第24話 道中と手記

「・・・なんか、魔物多くない?」

それがこの道を通ってきた私の感想だった。

「そうか?」

「え?そうですか?この道は普段なら魔物がうじゃうじゃいますよ?こんなに何もいないなんてことは珍しいです」

別段驚くことも無いソウさん。

魔物は見つけ次第私が倒しているから何もないように見えるのはわかる、わかるが。

・・・ソウさん、何故それを早く言わない。

「・・・なんでそんな危険な道を」

「実はここ近道なんですよ。魔物を倒せれば、の話ですが」

「どうしてそんな道を」

「お2人なら普通に倒せるかなー、って思いまして」

「もし倒せなかったらどうするんですか」

「ここの魔物はそんなに強くないのでお2人なら行けるかと。なので倒せなかった場合のことは一切想定していません。まぁ、魔物がいないのは想定外でしたが」

何か?という顔でこっちを見るソウさん。

「・・・あの」

「はい、何か?」

「魔物、私が倒してるんですけど」

「そうなんですか。・・・え?」

「だから、魔物。いないように見えるのは、いないんじゃなくて、私が倒してるからんですけど」

「いや、いくらマイカさんでもさすがにそれは無いですよ、ね、アレンハイドさん?」

「まぁ、マイカだしそんくらいできるんじゃね?」

「ですよねー・・・って、ええ!?」

アレンハイドはさすがにもう慣れたのかなー。

「信じてもらえないなら一旦倒すの止めましょうか?」

「いえ、怖いのでいいです」

「そうですか」

・・・ソウさん、驚くほど簡単に引き下がってくれた。

確かに、ここの魔物の量、異常だもんな。


「マイカ、腹減った」

「え?・・・あぁ、もうそんな時間か」

私がスマホを確認すると、午後1時。

「じゃあ、お昼食べようか」

「おう」

私はナージャさんがくれたお弁当を出した。

あれ、3人分ある。ナージャさん、もしかしてソウさんから何か聞いたのかな?

・・・多分、そうだろうな。

じゃないと、ナージャさんがとてつもなく仕事のできる人になってしまう。

まぁ、確かに仕事できそうな感じはするもんな。

「ソウさんの分もあるのでどうぞ」

「ありがとうございます。・・・ところでその動く四角い箱は?」

動く四角い箱?・・・あ、スマホのことか。

「これはスマホっていって、色々できる機械なんです。例えば、時計にもなるし、コンパスにもなるんです」

「色々・・・他にももっとできることがあるんですか?」

「はい」

「例えば?」

「例えば・・・写真や動画ですかね」

「しゃしん?どーが?それは何ですか?」

「うーん、説明するのが難しいですね・・・実際に見てもらった方が早いかな?アレンハイド、私がはいって言ったら適当に動いて喋って」

「?お、おう」

・・・これでよしっと。

「はい」

私がそう言うとアレンハイドはぐるぐる歩き始めた。

・・・このくらいでいいかな。

「あ、もうできたからOKだよアレンハイドありがと。じゃあ2人とも、私の近くに」

「はい」

「来たぜ。」

「じゃあこの画面を見ていてください。」

そう言うと私は再生ボタンを押した。

「これは・・・さっきのアレンハイドさんの様子そのままですね」

「すげぇ、俺がもう1人じゃん!」

「これが動画です。このように動くものの動きがわかります。」

「ありえない・・・そんなことを、今の技術でやるなんて・・・どんな仕組みで動いているんです?動力源は?これをどこで手に入れましたか?それともご自分で開発したのですか?費用は?」

「えっと、それは・・・」

どうしよう、なんて答えれば・・・

「あーなんか色々あんだろ。仕組みとか俺も聞いたけどわかんなかったし。」

「そうなのですか・・・それは残念です。」

アレンハイド、たまにはいいことしてくれるじゃないか。

「ところで、このあとの予定ですが・・・」

あ、ソウさんすくに別の話にシフトチェンジした。

こうじゃないとギルドのトップなんてやっていられないんだろうな。

「このまま行けばあと1~2時間で中継地点となる町までは行けるでしょう。僕は用事があるのでそこまでしか行けません。」

「その町ってどんな感じなんですか?」

「山の麓にあるちょっとした町です。ソルーナよりは小さいですし、港もありませんね。ただ、あそこもいいところですよ。」

「そうなんですね!」

「それで、そこのギルドの支部長に挨拶に行かなきゃ行けないんです。」

・・・なんか嫌な予感がする。

「そうなんですね!頑張ってください!」

「いえ、そうではなく。僕、1人なのでお2人について来て頂けないかな、と。」

「もし断ったらどうなるんだ?」

「ここで大声で泣きわめきます。」

「そんなことして大人気ないと思わないんですか?」

「思いませんね。どこが大人気ないんですか?そもそも大人気ないの定義とはなんでしょうかね?」

「て人命がかかっている以上、一刻も早く目的地まで行くべきでは?」

「僕は今回護衛を連れていません、このままでは僕も殺されるかもしれない。そうしたら後が大変ですよ?」

「・・・わかりました。面倒臭いので行きます。アレンハイド、それでいい?」

「俺は別になんでもいい」

「だ、そうです。・・・この分の報酬は上乗せで」

「わかりました」

「では行きましょうか。」


「うわぁ、ここが中継地点の都市かー!」

「はい。ここソレイユシティーの名前はどこかの異世界語で『太陽の街』というそうですよ。大昔に来た異世界人がつけたそうです。」

ソレイユ・・・あ、知ってる。

フランス語で太陽っていう意味なんだっけ(外国語科の友達から聞いた)。

あれ、でもシティーって英語だよな。

・・・この名前つけた人、同じ言語で統一しようと思わなかったのかな。

響きはいい感じだけど。

「へー、いい名前だな。」

「確か、街の図書館にその人が書いた手記が残っているはずです。まだ約束の時間までは十分あるので見に行ってはいかがですか?僕はやることがあるので後ほど合流になりますが。」

