第47話 迷路
Rito
「Fumiya、あと一週間でお父さん
出張から帰ってくるの
お父さんはあなたの今の状態を
知らないでしょ
だからお父さんが帰ってくる前に」
「もとの俺に戻れって?」
「まぁ、そうね
今ならまだ取り返しが」
「自分のためだろ、結局」
「そんなことない
でもお父さん今のあなた見たら
すごくびっくりすると思うの
Ritoならともかく」
その言葉が胸に突き刺さる
「だからそういうのがうんざりなんだよ
比べられるのが」
Fumiya
「俺は俺、RitoはRitoなんだよ
双子だからっていちいち比べるなよ
俺らの気持ち考えたことあるのかよ」
俺らの.....気持ち
今目の前にいるのはFumiya....だよな
そんな風にFumiyaが思っていて
こんなに強気で母親に意見を言う
Fumiya
いつもできそこないの俺の心に堕ちた闇は
深いと思っていたが
Fumiyaの心に堕ちた闇も
また深いんだってことを知った
小学校の時に絵のコンクールで
最優秀賞をとった時に
ようやく俺も母さんに認めてもらえるって
家に帰ったら
母さんは俺の賞よりもFumiyaの
進級テストのことで頭がいっぱいで
俺に構うことなく家を出ていった
それだけじゃない
家に帰って食卓に並んだご馳走を見て
愕然とした
Fumiyaの好物ばかりが並んでいたから
あの時俺の心は闇に堕ちた
でもあの時FumiyaはFumiyaで必死に
何かと戦っていたのかもしれない
順風満帆にみえていたFumiya
実際はそうではなかった
Reila
今日は土曜日
年賀状に書かれた住所をもとに
昔住んでいたと思われる家を探す
北海道から東京
飛行機で来たけどめちゃくちゃ遠かった
明日はおばぁちゃんが退院してくる
だから今日しか時間がない
家を見つけたら日帰りで帰る予定だった
帰りの飛行機の時間まであと3時間
地図で確認したところ
駅から10分くらいの距離に
家はあるはず
正式にはもうないかもしれない
一縷の望みをかけてここまで来た
何かあるかもしれない
何でもいい
おばぁちゃんを救える何か
あれ、確かこの辺りのはず
マンションが立ち並ぶ
私が住んでいた家は住所からして
一軒家だと思ってたんだけど
「すみません、ここに行きたいんですけど」
「どこですか?」
「ここです
このあたりだと思ったんですけど」
「ここね、この辺ややこしいから
一本道が違う、もう一つ奥よ」
「ありがとうございます」
良かった、まだ可能性はある
Seia
田中さんは
日本に来たことを後悔してる様子だった
そりゃあそうか
正反対の場所から来たんだから
田中さんは日本人だけど
感覚はもうアメリカ人なんだろう
きっと日本からアメリカに
行った時も大変だったんだろうな
必死にアメリカに慣れて
慣れたころにまた日本
大変だと思う
そう考えるとピアスとかスカートが短いとか
どうでもいいことに思えてくる
お母さん「Seia、また手紙来てたわよ」
「えっ」
Sayakaちゃんだ
相変わらず文通は続いていた
彼女から来た手紙はすべて保管してある
気がついたらダンボールに
溢れんばかりの手紙が
Miku
ガラガラ
今日もパソコンルームに来た
やっぱり今日も二人ともいる
どちらか、もしくは二人ともかもしれない
だとしたら彼らの目的は何?
ここ最近そのうちの一人から
たまに視線が飛んでくるのに気がついた
もしかして彼が私にメールを
送ってきてるの?
思いきって話しかけてみようか
でも違ったら
実はまだ前回のメールにまだ
返事はしていない
あなた様へ
何の目的かは今は言えません
まだあなた様から協力をすると
お返事いただいていませんから
もしあなた様が協力してくださるなら
事細かくお伝えします
どうされますか?
どうしよう
カチャカチャ
あなたの目的は何?
もしももしも仮に協力するとしたら
私はどうなるの?
あなたはおそらくこの世界の人ではない
気がする
私はこの世界から抹殺されちゃうの?
