第84話 memories

Rui「俺が用意しとくから


母さんは寝てなよ」


母親「何言ってるの


一緒に用意するのが楽しいのに


今までだってそうしてきたじゃない


それにRuiに荷物用意してもらったら


機能的なものばかりになりそうで心配」


「旅行は機能重視だろ」


「違うわよ、機能よりおしゃれ重視よ」


「はいはい


俺準備できたから、手伝うよ」


「相変わらず早いわね


って、少なっ」





「母さんが多すぎるんだって


ちなみにこれは何?」


「どれ?」


「これ」


「あぁ、これはカメラが入ってるの」


「でかっ、そしておもっ


こんな立派なカメラいらないだろ」


「これは絶対に持ってく


この日のためにわざわざ買ったんだから」


「分かった、じゃあこれは俺が持ってく」


「そう?ありがとう」





「大丈夫?」


「何が?」


「疲れてると思うから、横になったら?」


「ううん、これぐらい自分でする


じゃないとほんとに何もできなくなってく」


「.....」


「さっ、続き続き」





「じゃあ、これは?」


「これは.....内緒」


「何だよ、見せて」


「いや、これは見せない」


「そう言われると気になる」


バサッ


あっ


「ね、だから見なくていいって


言ったでしょ」


「母さんこれ絶対似合うよ」


「そうかな」


「うん、似合うよ」


「Ruiと写真撮るんだから


少しでも若くいないとね


Ruiも恥ずかしいでしょ


髪の毛がないお母さんなんて


まぁ、かつらってバレバレだと思うけどさ」


「似合うよ絶対に」


「そうだ、髪の毛がなくなって


楽になったこともあるの


ドライヤーを使わなくてよくなったこと


昔は旅行に行く度に


ドライヤーとヘアアイロン持ち込んで


Ruiにそんなのいらないって言われて」


「そうだったっけ?」





「あの頃は楽しかったなぁ」


「母さんそろそろ休憩したら?」


「そうだね


旅行も楽しみたいし、横になろうかな」


「おう


あとは俺が用意しとくよ」


「お願いだから


センスの悪いものは入れないでね」


「分かった、分かった」





今まで何度も母親と旅行してきて


何度も荷造りをしてきた


今回は万が一に備えての荷物が


たくさんある


正直この体で旅行に行くことは


賛成できない


けど、仕方がない


それが今の母親の望みなんだから





毎日毎日


代わり映えのしない天井を見上げては


吐き気と頭痛と倦怠感と痛みに耐え


ロングヘアが自慢だった母親の髪の毛は


気がついたらほとんど抜け落ち


これまでに何度も何度も


苦しくてやり切れない思いを


してきたと思う


旅行ぐらい行ったっていいと思う





時々虚しくなる


どうして助けることができないんだろう


どうやったら


奇跡を起こすことができるんだろう


もし母親を助ける方法があれば


寿命だって差し出すのに


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