第21話 ギルマスからの依頼

「あぁ、来てくれたのですね、お待ちしていましたよ。」

中に入ると、ギルドマスター―確かソウさんと言ったか、が出迎えてくれた。

「初めまして、マイカです。報告会でのスピーチ、見事でした。」

「俺はアレンハイドだ、よろしく。」

「もちろんお2人のことは知っていますよ、なにせこちらがお呼びしましたし。改めまして、僕はギルドマスターのソウです。気軽にソウ、とでもお呼びください。マイカさんのスピーチも素晴らしかったですよ。」

「ありがとうございます。実は私、人前でスピーチをするのは初めてで・・・」

まぁ、小学校や中学校では授業の時にクラスの前で何回か話さなきゃいけない機会があったから厳密に言うと違うんだけど。

だけどクラスの人数は多くて30人だったし、3時間程の準備期間も設けられていた。喋る時間も決まっていたし、話す前には必ず原稿に先生のチェックが入った。

それが今回は聴衆がパッと見100人以上、準備期間は多くて30分、喋る時間の上限は特に決まっていない。

学校でやっていたものとは全然違うし、まさか自分が大勢の人の前で喋る日が来るとは思いもしなかったが 、学校で習ったことが少しだけ役に立った気がした。

少しだけよかった。

「本当ですか?とても初めてには見えませんでしたよ。まぁ、立ち話もなんですし、座りましょうか」

そう言ってソウさんが椅子を勧めてきたので私たちは座った。

「さて、まずは先日の討伐、お疲れ様でした。お2人がいなかったら今回はどうなっていたか・・・本当に感謝をしてもし足りないぐらいです。」

「いえいえ、別にそんな大げさなことをしたわけではないですし」

「いえ、十分大げさなことをしていましたよ。そうですね、例えば・・・1kmも離れている敵の動きを正確に読みとったり、魔物の大群を1人で倒したり、でしょうか」

「いや、そんなことでいちいち驚かない方がいいぞ。だってマイカだし」

「あぁ、普段からマイカさんと接している人はそんなに驚かないんですね」

「まぁ、正直に言うと毎日驚くことしかないがいちいち驚いてたら心臓がもたないしな。ある時から急に『マイカだから』で納得できるようになったんだ。」

そんなに驚かなくても。

「まぁ、常に一緒にいる人はそうでしょうね。私もお2人が冒険者になった日にウォルフから話を聞いてから、何かあるごとに色んな職員からお2人の話を聞くようになったので、1度お話をしてみたかったのです。」

「そうだったんですね。でも、私たちは普通の冒険者で、特に何か偉大なことをした訳でもないですし」

「そう思ってんのはマイカだけだろ・・・」

「そう思っているのはあなただけですよ・・・」

あれ、2人とも呆れてる?

どこにそんな要素があったんだ。

「1人で魔物の大群を2つ全滅させたり巨大な魔物に1人で向かっていって倒したり、大量の人を1日で治療することをたった1日でやる人を『普通』とは言いませんよ。」

・・・まぁ、確かにそれだけ聞けば異常かもしれない。

「でも、魔物はそんなに強くなかったですよ?巨大な魔物は確かに大きかったけど、ただ大きいだけで弱かったし」

「だとしてもですよ。ましてあなたは指示を出す人ですよ?あなたがいなかったら誰が指示を出すんですか?・・・次に今回のようなことがあれば、命を落とすかもしれないんですよ?」

「まぁ、俺は詳細知らねぇけど、魔物の群れに突っ込むのはさすがに危険だと思うぞ。」

アレンハイドにまで言われてしまった。

そんなに無謀だっただろうか?

「・・・善処できるように努力を試みるよう努力します」

「・・・まぁ今はその話はいいでしょう。本題に入りますね。」

さっきの話でもう疲れた。帰りたい。

「実は、あなたがたにお願いしたいことがあります。」

「何だ?」

「私たちにできることであればお受けしましょう。まずは話を聞かせてください。」

「そうですね。では、まずは少しお話させてください。」

そう言うと、ソウさんは1枚の紙を広げた。

どうやら地図のようだ。

「フィランサ王国」・・・この国の地図か?