メールを送る
しばらくすると
ガタ
一人の人が席を立つ
ガラガラ
もう一人の人はまだ座ってる
やっぱりこっちを見られてる気がする
チラッ
はじめて目が合ったと思ったら
すぐに逸らされた
やっぱり彼なのかな、このメール
ガタ
ガラガラ
行ってしまった
Rito
「Fumiya、ほんとにどうしちゃったの
あの頃のかわいいFumiyaは
どこに行っちゃったの」
「俺はずっと我慢してた
もう俺のことは放っといてくれ」
ダンダンダン
(Fumiyaが階段を上がる音)
バンッ
お母さん「もうどうしたらいいの」
Rito「しばらく放っとくしかない」
「放っといたら
どんどん悪化するだけよ
もうすぐお父さん帰ってくるのに」
結局お父さんに合わせる顔がないからと
言いかけたが
思いとどまった
今の母親にそれを言ったら
母親の心も堕ちてしまう
いや、正確にはもう堕ちかかって
いるのかもしれない
最近よくお酒を飲むようになった
はじめは寝れないからといって
一杯程度
Fumiyaの帰りが遅くなるにつれて
Fumiyaの反抗が強くなるにつれて
母親のお酒の量は増えていった
Reila
ほんとにややこしい
家、あるかな
ドキン
ドキン
なかったらもうどうすることもできない
ドキン
ドキン
おそらくこの辺り
一軒家が続いてるなぁ
あっ、多分ここだ
でももう取り壊されて新しい人が
住んでいるのか
誰かが住んでる気配がある
どうしよう
いきなりチャイム鳴らしたら
びっくりされるだろうし
それに何て説明しよう
でもここまで来て何もしないのも
女の人「何かご用ですか?」
やっぱり人が住んでるんだ
Reila「あの.....」
「もしかしてReilaちゃん?」
「えっ」
Seia
手紙はやっぱりSayakaちゃんから
いつもと変わらない内容
最近の近況報告
それから最近描いてる漫画のこと
ハマってるアニメのこと
共通の趣味の友達ができたらしい
名前は、Ayaちゃん
Ayaちゃん、間違いなく女の子の名前
良かった、女の子で
俺とSayakaちゃんがこれ以上
仲良くなれる可能性は低いけれど
それでもまだ期待している自分がいる
こんなに文通が続いたんだから
当初はこんなに続くとは思っていなかった
Sayakaちゃんにとって
一番親密なのは俺でありたい
あっ、さっきの撤回
Sayakaちゃんと
仲良くなれる可能性が低いって言ったこと
良かったら久しぶりに会わない?
今週の金曜日の放課後
16時に小学校の校門の前で待ち合わせしよ
その下にSayakaちゃんの携帯番号と
思われる番号まで書かれていた
一気に進んだ
手紙じゃなくてメールができる
一気に時代が進んだ感じ
Miku
ピコン
あなたにメッセージが届いています
来た
そして今日もあの二人はいる
あの二人で間違いない
どっちだろう?
それとも両方?
今日こそ話しかける?
まず内容を見てから
あなた様へ
あまり詳しくはお答えできません
質問にありました
抹殺されるかどうか
抹殺はされません
されませんが
場所が変わるというお答えが
正しいかと思います
あなたは非常に頭が素晴らしい方
(ところどころ表現がおかしい)
是非我々にあなたが必要
もう時間がありません
一刻も早くご決断をお願いします
場所が変わる
ということは3次元の地球から消えて
他の世界に行くってこと?
Kailはどうして放ったらかしなの
何で連絡してこないの?
それとも担当とはいえ
普段私のこと見てないの?
Rito
今日は父親が帰ってくる日
そしてFumiyaは相変わらずの不在
時刻は22時半
父親が帰ってきてこのことを知ったら
間違いなく驚くだろう
俺ならともかくFumiyaだから
それともう一つ
お酒を飲んでいる母親にも
驚くだろう
もともとはほとんど飲めなかったんだから
母親はまだ帰ってこないFumiyaと
もうすぐ帰ってくる父親との
板挟み状態で
いてもたってもいられないのか
かなり飲んでしまっている
カチカチ
ガチャ
どちらかが帰ってきた
Reila
女の人「もしかしてReilaちゃん?」
「えっ、あっ、はい」
「よく来たわね、北海道から来たんでしょ」
「はい」
「良かったら上がって行って
というより
もともとあなたの家だったものね」
私ここに住んでたんだ
だとしたらこの人は一体誰?
「あの、あなたは?」
「えっ」
びっくりしてる
昔から知ってる人なの?
