第17話 剣の先生2
「お、おはようございます!その、邪魔してごめんなさい!」
会って早々、ターシャちゃんは顔を真っ赤にして謝ってきた。
開始時間まであと30分もある。
別にターシャちゃんは邪魔なんてしてないし、開始時間より早く来たのだからむしろ褒められるべきだと思う。
それにしても・・・可愛い。
しっぽとかもふもふしたい。
・・・おっといけない。
危うく理性を失うところだった。
ターシャちゃんも来たし、まだ早いが始めてもいいだろう。
「ううん、別に邪魔になんてなってないよ、じゃあ時間より早いけどはじめよっか!」
「はい、よろしくお願いします、先生!」
「うんうん、よろしくねー!」
先生か・・・いい言葉の響きだな。
私も頑張らなきゃ!
「じゃあ、まず最初にいくつか質問するけどいい?」
「は、はい!」
「じゃあまず1つめ。ターシャちゃんは、どうして私みたいになりたいと思ったの?」
これはターシャちゃんに剣を教えるにあたってとても大事なことだ。私の感覚だと、小さい頃から剣に興味を持つのは男の子のような気がする。
特にこのターシャちゃんの場合、普段は部屋からあまり出てこないということは、男の子みたいな遊びが好きなわけでもないのだろう。
可能性があるとしたら、どこかの学校に行きたいか物語を読んで憧れたかのどちらかだろう。
「それは、えと、私、昔絵本で読んだ女の騎士さんが大好きで、だから将来は、あの、この国の王国騎士団に入りたくて、そこに入るには王立第1剣魔法学院に特待生で入らなきゃいけないんです!学院には10歳になったら入学できて、わ、私今年10歳なので、どうしても入りたくて・・・でも、私、剣術が苦手だから試験に受かるかどうかも・・・」
まさかのどっちもだった。
しかも王立って、王様が直々に経営しているのか。すごいな王様。
特待生ということは相当な実力がないとダメなのだろう。
「そっか、わかった。入学試験っていつなの?」
「えっと、2月11日です」
あれ、そういえば今日って何月何日なんだろう。
前の世界では今は11月だった。
あとでアレンハイドに聞いてみよう。
「・・・わかった。じゃあ次、さっき剣術が苦手って言ってたけど魔法は使える?」
「魔法・・・えっと、簡単なのしかできないです」
とりあえず魔法は使えるのか。それなら剣に魔力を流せれば何とかなるかもしれない。
となるとMPの値によるな。
ターシャちゃん、勝手にごめん。鑑定。
ターシャ Lv.1
HP 30
MP 150
・・・同年代の子の強さがわからないから強いのかどうかがわからない。
でも武器屋のグルダさんはMPを200消費するのは大魔法だって言ってたからそれなりに多い方なんじゃないか。
どちらにしろ、魔力の心配はしなくても大丈夫そうだ。
・・・ん?学院の名前って「剣魔法」学院だよな。
ということは試験科目にはどちらもあるんじゃないか?