1部分がピンクで囲まれている。

えーっと、今私たちがいる所は・・・あった。

地図の右下のあたりだ。

いくつかの街はピンクの線で囲まれているな。

その中にこの街も入っている。

こうして見ると結構大きいんだな、この街。

「これはこの国の地図ですか?」

「はい。今私たちがいるところはここですね。」

「このピンク色の線で囲まれているところには何かあるんですか?この街も入っていますよね」

「それはこのギルドが担当している地域です」

「え、担当している地域って、ソルーナだけじゃないんですか?」

「はい。ここはこのピンクの線で囲まれた地域にあるギルドを統括する本部でもあるんですよ。」

じゃあここのギルドって他より少し大きかったりするのかなぁ。

「で、その地図が何なんだ?」

「その地図を出してきたということは統括地域内のソルーナ以外の地域絡みの話だと認識していいですか?」

「マイカさん、ご明察です。今回お2人に頼みたいこととは、ルーラルにある『第1ダンジョン』についての調査とその道中での人探しです。」

ルーラル?何か元の世界で聞いたことあるような・・・あ。

「ソウさん、そこってもしかして結構な田舎だったり?」

「・・・確かにルーラルは結構な田舎ですね。交通機関がそんなに発達していないのもあって、ルーラルまでの道は途中から徒歩になってしまうぐらいですから。それにしてもよくご存知ですね。もしかして行ったことがあるのですか?」

「いえ、何となく田舎なのかなーと思っただけで行ったことはないです」

「そうですか。では、話に戻りますね。今言ったように、ルーラルに行くまでの道は途中から馬車でも通れないようなすごく細い道になるのでそこからは徒歩で行くしかありません。それに道中はとてもではありませんが危険です。近々国王が第1ダンジョンの視察にいらっしゃるのですが、道中の魔物を追い払うために先遣隊をギルドと王国の双方から行かせたのですが、なかなか帰ってこない上にもう5日間も連絡が途絶えています。お2人には先遣隊とギルドからの派遣員を探し、必要ならば彼らを救出していただきたいのです。」

そんなところにまで行かなきゃいけないなんて大変だな、国王。

「なるほど、人探しというのはそれですか。では調査とは何ですか?」

「最近、第1ダンジョンでは普段出るはずのない魔物が出没するという報告があります。今回、ギルドからの派遣員には、その調査もお願いしていたので、もしかしたら何かあったのはダンジョン内かもしれません。もし道中に派遣員たちがいなかったらで構いませんので、第1ダンジョンへ行っ出没している魔物の調査もお願いしたいのです。今までの話の中で何かご質問はありますか?」

「なぁ、その探してるやつが死んでたらどうすんだ?」

アレンハイド、無神経に聞きやがった。

まぁ言われてみれば確かに生きている前提で話を進めるのは間違っているが。

「・・・そうですね。もし死んでいたのが建物もしくはダンジョン内であればヒールによってギルドの派遣員は生き返ることができます。」

「なんでだ?」

「そういう魔法を彼らにはかけてありますので。ただし建物の外、つまりルーラルへの道中とかで死んでいると蘇生は不可能です。」

へぇ、便利な魔法もあるものだな。

・・・あれ?王の先遣隊の人は?

「あの、先程ギルドの派遣員『は』と言っていましたが王の先遣隊の人は建物内でも生き返れないんですか?」

「あー、それは・・・はい。先遣隊の方々にも行く前に魔法をかけようとしましたが『我々は厳しい訓練を乗り越えた騎士団の中でも精鋭中の精鋭である。そのようなものなど使わずとも我らは勝てる』と・・・」

あー、それ元の世界だと絶対に負けてるやつだ。

「もしそれで先遣隊の人が死んだらそれって・・・」

「マイカさんの言いたいことはわかります。・・・死んだのがダンジョン内なら魔法をかけなかった私の責任になりますね。でも首が飛ぶ可能性はないので安心してください」

「そうなんですか?」

「はい。騎士団の教えにはどうやら一般人に助けて貰うのはどうやら恥ずべきことらしいので。過去に身体強化の魔法を騎士団にかけて死刑になった人がいるようですし。」

人を助けようとしたら死刑とか元の世界だと絶対にありえない。

「それなら確かにかけない方が正解ですね。」

「はい。他に何かありますか?」

「あ、そういえば私たち1回もダンジョンに入ったことがないんですけど」

「それなら、強そうな魔物だけでいいので出てきた魔物の特徴を報告していただければ問題ありません。でも余力があれば他のダンジョンも少し見に行ってみてください。そうすれば他との違いも明確にわかると思いますし」

