第15話 無貌賞の賞品 その1

無貌賞の賞品として、ひとつお願いをきくことになっておりまして、受賞者の電咲響子さんの希望は、作品へのアドバイスでした。なので、くわしいアドバイスを書きました。なお、続きがあります。このアドバイスを私がやってみたサンプルを書いてみます。こちらは少々時間をいただきます。


『月夜に歌う詩』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893200546


印象的なシーンを切り取ってつなげていて、よいシーンを選んでいると思います。ただ、そのシーンを生かし切れていない。理由は、なにが起きているかわからないためなんですが、さらに言うと感情を刺激する要素が足りないということなんだと思います。なにが起きているかわからなくても、感情を刺激できればおもしろくなりますし、感情移入もできます。


読み手の感情を刺激するには2つ方法があります(他にもあるかもしれませんが、私が思いついたのは2つ)。


ひとつは読み手に状況を具体的な理解してもらうための記述を増やす。細かく説明してもよいですが、少し説明するだけで「あるある」など読み手の側でイメージを膨らませて理解してくれるものもあります。

正直、説明的になると文章のリズムが崩れたり、冗長になったりしてリーダビリティが悪くなります。しかし、内容を伝えるためには説明が必要です。このバランスは書き手や作品によって異なると思います。自分なりのバランスを見つけるのは書くしかないのですが、ただ書くのではなく、伝わらなかったら増やしてみて、冗長になっていたら削ってみてというのを試行錯誤した方がよいでしょう。世の中にはそうした試行錯誤なしにさらっとやってのける天才もいますが、ほとんどの人はそうではないので。

電咲さんの場合は説明を増やす必要があるでしょう。具体的には下記がうまく伝わっていないと思います。


・姉の悪事

・火事の原因

・弟を殺した理由


書かれている内容で推測は可能ですが、おそらく読み手によって解釈は多く変わります。どんな作品でも読み手による解釈の幅はありますが、この作品はその幅が広すぎますので作者の意図する範囲に収まるように説明を加えた方がよいでしょう。たとえばいまのままだと下記のような解釈も成り立ちます。


パターン1

・姉の悪事(両親が殺し合った&失火の原因を隠蔽した、弟を殺した)

・火事の原因(母親が調理中、父親とケンカになり、どちらかがどちらかを殺してしまった。調理中のフライパンから火が

広がって火事になった)

・弟を殺した理由(幼い無垢な弟に真実を伝えられないし、自分が自殺してひとり残すのも不憫だ。だから先に殺した)


パターン2

・姉の悪事(計画的に両親を殺害&隠蔽のため家に火を放った、弟を殺した)

・火事の原因(両親を殺したことを隠蔽するため)

・弟を殺した理由(無垢な目で見られると、責められているように感じて苦しいので殺した)


いったん誰にでもわかるようなくわしい説明文章を書いて、そこから削ってゆくとよいと思います。



もうひとつは完全に「詩」にしてしまって、状況の描写をそぎ落とし、シーンだけで読み手の感情を揺さぶる方法です。このお話は複雑なので、このやり方だと複雑な背景はほとんどの読み手に伝わらなくなります。その際、前面に出すのは下記の感情だと思います。


・無垢な弟への気持ち

・罪の意識

・死を選んだ気持ち


この2つの方法のどちらを取るかで作品の内容、印象、分量は大きく変わります。いまの状態はその狭間にあって、どちらにも行けるのだと思います。

ということでアドバイス編は終わりです。お役に立つとよいのですが。次は実践編ですが、年内できるかどうか……

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