?」

「あぁ、そういう訳では・・・それにしても、大変可愛らしい方ですなぁ。こんな方を連れているなどソウ殿は実に羨ましいですぞ!」

「ははっ、確かに彼女はソルーナでも5本の指に入るほどの美人で、その上聡明ですからね。」

2人とも、お世辞上手いなぁ。

別に私は可愛くも美人でも賢くもないと思うし、そんな気を使う必要なんてないのに。

「いやぁ、本当に羨ましい・・・妾にしたいぐらいですぞ。どうです、ミィ殿?妾になるというのは?お金や褒美はいくらでもありますぞ?」

・・・この国のお世辞って凄いなあ。

いやこの人の目は本気だ。

執念と恐怖を感じる目だ。

ここはやんわりと断っておこう。

あまりきつくは言えない。

「せっかくの申し出ですが、お断りさせていただきます。トルマン男爵殿下には、私などよりも美人で聡明な方がお似合いでございます。そのような方など、街に出ればたくさんいらっしゃることでしょう。」

よし、これでいいだろう。

「おや、それは残念ですぞ。しかし、断り方1つにしても、教養が伺えますなぁ。まるで上流階級の教育を受けて来たかのようだ。しかし、気が変わったらいつでもお待ちしておりますぞ。」

「では、私たちはそろそろ失礼しますね。」

「それでは、外まで見送らせましょう。レベッカ!」

「はっ、ギルドの外まででよろしいでしょうか。」

「あぁ、頼む。」

「かしこまりました。ではお3方、こちらでございます。」

レベッカさんに連れられ、私たちはギルドを後にした。






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噂の異世界に転移する方法を試してみた。 和泉 舞華 @HoriTama

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