第30話 Each of the day to day

Rito


キーンコーンカーンコーン 


よし、今日の授業ようやくすべて終了


一回家帰っておやつ食べて


グランドに直行だな





どうしてこうも楽しいことばかりが


続いてるとなると


一気に目が覚めて頭が冴えるんだろうか





ガラガラ


「笠原いるか?」


げっ、なんだ


せっかくこれからサッカーするのに


「はい」





「笠原、すごいな


コンクール最優秀賞だ」


「えっ、ほんとですか?」


「ほんとだ


来週の全校朝会で発表するから


一言考えておけよ」





えっ、俺が


全校朝会で発表かー


Fumiya ならともかくこの俺だからな


楽しい予定が一つ増えた


このことを母親に自慢する


で、一気に俺の株が上がるってわけだ





Reila


一家三人スキー場で行方不明


この時は三人とも行方不明


そこからどうして私だけ助かったんだろう


毎年家族でスキーに行ってたんだ


これを見る限り


私もお父さんもお母さんも


初心者ではなさそう


このスキー場、めちゃくちゃ広い


上級者向けのスキー場みたい


わざわざ遠方からここのコースを


滑るために来るみたい





パラパラパラ


なんとなく死因が分かった


上級者コースに行くために乗ったリフトで


私が何かを落としたみたい


それをお父さんは拾いにいくために


立ち入り禁止区域に入ったんだと思う


いつまでたっても戻らないお父さんを


心配して


お母さんは山頂のレストランの職員に


訳を話して私を保護してもらったんだ





いくら時間がたっても帰って来ない


私たちを心配して


おばぁちゃんが捜索願いを出したんだと思う


天候が急変し雪崩が起きておそらく


お父さんとお母さんは亡くなったんだ





私は行方不明ではなく


山頂のレストランにいたんだけど


おばぁちゃんの住所が分からなかったから


情報が錯綜したんだと思う





この記事から分かること

 

