第20話 報告会

そして後日。

私たちは「大規模討伐に関する報告会」という会に出席するためにギルドに来ていた。

「お、2人ともちゃんといるな!」

「はい、ウォルフさんも無事だったんですね!治療している時に見なかったので心配しました!」

「あぁ、何とかな。それにしてもお前、随分と活躍したらしいなぁ。ロイドのやつから話は聞いてるぜ。」

「ロイドさん・・・?」

「ちょっと親父、言っただろ?俺らは隊長以外誰も名乗ってないんだから顔は知ってても名前なんて知らねぇに決まってるって」

外から誰かが入って来た。

どこか見たことある顔だと思ったら治療組で一緒だった人らしい。

それにウォルフさんのこと「親父」って、まさかこの人、ウォルフさんの息子・・・?

「あ、隊長、お久しぶりっす!俺のこと覚えてますか?俺、ロイドって言うっす!いつも親父がお世話になってるっす!この前の討伐、隊長すごい活躍してたっすよね!知ってるっすか?この前の討伐の死者、誰もいなかったんすよ!俺らの周りにめっちゃ結界張って1人ででっかい魔物のとこに突っ込んだときはさすがに死ぬかと思ったけど、そんでもそいつを倒しちゃう隊長、マジすげぇっす!・・・あ、隊長の隣にいる人ってなんか怪我人運ぶ人の伝令やってたっすよね?俺覚えてるっす!」

「あ、ああ・・・」

アレンハイド、すごく困惑している。

少し面白いが、このは助けてあげようかな。

私のこともこと細かく語られるのはちょっと恥ずかしいし。

顔はもちろん知っている。私が大きい魔物と戦おうとした時に止めようとしていた人だ。

「あ、もちろん顔は覚えてます。ロイドさんと言うんですね、お久しぶりです。それにしても、今ウォルフさんのことを『親父』って・・・」

「あ、そうなんすよ!こいつ、俺の親父なんっすよー!」

・・・全然似ていない。

いや、なんかノリっていうのか?が似てる気がする。

「そうなんだ、だから2人とも仲が良さそうなんですね!」

「「どこが!」」

あ、ハモった。

やっぱり面白いな。

「おっと、忘れるところだったぜ。お前、この後の報告会で何か喋ることになってるから何か考えとけよー」

「え!?ちょ、そんなの聞いてないです!もっと早く言ってくださいよ!」

「ハッハッハ、すまんなぁ!でも、これは確定事項だから、よろしくな!」

「親父ぃ、あんま隊長困らせんなよ!俺、隊長の言葉楽しみにしてるっす!んじゃ、失礼するっす!」

・・・ウォルフ親子、言うだけ言って去っていったな。

まるで嵐みたいな人たちだ。

それにしても「何か喋る」って・・・

何を喋ればいいの?

うーん、まずは「討伐お疲れ様でした」、「怪我をした人が多かったですが、無事成功してよかったです」・・・あ、そういえばロイドさん、死者がいなかったって言ってたな。じゃあ「死者が出ずに終われたこと、怪我人の治療をしていた者として嬉しく思います」って言って、あとは「これも治療組の皆さんのお陰です」、あとはみんなを労って終わりにしよう。

忘れると怖いからスマホにメモしておいて自分の番までに覚えなきゃ。

「ん、その記号、なんて意味だ?」

アレンハイドが聞いてきた。

あ、そうか。アレンハイドはこれが読めないのか。

「うーんと、ざっくり言うと喋る時に言う台詞をまとめたもの・・・かな。『討伐が成功してよかった』、『皆さんのお陰ですありがとう』みたいなことが書いてあるよ」

「あー、カンペか」

・・・カンペって、この世界にもあったんだ。

「いや、本番までに覚える」

「そうか、じゃあ本番楽しみにしてる」

「そんな楽しみにする所ないんだけど」

「いや、ある。」

「どこ?」

「マイカが噛んだとき」

「うわー、ひっどー!」

アレンハイド、意地悪。

・・・でも私が緊張してるのを見て言ってくれたのかな。

うん、そういうことにしておこう。

それならありがとう、お陰で緊張はほぐれたよ。

・・・あ、もう1つ話そうかな。


「さて、みんな来たみたいだしそろそろ始めるぞー、みんな、その辺の椅子に適当に座ってくれ。」

・・・ついに始まった。

「まず、マスターから話があるそうだ。」

すると、1人の男性が前に立った。

この人がここのギルドマスター?随分と若く見える。

「皆さんこんにちは、初めましての方もいらっしゃいますね。私がここのギルドマスターのソウです。この度は、皆さんの討伐への参加、誠にありがとうございました。皆さんのお陰で、街が魔物の脅威に晒されなくて済みます。また、今回は想定外のことが起きました。これはギルドが情報の確認を怠ったことが原因です。誠に申し訳ありませんでした。

では、次に、皆さんの報酬についてですが、まず全員に基本額3000Gをお渡しします。さらに、何人かの報告を聞くと今回はどうやら治療組の方々が頑張ってくれたそうなので、治療組の方々には+500G、さらにウォルフから聞いたのですがマイカさんという方がとてもご活躍されたそうなので、さらに+500G差し上げたいと思います。最後になりますが、今回は本当にお疲れ様でした。」

若いのにしっかりしている。

話は少し長かったが、話自体は1つ1つまとまっていて、必要最低限だけなのでわかりやすかった。

でも治療を頑張っていたのは主に私以外の人だったからそっちにあげて欲しい気がする。

「じゃあ次!今回の討伐ですごい活躍をした。マイカの話だ。俺たちは今回、マイカがいなかったらこの討伐を成功させていなかった。それぐらい、マイカは大事な仕事をした。列の後ろから近づいてくる魔物を瞬殺したのも、ブラック・ベアが2体いることがわかったのもマイカのおかげだ。そんなマイカからの挨拶だ。」

ウォルフさんが私を見る。

あー、緊張するけどやるしかない!

「皆さんこんにちは。先程ご紹介いただきました、マイカです。まずは、討伐お疲れ様でした。死者が出なかったことは、治療を行った1人の人間として、とても嬉しく誇らしい気持ちです。しかし、これは治療組のみんなのおかげだと思います。もし治療が少し遅れていたら、助かっていない人が少なからずいたかも知れません。また、怪我人を運んでくれた皆さん。皆さんのお陰でより多くの怪我人を治療することができました。そして、討伐組の皆さん。強敵2体を相手に、よく立ち向かってくれました。今回の勝利は、皆さんの協力があってこそです。皆さんがよく働いてくれたおかげで、私もファイヤーボールを人に当てなくて済みました。最後に、今回は本当にありがとうございました」

・・・ふぅ、終わった。


報告会を終えて、帰ろうとしていると、声をかけられた。

「隊長ー!」

「いやー、隊長のお話すごいよかったです!」

「僕らなんかを労ってくれるなんて、会長は優しいですね!」

「あんなに強いのに優しい会長、すげえ!」

「あ、ありがとう・・・」

なんか褒められる

「あ、忘れてた!ギルマスがマイカさんとアレンハイドさんのこと呼んでましたよ。あとで執務室に来るように言ってました」

「ありがとう、行ってみる」


執務室に着いた。

「ねぇ、アレンハイド、なんの話だと思う?」

「さぁな。ただ、悪い話ではないと思うぞ。」

「そうだね。少しワクワクする。」

ギィィィィィ。

・・・扉が開いた。

私は意を決して、1歩を踏み出した。

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