・・・もし魔法も試験科目にあるなら魔法もなんとかしないとな。
「そっか、でも大丈夫だよ、魔法もなんとかするから」
なんとかするとは言ったものの、王立第1剣魔法学院の試験内容を知らないのでどんな対策をすればいいのかわからない。
・・・これは長い戦いになりそうだな。
もしかしたら今日は図書館みたいなところに行って色々調べる必要があるかもしれない。
「それにしても受験かー、懐かしいな」
「え?懐かしい?先生も入学試験受けたんですか?」
あ、声に出てしまっていた。
「うん・・・と言ってもそんなにレベルの高い学校ではないけどね。あ、試験ならついこの間も冒険者登録する時に受けたなぁ」
「えっと、冒険者登録の試験って言うと、実技試験ですか?」
「そうそう、よく知ってるねー」
「い、家が宿屋なので・・・」
「あ、そっか。お客さんの話とか聞こえるもんね」
「は、はい。確か、ウォルフさんという強い方が試験官なんですよね?合格するのはすごい難しいとか・・・」
宿屋は確かに情報が入りやすい場所だとは思うが、そんなことまで入ってくるのか。
宿屋の子、恐るべし。
「うん、あの人は強かったなー。でも、そんなに難しくはなかったよ」
「え?そうなんですか?そ、それは先生が強いからでは?」
「そうかな?そんなことないと思うけど・・・」
「そうです!それに、ウォルフさんは可愛い女の子には特に厳しいらしいですよ!」
そうなのか、それは初耳だ。
「え、そうなの?なんで?」
「とある冒険者さんに聞いたんですけど、ウォルフさんは女好きで、『可愛い女の子は死なせたくないから冒険者にしない!』とか言っていたそうです」
あぁなるほど。確かに女好きの人にとっては可愛い女の子が死んだら悲しいだろう。
「うーん、でも私は受かったし、別にそんなに可愛くもないしなぁ・・・」
「な、何言ってるんですか!普段の先生はとても可愛いです!その、特にいつも一緒にいる男の人と話しているときとか、その、え、笑顔が素敵です!私なんかより、何倍も・・・」
ターシャちゃんが早口でまくし立てる。
可愛い。可愛いだって。私が。
でも大丈夫、ターシャちゃんの方が1000倍も可愛いよ。
だってもふもふしたいもん。
・・・おっと、いけないいけない。
「ありがと。でもターシャちゃんだって可愛いよ?」
「!!ありがとうございます!」
「さ、じゃあ雑談はここら辺にして、とりあえず実力を見せてもらえる?」
「わかりました!」
「まずは剣かな。ちょっとこれ持ってみて」
私は昨日買った木刀を渡した。
・・・うん、長さはいい感じ。さすがグルダさん。
「これは・・・?」
「これは木刀って言って、木でできた刀みたいなものだよ。軽く振ってみて!」
私に言われてターシャちゃんは木刀を横に一閃する。
・・・うん、思ったよりマシかな。でも軸がブレていて
「OK、だいたいどんな感じかわかった。じゃあ次は魔法ね。ちょっと待ってて。」
そう言って私はとある結界をイメージする。
よし、これで大丈夫。
あれ、大丈夫だよね?この結界見えないんだけど。
「お待たせ!じゃあ、私に向かって何か攻撃魔法使ってみて!」
「い、いえ、全然待ってません・・・え?せ、先生に向かってですか?そ、それは、いくら先生でも、危ない気が・・・」
「私は大丈夫!さ、遠慮なく!」
「は、はい。それじゃあ・・・」
ターシャちゃんは目をつぶり、深呼吸する。
「いきます!ウォーターボール!」
すると、ターシャちゃんの手のひらからちょうど野球ボールぐらいの大きさの水の球が出てきて私に向かってきて、そして私の張った結界(見えなかったのでわからないが多分そうだと思う)に吸い込まれて消えた。
あれ、思ったより使えてないか?
「あれ、私の魔法、消えて、え、なんで?今までこんなことなかったのに・・・」
「あ、それはね、私が魔法を吸い込む結界を貼っていただけだから」
「そ、そうなんですか!そんなことができるなんて、せ、先生はすごいですね!」
そう言うターシャちゃんは疲れているように見える。
もしかして相当なMPを消費していたりするのか?
もしそうだとしたらどのくらい減っているのだろうか。鑑定。
ターシャ Lv.1
HP 30
MP 100
・・・3分の1か、これは思ったより消費していたな。
まぁ慣れればそんなに消費しなくなるだろう。
ピロリーン。
―スキル 「魔力感知」を獲得しました。
魔力眼?なんだそれ。鑑定。
魔力感知(サーモグラフィーモード)
魔法に使われる魔力の流れが見える。
魔力が少ない所は黒や青に、多い所は赤や白に見える。自分の意思でオンとオフにできる。
なんだサーモグラフィーモードって。
あ、もしかしたらこれで魔力の流れが見えるかもしれない!
