第16話 剣の先生1

「え?」

「こら、ターシャ!お客様に失礼でしょ!ごめんさないねぇ、この子私の娘なんですよ。普段は部屋からから出てこないのに・・・」

ナージャさんがフロントから出てきた。

ターシャって言うのはこの子の事か。

ナージャにターシャ・・・なんとなく名前の響きが似ているな。

でも、この子がナージャさんの娘?

顔も全くと言っていいほど似ていないし、何より頭に耳がついている。

よく見たらしっぽも。

これが獣人・・・てやつなのかな?

初めて見た。

あれ、でもナージャさんは人間にみえる。

「えっと、ターシャちゃんでしたっけ、この子獣人ですよね?」

「ええ、この子がまだ小さいときに近所に捨てられていたのを私が拾ったのよ。私は普通の人間だから獣人の育て方なんて知らないし、周りにも獣人の人なんていなかったけど、獣人は今奴隷としてうられているじゃない。それを思ったら見過ごせなくてね・・・」

そうだったのか。

獣人がいた時点で考えたけどやっぱりこの国にも奴隷とかはあるのか。

「で、ターシャちゃん?私たちに何か用かな?」

「え、えっと、あの、その、お姉さんに、お願いが、あり、ます・・・」

お願い?私、この子に何かしただろうか。

「お願い?」

「ひ、ひゃいっ!」

「緊張しなくても大丈夫、ゆっくりでいいから落ち着いて話してごらん?」

「は、はい・・・あの、わ、私に、その・・・剣を教えてくださいっ!」

「うんうん、ってえぇ!?剣!?私に!?」

「こら、ターシャ、お客様を困らせないの!」

「・・・」

私は驚き、ナージャさんはターシャを叱る。

アレンハイドに至ってはさっきから目をパチクリさせて一言も発していない。

とりあえず詳しい話を聞かないと。

「私に?なんで?」

「あの、そ、それは、今日の朝、お姉さんが剣の素振りしてて、それが、その、すごいかっこよくて!なんか、まるで、剣の精霊が舞っているようで!だから、その、私も、お姉さんみたいになりたいなって思って・・・」

「そっかー、でも剣のことなら私よりも隣にいるアレンハイドの方が詳しいと思うよ。だよね、アレンハイド?」

「え?あ、まぁ、俺もそこまで詳しいわけじゃないけど、昔少しやってたからな。でも、男と女じゃ筋肉のつき方が根本的に違うから教えるなら女同士の方がいいんじゃないか?」

「だって私まだ剣を使い始めて1日も経ってないよ?」

「あぁ、そう言えば昨日の実技試験が初めてなんだっけ?」

「うん。」

「でも、昨日のクエストの時に見たが別に問題なく扱えてたぞ」

「うそ?」

「ほんと。だから別にお前が教えても問題ないんじゃないか?というか、お前今朝素振りなんてしてたんだな。」

「まぁ、早く起きちゃって。・・・ねぇ、ターシャちゃん、本当に私でいいの?」

「わ、私は、お、お姉さんがいいです!あの、朝も頑張って早く起きます!だから、お、お願いしますっ!」

「・・・わかった。教えられる範囲でいいなら教えるよ。じゃあ、早速だけど明日の・・・7時30分からでいいかな?」

「やった!ありがとうございます!」

「じゃあ、明日からよろしくね!」

「よろしくお願いします!」

「マイカちゃん、本当にいいの?」

「いえ、これからナージャさんにはお世話になりますから。」

「そう言ってくれると嬉しいわー、じゃあ明日からよろしくね!」

「はい!それじゃあギルドに行ってきます!」

「いってらっしゃーい!」


「マイカ、本当にいいのか?」

「どうしたのアレンハイド急に?」

「だって朝7時30分ってすごい早く起きないといけないじゃないか、あの子・・・ターシャはともかく、マイカは教える側だしターシャが来る前に軽くウォームアップとかあるだろ。」