「そっか、Reilaちゃん記憶. ....」と
言いかけて
「おばさんはあなたのお父さんの友達なの」
「友達」
「そう
住むところがなくて困っていたところ
あなたのおばぁちゃんが
この家を貸してくれたの」
「そうだったんですか」
「とりあえず家に入って」
ここが私が子供の頃に住んでた家
「そこに座ってね
家具とかReilaちゃんが
住んでた頃のままよ」
「そうなんですね」
私を記憶喪失だと思っているのだろう
それなら好都合
10歳前のことは知らないから
「そうだ、2階に
Reilaちゃんの物とかあるの
もし必要な物があったら持って帰ってね」
2階.....
何かあるかな
Seia
Sayakaちゃんへ
金曜日の放課後楽しみにしています
Seia
たったこれだけのメールをするのに
2日もかかってしまった
今日はもう木曜日
よく考えたら明日だった
金曜日楽しみにしていますは不自然だ
普通、明日楽しみにしていますだよな
2日も考えて結局不自然なメールを
送ってしまった
手紙からメールに変わっただけで
とんでもなく緊張する
メールを無事に送れたと思ったら
新たな緊張が
明日はとうとう本物のSayakaちゃんに
会える
これじゃあアイドルのコンサートに
行くみたいじゃないか
いや、それと何ら変わりない
ようやく本物のSayakaちゃんに
会えるというチケットを手に入れたんだ
このチャンスを無駄にはしない
明日にすべてがかかっている
明日次第では今後につながるかもしれない
手紙だけの環境を卒業しなければ
Miku
一刻も早くご決断をお願い致します
ご決断
おそらく決断をしたら私は
この世界からいなくなるんだと思う
今私がいなくなっても誰も困らないと思う
司令センターと敵対する世界
どんな世界かは分からないけど
プラスかマイナスかでいうと
この世界は間違いなく後者だろう
別に行きたいわけではない
ただこの世界に目的もなくいても
ここ最近Kailからも連絡はないし
特別missionだとか
特別転生者だとか
もうどうでも良かった
それよりも何のために今生きてるのかすら
よく分からないから
決めた
今日こそ話しかける
どっちに話しかける?
まずは怪しくない方から
いつも視線を感じる彼は
間違いなく怪しい
だからもう一人の方から話しかける
ガタッ
Rito
ガチャ
父親だった
あー、最悪のパターンだ
お父さん「ただいま」
Rito「おかえり」
「Ritoだけか?」
「いや.....」
Fumiyaはまだ帰ってきてなくて
母親は毎日酒浸りとはとても言えない
お父さん「なんだ、母さんいるのか」
お母さん「えぇ」
「どうしたんだ、飲んでるのか?」
「少しね」
「少しという感じではないぞ」
今まで家で飲む習慣がなかった母親の
この様子は
久しぶりに会った父親は驚くだろう
毎日一緒にいる俺ですら驚いている
「Fumiyaはどうしたんだ」
ガチャ
あー、ほんとに最悪のパターンだ
お父さん「Fumiya.....
お前どうしたんだその髪の毛にピアス」
Fumiya「何が?」
お父さん「何だ、その態度は」
お母さん「もうだから嫌だったのよ」
バタン
泣きながら母親は寝室に言ってしまった
「俺はもう昔の俺じゃないから」
ダンダンダン
バタンッ
「Rito、一体どうなってるんだ」
Reila
2階
何かあるかな
「上少し見てもいいですか?」
「もちろん、Reilaちゃんの家なんだから」
おばぁちゃんは何であの人に
この家を譲ったんだろう
いくらお父さんの友達だからって
家を譲ったりはしない
ガチャ
おそらくこの部屋は私の部屋だったはず
換気はされてるけど
この部屋の時間は止まってしまってる感じ
当時私が好きだったであろう
絵本や漫画や人形やおもちゃに
まるで私の帰りを待っていたかのように
ひっそりと存在していた
記憶があれば懐かしいと思うんだろうけど
残念ながら懐かしくはない
勉強机の引き出しを開けてみる
筆記用具にシールに便箋に
細々した物でゴチャゴチャしている
下の引き出しは何だろう
図鑑が入っていた
その隣に壊れた携帯
これ、誰のだろう
その下には写真
とっさに携帯と写真を持って部屋を出る
「どう?何か持ってく物あった?」
「写真だけもらって帰ります」
Seia
今日は金曜日
とうとうこの日が来てしまった
ドキドキとワクワクとドキドキで
昨日は一睡もできなかった
ソワソワして授業どころではない
Sayakaちゃんの制服姿が見られる
ということは俺の制服姿も見られてしまう
今さらだけど
もう少しお洒落してくれば良かった
制服でお洒落のしようがないんだけど
田中さんは制服を着こなしている
皆と同じ制服なのに
田中さんだけ別の制服を着ているみたいだ
クラスメイト「田中さん」
田中さん「何?」
「放課後、体育館の倉庫に来て」
「何で?」
「話があるから」
「話なら今聞く」
「今は話せない」
クラスで一番強いグループの女子に
呼び出されてる
いくら田中さんが強いからって
大丈夫かな
Miku
ガタッ
立ち上がったはいいけど何て話しかけよう
いきなりメールのこと聞くのも変だし
それに違う可能性もある
まずは普通に話しかけて誘導していくか
ドキン
ドキン
「ちょっとお話いいですか?」
「えっ」
この驚いた表情はどっち?