手記か。多分ここの名前をつけた異世界人、気になるなー。

多分私と同じ地球から来た人だろうし、どこの国の人か知りたいから気になるな。

「私は興味あるので見に行ってみようかな。アレンハイドは?」

「俺も行く。気になることがあるし。」

「そうですか、では図書館はここから歩いて1分位のところにあるので行ってみてください。市長との約束の時間は午後7時なので・・・そうですね、6時30分にここれ戻ってきてください。それならあと3時間あるのでゆっくり見学できるでしょう。それでいいですか?」

「はい、じゃあ早速行ってきます!ソウさんもお気をつけて!」

「ありがとうございます、お2人も楽しんで。」


「ここが図書館かー!異世界人の手記ってどんなのだろう?」

「ようこそ、何か御用でしょうか?」

あ、中から人がでてきた。

司書さんかな?

「はい、あの、ここで異世界人の手記が見られると聞いてきたんですけど・・・」

「それでしたらこちらにありますよ。ご案内致しましょうか?」

「あ、ありがとうございます!」

「・・・ありました。こちらが手記です。」

パラパラとめくって見る。

・・・あ、やっぱりこれ、多分日本語だ、よね?あれ?

「・・・随分独特な字ですね。これにはどんな内容が書いてあるのですか?」

「・・・それが、実はまだ解読されていないのです。今王国中の言語学者がこぞって解読しようとしているのですが・・・」

「そうなんですね、私は言語学者とかではないから読めないけど、いつか読めるようになるといいですね!」

「私もそれを祈っています、ではごゆっくりどうぞ。」

そんな会話を司書さんと交わした後、私は手記に向き合った。

「あ、そういえばアレンハイド、何か気になることがあるって言ってなかったっけ?」

「あぁ、それはこの本の事なんだが、マイカなら読めるんじゃないかって思っただけだ。俺が言わなくてもマイカは行く気だったから何も言わなかったけどな。それでどうだ?さっき独特な字って言ってたけど読めそうか?」

「うーん・・・多分?」

手記を見る限り、多分読めなくはない。

何故ならそれは日本語・・・だと思われるから。

しかし何故「だと思われる」や「多分」という言葉を使うのか。

その理由は・・・

「多分言語自体はわたしの知ってる言語なんろうだけど・・・この人、相当な悪筆だから読めるかって言われると微妙」

「あー・・・」

「でも最初の1ページだけ読もうか?」

「読めるのか?」

「頑張れば」

ほんとに頑張んないとキツいかもしれないけど。

そう言って私は1ページ目を凝視した。

うわ、どんなに汚い字でもよく見れば分かるものだが、これはよく見ても変な字体だ。

多分これは読める言語だから翻訳スキルとかで読める感じに・・・なんていうのにならないのかな。

あれ、文章の上に何かが出てきた。

「何これ、訳・・・的な?いや、元々は自分の国の言語だし、また少し違うのか?」

それを読むと、こう書いてあった。

「俺は闇の炎を操る術者だ。多分、この世界の中で1番強いだろう。最近右腕が疼く。これはきっと悪の組織デス・ストレージがこの国に現れたせいだ、このままではこの国が危ない。あいつらを止めるにはこの世界で唯一破邪の力を腕に宿す俺にしかできない。俺が止めなければ・・・」

あ、この人、もしかして厨二病かな?

デス・ストレージってスマホの容量キツかったのかな、この人。

「あの、司書さん」

「はい、どうされましたか」

この人もすぐ飛んできた。

「この手記を書いた人の名前ってわかりますか?」

「はい、確か『コウイチ・ナナセ』という方です。どうやらその方は『ダークフレイムマスター』と名乗っていたそうで、どうやらすごい魔法使いのようです。」

「その人を見たことは?」

「ないです。もしいたら見てみたかったですね。」

「・・・そうなんですね。わかりました。」

名前がガッツリ日本人だ。しかも「ダークフレイムマスター」って厨二病でよくあるやつじゃないか。

「マイカ、どうだ?」

「・・・うん、これ読める。」

「へー、何か大事なことが書いてあるとかは?」

「これが全部本当なら結構大事なことが書いてあることになるけどそれはない」

「本当なら?それはつまり、これは全部嘘ってことか?」

「うん」

「なんでそんなのわかるんだ?」

「私が元の世界にいた時にこんなことを時おり口走る人がいたから」

「そんなに変な手記なのか?」

「・・・うん、あー、でも男子はこういうの好きかもしれない」

「じゃあ読んでくれ」

「えー、わかったよ、ではいきます。俺は闇の炎を操る術者だ。多分、この世界の中で1番強いだろう。最近右腕が疼く。これはきっと悪の組織デス・ストレージがこの国に現れたせいだ、このままではこの国が危ない。あいつらを止めるにはこの世界で―」

「あ、待って。わかった、もういい。」

「あれ、アレンハイドは無理な感じ?すごい意外なんだけど。」

「あー、この手のやつ、俺苦手なんだよな」

「そっかー、でも多分この手記内容は全部こうだよ?」

「・・・まじか。マイカ、これまだ読むか?」

「いや、私はもういいや。アレンハイドは・・・言わずもがなって感じだね。」

「あぁ。2人とも読まないならもう帰ろうぜ。・・・多分、もうすぐ時間ぐらいじゃないか」

「え?・・・あ、ほんとだ。じゃあ行こっか。」

「あぁ、少しだけ急ごうぜ。」

私たちはソウさんと別れた場所へと戻った。


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