第93話 Rui
母親が俺の目の前からいなくなった
余命よりもだいぶ早かった
普通は余命より長く生きるものだと
思ってた
そういう奇跡の話はよく聞いていたし
体験談としても読んでいたし
母親も奇跡を起こす人だって
これから起こすんだって
信じてやまなかったから
今目の前に起きていることが
夢なのか現実なのかたまに分からなくなる
でもおばぁちゃんが
泣いている姿を見ると
やっぱり現実なんだって我にかえる
亡くなってから担当の医師に確認をした
余命よりだいぶ早く亡くなったって
ほんとは病状はもっと
悪化してたんじゃないかって
しばらくして返ってきた答えが
「お母さんの意思なんですよ
病状が悪化してることも
はっきりとした余命も伏せてほしいと
お願いされていたんです
あなたやおばぁさまがとても心配なさるし
家の中が暗くなるからって
最後は明るく終わりたいって
おっしゃってました」
まさか最後にそんなお願いを
していたなんて
最後まで母親らしいというか
心配するだろそりゃあ
残された俺らはどうすりゃいいんだよ
俺もおばぁちゃんも母さんがいないと
生きていけねぇよ
今改めて思う
マザコンだったんだなって
母親に何でもしてもらって
出かけるときはいつも一緒で
相談事とか何でも相談してっていうのを
いわゆるマザコンだと思ってたけど
俺もある意味マザコンだったんだなと
今は思う
好みのタイプを母親そのものを挙げるのは
間違いなくマザコンに分類されるだろう
今さらそんなことに気づいたって
母親はもう目の前にはいない
他の治療を試していたら
今頃生きていたんだろうか
奇跡を起こせたんだろうか
おばぁちゃんは俺と違って
母さんの母親だからもっと辛いだろう
娘に先立たれるなんて
こんなに悲しいことはない
本来の順番が崩れてしまったんだから
「おばぁちゃん、全部片づいたら
自分の家帰る?」
「何にも考えてなかったよ
Ruiと一緒に住もうかな
Ruiが嫌じゃなければ」
「嫌じゃないよ」
「Ruiは若いんだから
自分のタイミングで自立しなさい
おばぁちゃんには遠慮しないでね
それまで一緒に住もう」
「分かった」
「そうだ、これMikiからの手紙」
「俺宛?」
「そう、おばぁちゃんには
遺書みたいな感じだったけど」
「おばぁちゃんそんなに分厚いのに
俺はたったの一枚かよ」
「おばぁちゃんのは手紙じゃない
遺書だったよ」
Ruiへ
今まで二人で楽しかった
Ruiも楽しかった??
Ruiはママの宝物
世界で一番愛してるよ
えっ、これだけ
普通もっと書くことあるだろう
まぁ、母さんらしいのかな
世界で一番愛してるなんて普通
高校生の息子が言われたら
気持ち悪いなんて思うんだろうけど
素直に喜んでる自分がいる
母さんの世界一番なんだって
そんなところこらも俺はマザコン確定
マザコンでいいんだ
(回想している)
Happy Birthday to you〜
「Rui、今日は学校から帰ってきたら
ママとお祝いしようね」
「別にいいよ」
「そんなこと言わないで
今日は
Ruiが生まれてきた大切な日なんだから」
「もう学校行く」
「Rui、お帰り!
お誕生日おめでとう」
「あぁ、ありがとう」
「じゃーん、ご馳走作ったよ」
「毎年言ってるんだけど
作りすぎなんだよ、二人暮らしなのに」
「ママも毎年言ってるんだけど
いいじゃない、おめでたい日なんだから」
「Rui、食べよ!」
「えっ、まだ4時だけど」
「えー、ママお昼食べてないから
お腹空いちゃった」
「俺、荷物準備できた」
「あんた、たったそれだけ?
何泊すると思ってるの、7泊よ」
「知ってる、何とかなる
それより母さん荷物多すぎだよ
何日分だよ、それ」
「だから7泊だって行ってるじゃない」
「じゃあ、これは?」
「これ?
これはRuiがお腹痛くなった時
風邪をひいた時、熱が下がらない時
それから.....」
「俺、子供じゃねぇよ
それにたかが1週間でそんなことには
ならないから、却下
これは?」
「これは大事よ、ママのドライヤーと
髪の毛を巻くヘアアイロンよ」
「そんなの旅館にあるから、却下
ほらな、やっぱり不要なものばっかりだ」
「随分と軽くなったわ」
「半分以下になったからな」
「まっ、軽いのは軽いのでいいわね
Rui、ありがとう、旅行楽しみー」
ほんとに楽しかったな毎日
な、母さん
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