突然話しかけられて驚いてるのか
それとも
私にメールを送ってきた人だから
バレたかもと思って驚いているのか
Miku「ここでは話せないので廊下で」
男A「えっ、あぁ」
ついてきた
Miku「あなたの名前は?
私は1年の雨宮Mikuです」
男A「俺は2年の山口Shunです」
先輩だった
名前もあった
確か私にメールをしてきた人は
名前がないと言っていた
それとも今とっさに考えたのか
ドキン
ドキン
彼がメールの送り主なのかは
よく分からない
雰囲気はあまり明るい感じではなさそう
でもそんな人はいくらでもいる
そんな私だって周りからの印象は
きっと暗いだろう
Rito
お父さん「出張中に
そんなことが起きてたのか」
ざっと今の状況を説明した
お父さん「Fumiyaはどうして
そんなことになったんだ」
Rito「きっかけは俺にもよく分からない」
「母さん何も言ってなかったぞ電話では」
言えなかったんだろう
ダンダンダン
ガチャガチャ
お父さん「Fumiya、ドアを開けなさい」
Fumiya「うるせぇ」
ついにFumiyaの口からうるせぇの一言が
「何て口の聞き方だ
話をするから開けなさい」
「うるせぇ」
ドンドンドン
お父さん「開けろと言ってるだろうが」
Fumiya「黙れ」
お母さん「もうやめてー」
もう寝たかと思った母親が泣き叫んでいる
いつの間にか家は崩壊していた
Reila
「写真だけもらって帰ります」
「あの部屋はReilaちゃんの部屋だから
いつでも来てね」
「あの一つ聞いてもいいですか?」
「もちろん」
「おばぁちゃんは何で家をあなたに
譲ったんですか?」
「.....
そうよね、親戚でもない私に
家を譲るなんておかしな話よね
私とあなたのお父さん昔お付き合いを
していたの
結婚も考えていたの」
えっ
「でもね、おばぁちゃんたち
つまりあなたのお父さんからしたら
お母さんよね
結婚を認めてもらえなかったの」
そんなことが
「反対されてた理由は
私の親がというより父親が
救いようのない人間だったから」
救いようのない人間
「仕事もしないで
朝からお酒を飲んでるような人で
酒ぐせも悪くて
このあたりでは父親は有名だったと思う
そんな親がいる子供と
結婚させたくないって思うのは
当然のこと」
「そんなことがあったんですね」
「で、泣く泣く別れたんだけど
どうしてもあなたのお父さんを
忘れられなくて今だに独身なの
正確にいうと
お付き合いした人はいたんだけど
結婚したいと思う人には出会えなかったの
ごめんなさいね、こんな話」
「いえ」
「ここまで話しちゃったから
すべて話すわね
そんな時にあなたたちのことを
ニュースで知って驚いたの
亡くなったなんて
せめてお葬式に行きたくて
友達をつたって
あなたのおばぁちゃんの連絡先を知って
電話したの
お葬式に行ってもいいですかって
そしたら許可してくれて
お葬式に行ったの
その時ちょうど私体調を壊していて
働けない状態だったの
それから私がいまだに独身だって
話をしたら
同情をしてくれたんだと思う
この家を譲ってくれるって
家賃を払うって何度も言ったんだけど
いらないって言われて」
「そうだったんですね」
「あなたやもしあなたのお母さんが
生きていたら
聞きたくない話よね」
「いえ、父も喜んでいると思います」
父に関する記憶はないけど
なぜか自然と父と言っていた
「ありがとう、Reilaちゃん」
おばさんはしばらく泣いていた
Seia
大丈夫かな、田中さん
でも今日の放課後は無理
今日だけは無理
Sayakaちゃんに会う日だから
キーンコーンカーンコーン
ついに放課後が来てしまった
時刻は15時10分
まだ少し時間に余裕がある
チラッ
田中さん、行くのかな
田中さんのことだから行かないかな
あの口調は間違いなく
良くない呼び出しだ
ガタッ
田中さん、やっぱり行くのかな
時刻は15時15分
あと15分ある
とりあえずついて行く....か
田中さんに気づかれないように
そっとついて行く
田中さんが先生に呼び出された日も
ついて行ったなこっそり
でも今回の呼び出しは
先生からの呼び出しとは訳が違う
こっちに行くってことは.....
