第38話 graduation
Rito卒業式
今さらだが俺とFumiyaは双子
それも一卵性双生児というらしい
文字通り一つの卵が偶然いや奇跡的に
二つに別れたのだろう
顔はほぼ同じだが中身は正反対
この状況を何度恨んだことか
これからも双子であることには変わりないが
一つの変化が
別々の中学に行く
Fumiyaは私立の進学校に進むわけだから
彼に負けていることは変わらないが
学校で会わなくてすむだけでも
だいぶストレスは違う
Fumiyaのことが相当嫌いな兄貴という
感じかもしれないが
これは俺の一方的な感情であって
Fumiyaからは一度も恨み辛みを
言われたことはない
彼はどちらかというと温厚なタイプ
だと思う
だと思うって、あまりにもお互いが
違いすぎていて
こんなにも近くにいるのに
友達のことの方が俺は理解しているし
友達の方が俺のことを理解していると思う
そんな俺たちも今日は卒業式
双子の定番
全く同じ服を着させられる
正直恥ずかしい
相変わらず仕事人間の父親は
今日も当たり前のように欠席だ
チラッと母親を見ると
色々と思うことがあるらしく泣いている
Reila
今日は卒業式
おばぁちゃんに買ってもらった服を着て
式に参加する
当たり前だけど辺りを見渡すと
お父さんやお母さんらしき人ばかりだ
私が降りてきた時にはすでに二人とも
いなかったから
私にとっては
おばぁちゃんが保護者であることが当たり前
寂しいと思ったこともほぼない
羨ましいと思ったことはあった
例えば運動会
親子競技というものがある
この競技どちらかというと
体力重視のプログラムになりがち
日頃仕事で忙しいお父さんたちも
子供を記念に残すために
絶景のポイントを確保するための場所とりや
最高の瞬間を残そうと
カメラマンかのように校庭中を走り回り
ビデオ撮影に勤しむ
子供が主役の運動会だけど
お父さんの活躍が目立つ日でもある
お父さんたちがさらに張り切るのが
この親子競技
クラスのために
何よりも子供のために一番をとろうと
必死になって子供を担いで、走る、走る
父親不在の家はお母さんがその代わりを
果たす
どちらもいない私は
おばぁちゃんにお願いするわけもいかず
二年連続先生と参加した
仕方ないんだけど
子供ながらに少し恥ずかしかったし
周りの子が羨ましくもあった
それも今となってはいい思い出
斜め後ろを見ると
おばぁちゃんが泣いていた
Seia
今日は卒業式
学校を卒業することは悲しくない
それに地元の中学に行くから
受験をした子以外はほとんど同じ学校に
行くため
大きな変化といえば
制服を着るようになるだけで
あとはなんら変わりがない
一番悲しいのは
林さんと今日でお別れってこと
引っ越しをするわけじゃないから
会おうと思えばいつでも会える距離にある
でもそれは不可能
だって林さんとは休み時間に
漫画をひたすら描いていただけの関係
友達になれたのかすら怪しい
林さんと休み時間を過ごすようになって
変化したこと
漫画が少しうまく描けるようになったこと
ノートをめくると確かに林さんと
過ごしてきた時間は
幻ではなかったということを
証明するかのように
ページを追うごとに俺の絵は上達している
けど、心の距離までは縮められなかった
式も無事に終わり
友達同士で写真撮影をする人
親と一緒に先生と挨拶をする人
校庭で遊んでる人といる中
林さんはお父さんとお母さんと帰る支度を
しているところだった
「お母さん、これ持ってて」
「えっ、Seiaどこ行くの?」
「先帰ってて」
今話しかけないと永遠に会えない気がする
「は、林さん」
はじめて林さんに話しかけた時と
同じくらい緊張する
林さんの両親は何かを察したのか
「Sayaka
ママたち先生に挨拶してくるね」と言って
行ってしまった
「林さん」
「Seiaくん、ごめんね」
えっ
この驚きはまずSeiaくんとはじめて名前を
呼ばれたことに対する驚き
それから謝られたことに対する驚き
「林さん謝ること何にもしてな.....」
「ううん
受験のことほんとはもっと早く
言おう言おうと思っていたの
ほら私、この学校に友達らしい友達
ずっといなかったでしょ
4年生から塾に通いはじめたんだけど
友達いないし地元の学校は嫌って
ずっと思っていたの
でも5年生になってSeiaくんと
仲良くなって地元も中学も悪くないかな
なんて思ったりもして」
そうだったんだ
「でも、今まで頑張ってきたんだから
受験はしなさいってことになって
もし落ちたら地元の中学に行けばいいって」
そうだったんだね
「そしたら第一志望合格しちゃって」
「いや、でもすごいよ
第一志望の学校受かるなんて」
「う.....ん」
「Seiaくんに謝りたくて
何度も冷たい態度をとっちゃったから
Seiaくんはこの学校で唯一の友達だから」
林さんは
林さんも
友達だと思ってくれていたんだね
そう思ってたのは俺だけだと思っていたよ
「そうだ、Sayakaちゃん」
気をよくした俺はこの数秒で
林さんからSayakaちゃんに呼び方を変更
そう、すっごく単純だから
「良かったら文通しない?」
何でもある便利な時代に文通
この時代にそんなことをしている人たちは
果たしているのかな
いや、いるかな
「うん!」
予想に反して林さん、いやSayakaちゃんの
返事は好感触だった
「あっ、そうだ、これ」
