第24話 本という商品は出版社のものであって著者のものではない

2月に1タイトル、3月に2タイトル刊行の予定で、書誌情報、装画、タイトルなど中身以外の仕事に追われています。期せずして、@fkt11さんの『売れてない作家が4冊目の本を出すまで』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054893207324)でもタイトルの話になっていたので、本という商品についてお話したいと思います。このエッセイはほんとによく書けていて、ついつい読んでしまうんですよね。


異なる意見の方もいらっしゃると思いますが、小説家は本の中身を作るだけで本として完成させ、出荷するのは出版社なので本は出版社の商品と私は考えています。

パソコンの心臓部ともいうべきチップはインテル社製だったとしても、商品としてのパソコンは最終的にパソコンに自社ブランドをつけて出荷するメーカーのものです。OEM製品だと出荷するメーカーはブランドや価格とプロモーションをするだけです(そっちの方が大変だったりしますが)。中身を作ることとと、商品として出荷することは異なります。出版社は最終的に出荷するメーカーで、小説家は中身を作る人というわけです。


中身である小説以外の要素には大事なものを挙げただけでも下記があります。


・タイトル、キャッチコピー、目次など書誌情報

・表紙など装画

・判型

・価格

・プロモーション

・流通


これが本というひとつの商品に集約されて完成します。以前に何度も書きましたが、読者の目に触れなければ本は売れません。そのためには書店の店頭、広告、プロモーション、SNSなどさまざまな方法で読者との接点を作ることが必要になります。ネット投稿サイトが便利なのは、そこで人気のある書き手には読者との接点があらかじめできているからです。同様にタレントなど著名人もすでに読者との接点を持っています。


本が売れるかどうかは中身である小説以外の要素の方が重要です。もちろん、中身がよくて売れた小説もあります。でも、それは確率的にはとても低い。読者との接点を多く作れたものが売れる確率の方がはるかに高いのです。ふつうに考えて、出版不況なのにただ本を出して、他の本と同じような書誌情報、表紙など装画、判型、価格、プロモーション、流通だとしたら他の本と同じように売れない確率が圧倒的に高いでしょう。


商業出版の場合、中身の小説以外に作家ができることは限られています。投稿サイトやSNSなどで多くの読者を抱えている方は別ですが、そうでない場合はほとんどありません。ということは、出版社は本が売れる要素についてのプロであるべきで、彼らに決定権があることになります。


そういうわけで私は割り切って、中身の小説以外は編集部の方におまかせし、おまかせしていることを直接あるいは間接的に伝えるようにしています。「中身の小説以外は販売にかかわることなので、売ってくださる版元の方が責任持って判断していただくのが一番と思います」。


まあ、ほとんどの本が売れないということはほとんどの編集者にまかせてもダメということでもあるかもしれないんですが、そこはもう担当してくださる方の腕前を信じるしかない。それに確率が低い時は試行回数を増やすしかないのでたくさん本を出すしかないんですよね。そのためにも編集者との関係は良好にしておいた方がよいわけです。


ちなみに一番売れた私の本のタイトルを最初見た時、「ちょ、これはやめて」と思って、さすがに編集者に再考をお願いしました。でも結果的にそれが何度も増刷かかるくらいに売れたので、プロは違うという思いを新たにしました。

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