やっぱり体育館
クラスメイト「あっ、来た
田中さん一人?」
田中さん「そうだけど、話って何?」
「あんた生意気なのよ
アメリカから来たか何なのか知らないけど
私たちより目立ってもらっちゃ困るの」
うわ、どうしよう
時刻は15時30分
Miku
Miku「いつもパソコンルームで
何をしてるんですか?」
しまった、いきなり核心をついた話題を
振ってしまった
山口Shun「別に、ただ暇だから」
「そうなんですね」
「何で?」
「えっ
いつも私がパソコンルームに行くと
必ずいるから.....です」
ドキン
ドキン
何か恐い
よく分からないけど
何か黒いものを感じる
やっぱりメールを送ってきていたのは
この人で.....間違いない.....だろう
「他に何か質問はある?」
この妙に落ち着いた声がより恐怖を増す
「質問.....
あなたは.....
こ、この世界の人ですか?」
ドキン
ドキン
「違うって言ったら、どうする?」
えっ
「これ以上はここでは話せない
あとはあっちの世界でゆっくり話そうか
ご決断いただけましたか」
やっぱり、彼だったんだ
バッ
(誰かに腕をつかまれる)
ドキン
この人、私のことをよく見てた人
も、もしかしてこの人もグルなの?
Rito
父親が帰ってきた日を堺に
母親は普通の生活が難しくなってしまった
朝は起きてこないし
ご飯も作らない
作れないのだろう
気力がなくなってしまったのか
寝てるかお酒を飲んでるかだった
確実に悪化している
父親は気づいてはいるけど
見て見ぬふりをしている
Fumiyaは相変わらず帰って来ない
父親が帰ってきてから
それに反抗するかのように
帰りがさらに遅くなった
父親もはじめこそイライラしたり
怒鳴ったりしていたが
最近は諦めたのか
Fumiyaと顔を合わせても
口を聞かなくなってしまった
まさに崩壊
気がついたら
手の施しようがない状態になっていた
Reila
ようやく東京に帰ってきた
ガサガサ
三人で撮った家族写真
それから私が幼稚園のころの写真
とても幸せそうだった
まさかお父さんに
あんな過去があったなんて
一番気になるのがこの携帯
ピッピッピッ
解約されてるみたいだけど
まだ中身は見れるみたい
ギャラリー
ピッ
写真がいっぱい
あっ、この写真
おそらくスキー場で撮ったのだろう
これが最後の家族写真
メールを見てみる
受信
ピッ
この携帯はお父さんの携帯なんだ
受信の最後は
お母さんからのメールだった
お父さん今どこ?
真っ暗だし吹雪いてるし
Reilaの人形はもう見つからないと思うの
私からReilaに説得するか
新しく買うかするから
もう戻ってきて
やっぱりお父さんは人形を探しに
吹雪の中、立ち入り禁止区域に行ったんだ
で、なかなか戻らないお父さんを心配して
お母さんは私を山頂のレストランに預けて
スキー場に行ったんだ
で、雪崩が起きて.....
Seia
時刻は15時30分
もう行かなきゃ
Sayakaちゃんとの待ち合わせに
間に合わなくなる
「私たちより目立ってもらっちゃ困るの」
「じゃあ私より目立てばいいじゃない」
「アメリカだか何だか知らないけど
ここは日本だから
何かにつけて
アメリカではアメリカではって
調子に乗らないで」
「話はそれだけ?