一枚のノートを渡される
パラパラパラ
パラパラパラ
「これって.....」
「私とSeiaくんが出会ってから今日までの
ことを漫画にしたの」
そっか、ずっとこれを描いてたんだね
だからいくらお願いしても
見せてくれなかったんだ
Miku
今日は卒業式
ようやく小学校卒業
早く大人になりたい
早くmission成功させて上に帰りたい
といっても
毎日ただ普通に生活しているだけで
これのどこがmissionなのかが
いまいち分からない
中学は地元の中学に行くことにした
この世界では受験というシステムが
あるみたいだけど
まだ将来の夢が定まってない
夢が定まったら
私のやる気スイッチが起動する
それにどこにいったって
私の学力が落ちることはない
中学に上がると変化が
制服を着ることそれから自転車通学が
できるようになること
これが一番嬉しいかな
携帯を買ってもらった
友達を作って連絡をとりたいわけじゃない
色々と調べられるから
チラッと後ろを振り返る
あっ、まずい
村上くんと目が合った
まるで気になるから振り返ったみたいに
思われたかも
村上くんとは結局
図書館で引っ越しのことを聞かされて
冷たくあしらって
それから一切話をしていない
雨宮さんとは同じ中学に行けない
雨宮さんとは同じ中学に行けない
これじゃあまるで私が一緒に行こうって
誘っていたところ断られたみたいじゃない
イライラする
負けたみたいで
でも、それも終わり
村上くんとは永遠に会わないんだから
関係のない話
ようやく式は終わり
さぁ、帰ろうっと
「雨宮さん!」
村 上 く ん
「何?」
「あっ、いや今までありがとう」
「私特に村上くんのお世話なんかしてない」
「フフッ、それもそうだね
そうだ、色紙に雨宮さんも
メッセージ書いてよ」
さすがクラス一いや、学年一の
間違いだったのかも
人気者なだけあって
色紙の両面がビッシリと埋められていて
余白が見つからない
「これもう書くところがない」
「えっ、じゃー、ここに」と言って
油性ペンらしきものを差し出してくる
「このど真ん中の写真に
書いちゃっていいの?」
「うん、大丈夫」
一番仲良くなかった私が
こんなど真ん中の目立つところに
しかも友達と楽しそうに写ってる写真の
上からいいのかな
今までの数々の失言が少し悔やまれる
写真をよけて書くしかない
えっ
油性ペンを甘くみていた
こんなにはっきりとしかもこんなに太く
発色するとは思わなかった
もういいや
村上くんいいって言ってたから
思いっきり書いちゃえ
村上くんへ
卒業おめでとう
Miku
写真いっぱいに書いたくせに
このありきたりな言葉
「ありがとう」
「あっ、いえ、ごめんなさい
みんなの写真をダメにした上に
ありきたりなことを書いちゃって」
「フフッ」
村上くんは笑っていた
ガサガサ
「そうだ、これ」
えっ、手紙?だよね?
「私に?」
「そう、家で読んでね」
Seia
家に帰ってSayakaちゃんからもらった
漫画をじっくり読む
それは思ってる以上に細かく描かれていた
友達になる前
俺が話しかけるか迷っていた時期のことから
描かれていた
Sayakaちゃんの記憶の中にも
この時の俺は存在しているんだね
そのことがすごく嬉しかった
パラ
あっ
これははじめて話しかけた時のことだ
拒否されたと思ってたけど
そこにはすごく嬉しそうに笑ってる
Sayakaちゃんがいた
心の声が描かれていた
(ほんとはすごく嬉しかったのに
冷たくしてごめんね)
ううん、そんなことないよ
俺の方こそ話しかけるのが遅くなって
ごめんね
もっと早く話しかければ良かった
それからSayakaちゃんが休み時間を
楽しみにしている様子が細かく描かれていた
これはお母さんに受験をやめたいと
お願いしてるところだね
でも結局受けることになって.....
パラ
合格発表の日
普通は第一志望に受かったら
嬉しいはずなのに
絵の中のSayakaちゃんは
少し悲しそうな顔をしていた
パラ
「私、Seiaくんとは同じ中学には行かない」
この時は突然言われて
悲しいのは俺だけなのかなって
思っていたけどそんなことなかった
言葉ではお互い言わなかったけど
ちゃんと友達になれてたんだね
最後に
Seiaくんはたった一人の友達
ありがとう、忘れないよ
Sayaka
(Seiaの目から涙が溢れる)
Miku
ガサガサ
雨宮さんへ
これを読んでくれてるってことは
ちゃんと手紙を渡せたってことなんだね
なら良かった
最後の最後も雨宮さんに拒否されたら
さすがに手紙を渡すことは
できないと思うから
雨宮さんから何回拒否されたかな
二人の思い出はあまりないけど
できればもっと仲良くなりたかったな
俺の中では小学校で仲良くなれなくても
中学があるって思ってたから
地元の中学に行く予定だったし
行きたかった
でもある日突然引っ越すって言われて
雨宮さんと仲良くなる予定が
一気に崩れちゃったから
雨宮さんからしたら俺は
うっとおしいだけだったと思うけど
俺は大好きでした
えっ、大好き
うそ
私あんなに冷たくしたのに?
うそでしょ
村上くんあんなにモテるのに
どこに引っ越すの?
気持ちは書いてるけど肝心の新しい住所が
全く書いてないじゃない
いつ引っ越すのよ
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