「うん。それがどうしたの?」

「そうしたら30分前・・・7時には起きて着替えなきゃならないんだぞ?」

「別に普通じゃない?だって今日起きたの5時30分だし」

「素振りしてたって言ってたがそんなに早く起きてたのかよ・・・」

「まぁね。あ、ギルドだよ、よし、今日もクエスト頑張ろう!」

「お、おう」

その後、私たちは順調に6つのクエストをこなし、40000Gをかせいだ。


帰り道。

「あ、ちょっと武器屋さん寄っていい?」

「いいけど、なんでだ?」

「買いたいものがあって。」


「すいませーん、グルダさんいますかー?」

「ん?・・・おう!昨日ぶりだな。どうした?」

「あの、木刀ってあります?」

「木刀?あるぞ、こっちだ」

そう言うグルダさんの後を追うと、そこにはたくさんの木刀があった。

「ここだ。それで、どんな木刀が欲しいんだ?」

「この前の剣と同じぐらいの長さとか太さのやつで、この前の剣より少し重めで魔力流せるやつを1本と、小さい子が持てるぐらい軽くて細くて魔力を流しやすいやつを1本」

「最初に言ったようなのはねぇちゃんのやつだろ?それなら・・・これだな。」

渡された木刀を手に取り、軽く振ってみる、

「これはちょうどいいですね、振りやすいです」

「そうか。それで、もう1つのやつは子供用だな。ねぇちゃん、子どもいたのか?」

「いえ、お世話になってる人の子どもなんですけど、その子に剣を教えることになって・・・」

「なら、子ども用で初心者でも扱いやすいのがいいな。そうすっと・・・これだな。」

「ありがとうございます!合計いくらですか?」

「大きいのが1000G、小さいのが500Gで1500Gだ」

「はい、これお金です」

「・・・よし、ちょうどだな。剣の先生、頑張れよ。」

「はい!今日もありがとうございました!」

「あぁ、また来いよ!」


「お待たせ!」

「いや、別にそんなに待ってない。・・・というかマイカ、わざわざ剣を教えるために木刀買ったのか。」

「うん!やっぱり実剣でやるのは怖いし、かと言って何もないのはやりにくいでしょ?」

「まぁ、そうだな・・・」



次の日。

私はやはり5時30分に目が覚めた。

今日は木刀を2本持って中庭に行く。

今日も中庭に行く途中でナージャさんと会った。

「あら、今日は昨日持っていた剣と違うのねぇ、それは木刀かしら?それに今日は2本・・・まさか1本はターシャのためにわざわざ?」

「あ、はい。剣の鍛錬にはやはり木刀は欠かせませんから。木刀でできる動きは全て剣でもできる、などと言われていますし」

ちなみにこの言葉は私の曽祖父が言っていた言葉を少し変えたもので、元々は「竹刀でできる動きは全て刀でもできる」だ。

私はあまり曽祖父に会ったことは無いが、曽祖父は昔剣道をやっていたらしい。

「あらー、そうなの、悪いわねー、あの子まだ起きてないのよー」

「いえ、ターシャちゃんには7時30分からと言ってあります、私も少しは鍛えないと」

「あらまあ、マイカちゃんは本当に偉いわね!頑張ってね!」

「はい、ありがとうございます!」


さて、今日は木刀だ。

昨日振った剣より少し重めなので木刀に振り回されている感じがするな。

それでも1時間と少し振っていると、最初よりかなりマシになった。

そこで木刀に魔力を流す。


ピロリーン。

―木刀が持ち主の魔力を感知しました。

―木刀が「和泉 舞華」を持ち主として認識しました。


・・・木刀にはどうやら銘などはないようだ。

魔力を流した状態で木刀を振ってみると、やはり剣と同様に振りやすくなっていた。

昨日は剣と私が一心同体のようだと思ったが、それは木刀と私の魔力が同調しているからだとハッキリわかった。


気がつけば朝7時。

私はドアの隙間からこっそりとこちらを伺う人影に気づいた。

「おはよう、ターシャちゃん」

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