私もう帰る、時間の無駄」
「待ちなさいよ、まだ話があるんだけど」
「何?」
「あんたが転校してきたせいで
Ami、彼氏と別れたの」
「私には関係ない」
「平山くんあんたのことが好きになって
Amiのこと振ったの、だからあんたのせい」
「平山くん?
知らない、そんな人」
「あんたは知らなくても
あんたのせいで別れたって言ってるの」
「私は平山くんのことは知らないし
好きじゃない
平山くんにAmiちゃんと付き合うように
言えばいいわけ?」
「何、その言い方」
「話もうないなら私もう帰るから」
ドンッ
「痛っ」
Rito
今日帰ったら母親がいなかった
なぜかいつもいるはずのない
父親が疲れきった顔でソファに座っていた
Rito「ただいま」
お父さん「おかえり」
「母さんは?」
「あぁ、施設に預けることにした」
「施設?」
「アル中患者の更生施設だ」
確かにあのままにしていたら
悪化するだけだ
施設に入って良かったのかもしれない
最近は
日常生活もままならない状態だったから
あんなに母親を嫌っていたのに
いなくなった今感情が無だ
「それからお母さんとは
離婚することにした」
「えっ」
「お母さんがアル中になったからじゃない
少し前からうまくいってなかったんだ」
うまくいってなかったのは知らなかった
確かに会話は少なかったけど
そんなもんだと思ってたから
「お母さんの施設のお金とかはもちろん
これからも払うつもりだ
こうなったのもお父さんにも
責任があると思ってる
RitoとFumiyaは今まで通り
父さんと暮らそう」
Reila
ビデオ
ピッ
えっ、これって.....
暗闇で撮ったのかほとんど顔が見えない
それにすごく吹雪いていて
お父さん「Reilaがもしいつかこのビデオを
見る日が来たら
その時はお父さんとお母さんはもう
この世にはいないということになる」
ドキン
お父さん「Reila、ごめんな
あの人形をもっと早く買ってあげれば
良かった
前からずっと欲しいって言ってたのに
誕生日でもクリスマスでもないのに
買わないと言ったから
おばぁちゃんが気を利かせて
買ってくれたのに
もっと早く買ってあげてれば
Reilaもスキー場に持っていくことも
なかったし
落とすこともなかった」
お母さん「Reila、ごめんね
このビデオを見てるってことは.....」
お父さん「暗い話はやめよう
お母さん、ごめんな、Reilaをよろしく.....」
そこで、ビデオは終わっていた
(Reilaから涙が流れる)
おばぁちゃんを
救ってあげられるかもしれない
もうお父さんとお母さんはいないけど
おばぁちゃんがずっと感じていた責任を
少し軽くしてあげられるかもしれない
お父さんたちも責任を感じてたんだよって
そもそも私が落とさなければ
こんなことにはならなかった
おばぁちゃん、お父さん、お母さん
ごめんね
ごめんなさい
おばぁちゃんを迎えに行かなきゃ
Seia
ドンッ
田中さん「痛っ」
Seia「田中さんっ」
クラスメイト「何で中村くんがいるの?
もしかして田中さん
中村くんについてこさせたの?」
Seia「違う、俺が勝手についてきただけ」
クラスメイト「もう行こう」
Seia「田中さん、大丈夫?」
田中さん「触らないで」
Seia「田中さん.....」
田中さん泣いてる
そうだよね
強いふりをしてたんだよね今まできっと
辛いこと悲しいこと
今までもあったよね
ただ勝手に強いと決めつけてただけ
Seia「田中さん、家まで送っていく」
田中さん「いい、もう私に構わないでっ」
「中村くんはどういうつもりで
いつも私に構うの?」
どういうつもり.....
そんなこと考えたことなかった
いつも考えるより先に行動してたから
時刻は16時
Sayakaちゃんとの約束の時間
どうしよう
田中さんをこのまま置いて
Sayakaちゃんに会いに行く.....?
Miku
バッ
(腕を掴まれる)
ドキン
Miku「あ、あなたもグルなの?」
男B「俺は違う」
Miku「えっ」
山口Shun「嫌がってるじゃないか
手を離せよ」
えっ、(山口Shunの)目が.....
目の色が変わった
この人はこの世界の人じゃない
男B「逃げろ」
Miku「えっ
ハァ、ハァ、ハァ あ、あなたは誰?」
山口Hayato「俺?俺は2年の山口Hayato」
Miku「何でいつも
パソコンルームにいるの?」
「俺は君を守るために来た」
「えっ、どこから?」
「あぁ、いや
とりあえずこの部屋に入ろう」
ハァ、ハァ、ハァ
ハァ、ハァ、ハァ
Hayato「どうやってかわせばいいんだ?」
Miku「あの人はどこの人?