「そうですね。時間があれば行ってみます」

「そうしてください。・・・他には?」

「俺はとりあえずいいかな」

「私も」

「ではどうです、お受けいただけますか?1~2週間ほどの旅になりますが、準備も含めてかかったお金はこちらで全額負担しますし、もちろんその上で報酬も出します。」

「俺はいいぜ。そのルーラルってとこにも興味あるし、たまには旅ってのも楽しそうだしな。」

「ありがとうございます。マイカさんはどうでしょうか?」

「うーんと、私も楽しそうだし、困っている人がいるなら助けたいし、受けたいとは思うけど、ターシャちゃんのことがあるし・・・」

「ターシャちゃんというのは?」

「実は今、剣と魔法を教えている子がいまして、その子に相談してみないと・・・」

「それなら相談していただいてダメならダメで構いませんし、必要ならギルドから教えるのが上手い人を派遣しますよ。」

「わかりました。相談してみます」

「では、お答えが決まり次第、ギルドにお越しください。受け付けに『ソウさんに至急の用事で呼ばれた』と言えばすぐに話を通してくれますので」

「わかりました。」


「と、いうわけでして・・・」

数分後。私たちはナージャさんとターシャちゃんに相談していた。

「この街を出るの訳じゃないんでしょう?だったら私は別にお2人さんが無事に帰ってきてくれればいいわよ。だからこの前と同じでお金はまた だ受け取らないし部屋もそのままにしておくけど」

ナージャさんはそう言ってくれた。

もう本当にいい人だ。

「ありがとうございます、またお金を払いにこの宿に戻ってきます!ターシャちゃんはどうかな?」

「あの、私の、先生がいない間の、練習は、どうなるんですか?」

「もし必要ならギルドから人が来てくれるから大丈夫だよ!」

「い、いえ、私は、練習メニューが、あれば大丈夫、です!・・・できれば手書きだといいな、なんて」

手書きか。図書館で本を見た時に思ったのだが、一応この国には印刷の技術があるように見える。

まぁ多分ここを出るのは明日の朝だろうし、何とかなるか。

「わかった。じゃあメニューは考えておくよ。」

「あ、ありがとうございます!あの、ぶ、無事に帰ってきてください!」

「もちろん!ね、アレンハイド?」

「そりゃあ俺だって死にたくねぇし」

「アレンハイドくん、この前の討伐の時にマイカちゃんと違う場所で働いてたから守れなかったんだって?」

「な、何でそれを・・・というかまず守ろうとはしてないし・・・」

「ロイドくんから聞いた」

ロイドさん、こんな所にも知り合いがいたんですね・・・

「う」

「今回こそはマイカちゃんのこと、ちゃんと守るんだよ?ほら、ターシャも何か言っておやり」

「えと・・・その、先生を泣かせたり、傷つけたりしたら、あ、あと、自分だけ逃げようとしたら、許さない。絶対に。」

「目がガチじゃん・・・わかったわかった、俺が守るから!そんでいいだろ!」

「よし」

「いい、です・・・」

アレンハイド、2人の迫力に思わずタジタジしてる。

「マイカちゃん、いざとなったらアレンハイドくんにたくさん守ってもらいな!」

「そうですね、そうします!」

「そんじゃ、返事しにギルドに行くんでしょう?行ってらっしゃい」

「行ってきます!」


「・・・そうですか。ではお受けいただけるのですね。ありがとうございます!ご協力、感謝します。」

「出発は明日の朝ですか?」

「そうですね、できるだけ早い方がいいです。でも準備とかは大丈夫なのですか?」

「はい、どうせそんなに持ち物なんてありませんし」

「そうですか。では、注意事項をお話します。まず、救助についてですが、建物やダンジョン内であれば、先遣隊を優先してください。外で行うときは優先順位はありません。それと、こちらが今回派遣した派遣員の名前と特徴リストです。全部で10人います。」

「先遣隊の人の名前や特徴はわからないんですか?」

「残念ながらわかりません、しかし、先遣隊の方々は皆さん結構ごつい鎧をしていたのでわかると思います。」

「わかりました。」

「あとは、もし魔物が倒せないときは、お2人だけでいいので必ず戻ってきてください、あとは無謀な行動はしないでください、特にマイカさん」

「う・・・わかりました、今回は宿の女将さんとも約束しましたし、アレンハイドに遠慮なく守ってもらいます」

「ちょ、おま・・・」

「はは、お2人は面白いですね。では、注意事項は以上です。明日の朝、午前6時にギルドに来ていただけますか?ギルドの派遣員にかたのと同じ魔法をお2人におかけします。」

「わかりました。配慮、ありがとうございます。」

「いえいえ、このくらい当然のことです。では明日、お待ちしていますね。」

私たちはギルドを出た。

旅か。馬車に乗るのは初めてだからワクワクするな。

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