よし、魔力感知オンにしてー・・・
「せ、先生?ど、どうかしましたか?」
・・・少し考えこんでしまった。
「あ、ごめんごめん、なんでもないよ!あ、今のもう1回私に撃てる?」
「え?もう1回ですか?」
「うん。キツそうならいいけど。どう?」
「が、頑張ります!」
「無理は禁物だよ?」
「は、はい!じゃあいきます!ウォーターボール!」
・・・おお、すごいぞ。さっきまで水色がかっていた水の球が赤と白に見える。
球の中心より少し右に白い部分が多いな。
球全体は赤いが、球を放つときに手から黄色っぽいもやもやが見える。
多分これは球に魔力を完全に集め切っていないな。
これを完全に球に込められたらもっと強い威力で撃てるようになるかな。
「先生!ど、どうでしたか?」
「うん、撃ち方はいいと思うよ。あとちょっと改善したらもっと高威力の魔法が撃てるようになると思う」
「ほ、ホントですか!ありがとうございます!」
そう言うターシャちゃんは少し疲れた様子を見せている。
まぁ、1発でMPを3分の1消費する魔法を2発も撃てばそうなるか。
あ、魔力供給とかできるかな。
「あ、ターシャちゃん、少しだけ手を繋いでもいい?」
「て、てててて手ですか?いいですけど・・・その、なんでですか?」
「うーん、それはあとでのお楽しみ!ダメかなぁ?」
「い、いえ!け、決してダメなわけではないです!」
「ありがとう!じゃあ、ほいっと!」
「ひゃぁぁ!」
「あ、ごめん、急でびっくりした?」
「そ、それはびっくりするに、き、決まってるじゃないですか!」
「そっか、じゃあ次からはなるべく驚かせないようにするよ!」
「そ、そういう問題じゃないんですけど・・・(ブツブツ)」
ターシャちゃんが何か言っているが、気にしないでおこう。
私からターシャちゃんに繋いだ手を通して光が移るのをイメージする。
すると、ターシャちゃんの体が光りだした。
光が収まるのを待って手を離す。
おお、やればできるものだな。
すごいぞ、スキル「想像力」。
「わぁ、疲れが取れた気がします!あの、今のは・・・?」
「ターシャちゃんが魔力を結構消費してたから、私の魔力をターシャちゃんに移したの」
「そ、そんなことできるんですか・・・というか先生、わ、私が魔力どのくらい消費してるかとか、その、わかるんですか?」
「うん、わかるよ!」
「はぇぇ・・・せ、先生すごいです!じゃあ、あの、私の魔力は、最高で、ど、どのくらいですか?」
「えぇっと、今は最高150だね」
「150・・・?」
「えっと、さっきの魔法を3発撃ったら魔力切れになっちゃうぐらい」
「そんな・・・」
「ターシャちゃん、そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。さっき見てたんだけどターシャちゃんは手から出る魔力を完全に球に集め切れていないから、そこを改善すればもっと威力よ強い魔法を撃てるし、魔力の制御を覚えればもっと球の大きさを変えられるようになるよ!」
「は、はい、先生!」
「よし、じゃあ今日はもういい時間だから終わりにしようか!ターシャちゃんの弱点がわかったから明日からは本格的に弱点を克服する練習をしよう!あ、木刀はそのまま持ってていいよー」
「は、はい!ありがとうございました!」
「じゃあ、明日も同じ時間にここで!」
「はい!よろしくお願いします!」
図書館へ行く途中、ふと思い出したので聞いてみた。
「ねぇアレンハイド、今日はクエストじゃなくて図書館みたいな所に行ってもいい?」
「別に構わんが、なんでだ?」
「ちょっと調べたいことがあって。」
「そうか。」
「あ、あとさ、今更なんだけど、今日って何月何日?」
「・・・本当に今更だな。今日は12月13日だ。」
なんと試験まであと2ヶ月もないじゃないか。
「わかった。・・・ちなみにこの世界の日付けってどんな感じ?」
「1月から13月まであって各月それぞれ30日。曜日は木火金水土の5つだ。ちなみに時間は1日24時間だな。」
なんだ、3ヶ月ぐらいか。
・・・いや、だとしてもそんなにのんびりはしていられない。