この世界の人ではないよね?」
「あぁ、違う」
「あなたもこの世界の人ではないの?」
「いや、一部は違って一部はそう」
「どういう意味?」
「ははは
意味分からないよね
大丈夫、敵ではないから
ダメだ追ってくる
どこに逃げればいいんだ」
Rito
母親が施設に入って一週間
何もなかったかのような静かな毎日
それに伴ってFumiyaの帰りが少し
早くなった
昨日は、22時
最近23時台が多かったFumiyaからしたら
上出来だろ
まさか俺がFumiyaの心配をする日が
来るなんて
昔では考えられない
立場が逆になって気づくこと
やっぱり俺たちは双子
お互いを完全に嫌うこともできなければ
お互いを諦めることもできない
相手を嫌うことは自分を嫌うこと
相手を諦めることは自分を諦めること
そんな感覚
そういえばFumiyaは、Fumiyaだけは
いつも俺を信じていたし
俺の理解者だった
あの頃はそんなFumiyaが
うっとおしくて仕方なかった
できそこないの兄貴にまで優しくできる
どこまでも完璧な弟でいたいのかって
でも今思えば違ったんだと思う
友達がいなかったFumiyaは
俺と遊びたがっていたし
俺と朝登校することを楽しみにしていた
俺が孤独だったように
Fumiyaもまた孤独だったんだと思う
Reila
「おばぁちゃん、迎えに来たよ」
「Reiちゃん、学校は?」
「今日は休んだ」
「よかったのに」
「なーに言ってるの、早く帰ろ」
「Reiちゃん、泣いてたの?」
「えっ、泣いてないよ」
「おばぁちゃんには分かるよ」
「そうだよね
おばぁちゃんは何でもお見通しだね」
自宅
「おばぁちゃん、これ」
「この携帯.....」
「これね、お父さんの携帯なの」
「どこで」
「実は、前の東京の自宅に行ったんだ」
「えっ.....じゃあ」
「うん、会ったよ
お父さんが昔お付き合いしてた人」
「そう.....元気だった?」
「うん、とってもいい人だったよ」
「そう、あの子はあの子は
ずっとずっといい子だった」
(おばぁちゃんが泣きだす)
「おばぁちゃんに伝言
素敵な家を貸してくださって
ありがとうございます
またいつかお食事でも」って
「あの家はもうあの子にあげたのよ
たかしと別れて
別れさせられて
いまだにあの子は独身を貫いてるから
せめて.....ね」
「また会いに行こう
おばぁちゃん、最後にお父さんが残した
ビデオ一緒に見ない?」
「えっ.....
たかし、ビデオ残してるの?」
「うん
お父さんもおばぁちゃんに
見てほしいって思ってるよ」
Seia
俺、どういうつもりで田中さんのあと
今までつけてたんだろう
考えたこともなかった
時刻は16時
田中さん「私、もう帰るね」
田中さんが行っちゃう
今行かないともうこれ以上は
仲良くなれない気がする
でも、Sayakaちゃんは?
ようやく今日会えるのに
これを逃したらSayakaちゃんとはもう
永遠に会えない気がする
そうだ、ずっと文通だけの関係だった
Sayakaちゃんにようやく会えるんだ
俺は何を迷ってるんだ
学校に行かなきゃ
今ならまだ間に合う
Sayakaちゃんに少し遅れるって
メールすればいいじゃないか
Sayakaちゃんへ
Miku
Miku「あの人は人間なの?」
Hayato「あぁ
2年の山口Shun、俺の双子の弟」
「えっ.....顔が似てない
やっぱり.....グルなの?」
「顔が似てないのは二卵性だから
グルじゃない
さっき人間かって聞いたよね?」
「Shunも俺もこの学校の生徒だ
そんな俺たちに入り込んでるって
言うのが正しい表現になるかな
俺とShunの役割が正反対だけどね」
「あなたがプラスで彼がマイナス?」
「簡単に言うとそうなる
まずい、やっぱり追ってくる」
「えっ
音とか聞こえないけど分かるの?」
「うん、能力でね」
「能力.....」
「あなた、司令」
「仕方ない、次元移動するか」
「次元移動?」
「俺についてきて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます