第10話 店主、いい人!

「広ーい!地下にこんな場所があったなんて!」

そこは訓練場のようだった。

ギルドの訓練場と違うのは、地面が土でできていることと、2倍以上の広さがあることだ。

「だろ?さて、ここに藁人形がある。2体用意しているから存分に試し斬りしてみてくれ」

そう言われると私は藁人形の方に向き直った。

まずは細身の剣。手に持ち、軽く振ってみると、予想以上の軽さだった。

細身なので、この剣を使って戦うとすると「斬る」と言うよりは「突く」に近い動きになるだろう。

剣を構え、藁人形に対峙する。今回は斬れ味を確認したいので普通の剣と同じように「斬る」動作をする。

「はぁぁぁっ!」

スパッ。ドサッ。

そんな音がしたので、藁人形を見ると、見事な切り口だった。

斬った時の感覚は、日本刀に近いものだろうか。日本刀なんて触ったことないけど、テレビとかで見ている感じと似ている気がする。

よく見ると、ゲームの中でレイピアと呼ばれる剣に似ている。

あれ、私案外ゲームやってるんじゃないか。

それなら使ったことの無い武器でもゲームの映像を見ているから使えるかもしれない。

これもあとで試してみよう。

とにかく、今は剣だ。

私はもう1本の剣を手に取り、先ほどと同じように振った。

ザンッ。ドサッ。

こっちの切り口も見事なものだった。

やはり、この剣の方が太いぶん斬撃が重いが、遠心力を使って斬ることができるので力がそんなに要らないのが意外だった。

それにこの剣も思ったより軽い。

威力はやはり太いだけあってこっちの方が強いな。

よし、こっちにしよう。

デザインも銀色の鍔に水色の宝石みたいなのがついていて綺麗だし。

「どうだいねぇちゃん、試し斬りしてみた感想は?」

「どちらも軽くて使いやすかったです。ただ、威力は強い方がいいと思うので、この太い方にします。この軽さなら長時間持ち運んでも疲れないので」

「そうか、じゃあ次は防具だな。一緒にいたあんちゃんは盾と軽装鎧を買うって言ってたがねぇちゃんはどうする?ねぇちゃんのことだからまた何か考えてんだろ?」

いやそんな常に何か考えてる訳ではないのだが。

と言いつつ考える。

あの結界は転んだ時のダメージも無くしてくれるのだろうか。

「えぇっと、防御魔法があるので盾はいらないです。・・・でもその魔法がどこまでのダメージを無効化できるのかわからないので試してみないことにはなんとも言えません。」

「そうか、なら今試してみたらどうだ?」

「・・・え?」

それはこちらにとっては願ってもない申し出だが、いいのだろうか。

こころなしか、グルダさんも楽しそうだが。

「ここならある程度の耐久力はあるし、周りの人を巻き込むこともない。見られたくないなら後ろを向いてるから好きなだけ試してみるといい。」

「ありがとうございます!」

そう言うといきなり私は前に転んだ。

攻撃をはね返すときに鳴るあの独特な音は鳴らない。

「おいおいねぇちゃん大丈夫か?疲れてんじゃねぇか?」

「いえ、大丈夫です。これも実験なので」

「そ、そうか?ならいいけどよ・・・」

心配するグルダさんを横目に私は服や肌を確認する。

痛みは一切ない。

さらに服には土でさえついていなかった。

次は後ろに倒れる。

先ほどより勢いをつけて転んだが、後頭部に痛みは訪れなかった。

頭が何かふわふわクッションのようなもので守られている感覚がする。


ピロリーン。

―称号 「観察者」を獲得しました。

―スキル 「観察」を獲得しました。


・・・今のは観察ではなく実験なのだが、どうしてスキル名にも称号にも観察とついているのだろうか。あとで鑑定してみよう。

「ねぇちゃん、本当に大丈夫か?また倒れたが・・・」

「いえ、これも実験の一環なので大丈夫です。・・・あ、背中に土ついてますか?」

「背中?・・・いや、大丈夫だ。」

「なら鎧は必要ないと思います。でも心配なので手をガードするやつと剣を腰につけるためのベルトと剣の鞘が欲しいです」「鎧がいらない!?・・・まぁねぇちゃんの事だし何かあるんだろう?」

「まぁ、そんなところです」

「なら、手甲だな。手甲なら革製の軽いやつがあるからそれでいいだろう。ベルトと鞘はセットでついてくるから心配せんでも大丈夫だ。」

グルダさん、なんていい人なんだ。

試し斬りだけでなく、武器を選ぶ相談にも乗ってれて、転んだだけなのに心配もしてくれる。その上、ベルトと鞘までつけてくれる。

もしまた武器を新調する機会があったらその時も絶対にここで買おう。

「ありがとうございます!」

「じゃ、あんちゃんのところに行くか。もうそろそろ選び終わってんだろ。」

「はい、そうですね。」

1階に戻ると、アレンハイドはちょうど装備を選び終わったところだった。

「あんちゃん、選び終わったか?」

「ああ。」

「じゃああとはねぇちゃんの手甲だが・・・これでどうだ?」

そう言って渡されたものは、茶色い革製の手甲だった。

サイズもちょうどいい。

「ちょうどいいサイズだし、カッコイイです!・・・でも、よく私の手のサイズわかりましたね。私、身長の割に手が小さいって言われてるんですよ?」

これは事実だ。

忘れもしない、私が中学2年生の時。

私は、当時小学5年生の女の子に手のサイズで負けたことがあるのだ。

「そのくらいねぇちゃんの剣の持ち方とかを少し見ればわかるさ。なんてったって俺はこの道40年だからな。」

どうやら、すごいベテランだったらしい。

どんな戦い方をしたいか伝えただけでどんな武器が合っているかわかるなんて武器に相当詳しくないと無理だ。

「さ、会計だな。あんちゃんの剣が3000G、盾が2000G、軽装鎧が5000G.ねぇちゃんの剣が2500G、それと手甲が800Gだな。合計は14300Gだ。ねぇちゃんには言ったが、ベルトと鞘はセットでついてくるから別途買う必要は無いぞ。」

「そうか。それは礼を言う。」

「なぁに、それには及ばねぇさ。俺も久しぶりに楽しい仕事をさせてもらったからな。」

「楽しい仕事?」

「あぁ、そこのねぇちゃんの武器について相談したんだが、ねぇちゃんは若いのに自分の特性を生かした戦い方をもう考えてる。しかも魔法だけに頼らずにいざとなったら武器を使うことも実は魔法使いには必要なんだが、なかなかそこまで考えられるやつはいねぇ。だが、そこまでねぇちゃんは考えてる。久々に話を聞いてて面白かったぜ。」

どうりで楽しそうにしてたわけだ。

しかし、あの話だけでそんなに褒められるとは思ってもみなかった。

・・・おっと、そうこうしているうちにお会計が終わったようだ。

「ありがとな!また来てくれよ!」

「はい、また来ます!」

「ああ、また武器を買う時はよろしく頼む」


ついに武器を買った!

早速だが装備してみた。

「どう?似合ってる?」

「あぁ、この世界にどこにでもいる冒険者って感じだ。」

「ひっどー!どこにでもいるって何よ!」

「あーはいはい悪かった悪かった」

「アレンハイドも似合ってるよ?何か弱い勇者、みたいな感じで」

「誰が『弱い』だ!弱いは余計だ!」

そんな周りから見ればアホ丸出しな会話をしながら、私たちはギルドへ戻るのだった。

ついに、ここから冒険者としての新しい毎日がスタートするのだ。

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