「ありがと。」
「おう、あ、これが図書館っぽいぞ」
「ほんとだ、思ったより大きいね」
「あぁ、早速入ろうぜ」
私たちが中へ入ると、すぐに司書さんが声を掛けてきた。
「ようこそ、国立第2図書館へ。何かお探しでしょうか?」
第2ということは第1もあるのか。
第2でこの広さなら、第1はどれだけ広いんだろう。
これではお目当ての本を探すのにも一苦労だ。
司書さんがすぐに声を掛けてきたのも頷ける。
「あの、王立第1剣魔法学院に関する本と魔力に関する本はありますか?」
「はい、少々お待ちください。」
そう言うと司書さんはどこかへ行き、すぐに戻ってきた。
「お待たせしました、こちらへどうぞ」
言われるがままについて行くと、数冊の本が置いてある机に案内された。
「こちらにご希望のジャンルの本がございます。貸し出しと本の持ち出しは原則禁止となっております。また、王立第1剣魔法学院についての本をお探しになられていたので、学院の受験要項と願書をご用意させて頂きました。こちらはどうぞお持ち帰りください。願書を提出する際は、こちらに持ってきていただければ学院にお送りします。お帰りの際は、本はそのままで結構です。それではまた何かありましたらお申しつけください。」
え、ここの司書さん優秀すぎる!
どういうシステムなんだろう、気になるけどまずは調べ物しなきゃ!
その後調べた結果、10歳の魔力量の平均は100で、ターシャちゃんは平均を大きく上回っていることがわかった。
ちなみに個人差はあるが20歳の男子が1番魔力量が多いらしい。
その数値は600。
やはり私のステータスは異常だということが改めてわかった。
さらに、優秀な司書さんがくれた募集要項に載っていた試験内容は、実技試験合計200点(剣、魔法)、筆記試験合計100点(国語、数学、魔法学基礎、剣術学基礎)となっていた。
ちなみに合格点は120点。
見ておいて本当によかった。ちなみに願書の締切は1月末までらしい。ターシャちゃんが願書を出してあるかは分からないので一応持って帰ろう。
そうだ。一応筆記試験の過去問とそれぞれの科目の本とかないかな。
「すいませーん」
「はい、なんでしょうか?」
司書さん、すぐに飛んできた。
「あの、王立第1剣魔法学院の筆記試験の過去問と剣術学基礎と魔法学基礎の本ってありますか?」
「少々お待ちください」
するといきなり机の上の本が消え、新しい本が現れた。
魔法か。確かにそれなら早い。
「こちらにございます」
「早っ。ありがとうございます」
「いえ。それでは、ごゆっくりどうぞ」
よし、まずは魔法学基礎の本を見よう。
・・・これは、色々載っているな。
魔法の定義というのは国によって違うのか。
難しいな。
魔法陣の描き方に、イメージのしかたまである。
これが出されたらキツそうだ。
でもなんとなく理解できた。
よし、次は剣術学基礎の本だな。
・・・なるほど、戦い方によって構え方は分けた方がいいのか。やはり、剣の間合いはどこに行っても大切なのか。
振る時に体の軸を伝って全身の力が肩に伝わるように振るといいのは初めて知ったな。
最後、学院の過去問!
国語は少し難しかった。
こちらの言語の意味は問題なく読めるし理解もできるのだが、私から見たら文字が日本語に見える・・・という訳ではないので、私にとってはどちらかというと英語のような感覚だ。
ただ、問題文自体はそんなに難しくなかったと思う。
数学は簡単だった。
簡単な文字を使った計算さえ使えれば問題はない。
この国では数字の表記はどうやら元の世界と同じ0,1,2,3・・・というものだったし、+,-,×,÷も同じだったので、これは楽だった。
魔法学基礎と剣術学基礎も簡単だった。
少し本を読んだだけの私でもスラスラ解けた。
・・・よし、これで明日からの練習メニューを考えられる。
あ、その前にターシャちゃんの筆記も見ないと。
そんなことを思いながら私は満足気に図書館を出た。
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