私が落としていなければ


もしかしたら


落としたものを諦められなくて


駄々をこねたのかもしれない


このことがなければ


今頃お父さんとお母さんは生きていた





Seia


ガラガラ


林さんが出て行ってしまった


どうしよう


そうだよな、林さんからしたら


俺は他のクラスメイトと同じ


林さんのことを避けてる人の一人


そう思われて当然だ


実際今まで見てみぬふりをしてきたんだから


それが今さら


仲良くしようなんて虫のよすぎる話だ


だけどこれでまた全く話さない日常に


戻ったら


それこそ周りのクラスメイトと同じだ





「Seia、いつものドッジやろうぜ」


「さっきSeia、林さんに


話しかけてなかった?」


「林さんに話しかけたら暗いのがうつる


って言ったじゃん」


ガラガラ


運悪く林さんが教室に戻ってきた





今の話聞いてたかな、林さん


何事もなかったかのように


林さんは席について漫画の続きを描いている





Miku


村上くん「雨宮さん、良かったら」


いいも悪いもない


先生「じゃあグループに別れて


来週の社会科見学で工場の人にする


質問をまずは3つ考えて


その中から最終的に一つに絞るから」





グループに私が入ったことで


みんなのテンションが下がってる空気が


一気に広がったのがよく分かる


私だって入りたくてこのグループに


入ったわけじゃない


一人でいいなら一人がいい





それから村上くんはクラスの


いわゆる人気者


その人気者の村上くんに誘われたこともあり


一部の女子から妬みのような空気が


流れていることもはっきりと分かる


だから私だって入りたくて


入ったわけじゃない





村上くん「雨宮さん、質問何かある?」


さっきから村上くんに話しかけられる度に


女子の冷たい視線を感じる





Rito


ガチャガチャ


「ただいま」


「Ritoお帰り、お母さん今から出かけるから


手洗っておやつにして」


「どこ行くの?」


「今日Fumiya、水泳の進級テストなの


2級よ、2級


塾行きながらほんとに頑張ってるわ〜」





「お母さん」


「なにー?時間ないから手短にね」


「俺さ、図工で描いた絵


区のコンクールで最優秀賞とって


来週全校朝会で発表されるんだ」


「えー、よく聞こえない


絵が入賞したの?」


いや、入賞じゃなくて最優秀賞なんだけどね


お母さんからしたら一緒か





「まぁそんなとこ」


「そうなのー、すごいじゃなーい


じゃあ、お母さん行ってくるね」


バタン


俺の株は上がらなかった





Fumiyaがすごすぎて


きっと俺はこれから先も


いくら頑張っても努力をしても


認められることはないんだと思う


いや、俺の努力が足りないのか





Reila


ガラガラ


ハァハァハァ


「Reiちゃんどうしたの、そんなに慌てて」


「おばぁちゃん」


「何?」


「スキー場で起きたことなんだけど」





おばぁちゃんの目が見開く


スキー場なんて具体的な言葉を


出したからだと思う


私が記憶喪失ですべてを忘れてると


おばぁちゃんは思っていたから





「Reiちゃん、記憶.....」


思い出したわけじゃない


新聞の記事を見て知った


だけどおばぁちゃんには


記憶が戻ったと言った方がいいかな


「私、思い出したの」


「そ.....う」





「だけどね、ところどころ分からないから


教えてほしくて」


「あの日私とお父さんとお母さんは


おばぁちゃんの家からあのスキー場に


行ったんだよね」


「.....そうだったね」


「ナイトスキーを楽しむために


上級者コースに行くリフトに乗って」


おばぁちゃんの目が少し赤くなってる





「途中で私何かを落としたんだよね


その何かはよく分からないの」


おばぁちゃんは黙って話を聞いている


「で、お父さんが取りに行った


なかなか帰ってこないことを心配した


お母さんが


山頂のレストランの人に事情を話して


私を預けてお父さんを探しに行った」


おばぁちゃんの目から涙がこぼれる





「そのあと山の天気が急変して


お父さんとお母さんは....」


そこまで言うとおばぁちゃんは


当時を思い出したみたいで


声を出して泣きはじめた





Seia


どうしよう


林さんさっきの聞いてたかな


きっと聞いてたよね


どう思ったかな


あんな風に言われたら嫌.....だよね


傷つく.....よね


それよりも俺がどうするかだ





「俺、林さんと今日遊ぶから


ドッジいいや」


シーン


「えっ、Seiaまじで言ってるのか?」


そう、俺はもう決めたから


「昼休み終わっちゃうから行こうぜ」


「おー」





林さんがそのやりとりを聞いていたかは


分からないけど


特に反応することなく漫画を描いている





「あの、林さん」


「.....」


今日は口聞いてもらえないかな


今さら仲良くしようとしたって


林さんからしたらほんとに今さらだと思う


ガタッ

(椅子をひく)


お昼休みで静まり返った教室


彼女の隣の席に黙って座る





今まで持ってはいたけど


日の目を見ることなく放置されていた


自由帳を広げ


描いたことのない漫画を描いてみる





Miku


社会科見学で村上くんと同じグループに


なって以来


休み時間にちょこちょこ村上くんが


話しかけてくるようになった





「雨宮さん昨日の


パラダイスランドン見た?」


「......」


「もしかしてあんまり興味ないかな」


「......」


「村上ー


そんなとこで何やってるんだよ


次、音楽室に移動だぞ」





「あー


雨宮さんも一緒に行かない?」


「私はいい、一人で行くから」


「でも.....」


「いいって言ってるじゃない


これ以上私に構わないで」


教室がシーンとなる





クラス一人気者の村上くんを


邪険に扱ったため村上くん派の女子から


冷たい視線が向けられる





彼はどうして私に構うの?


村上くんなら友達もたくさんいて


女子からも好かれていて


何の不自由もないじゃない


私がいつも一人でかわいそうだから


同情してくれてるわけ?


だったらそんなものはいらない





Rito


家か.....


結局あのあと気持ちは沈んでいたけど


グランドに行った


いつもは楽しいサッカーも


点は取られるは怪我はするはで


散々だった





「Rito、今日どうした?大丈夫?」


「大丈夫、俺今日は帰る」


家に帰りたいわけじゃない


だけどこれ以上友達の前で


醜態をさらしつづけることに


耐えられなかった


パッパッ


土を払って気分は重いが家を目指す





で、今玄関の前


「ただいまー」


「おかえりー」


家の中からご馳走の香り


もしかしてお母さん俺のために


ご馳走作ってくれたのかもと


淡い期待を膨らませて


足早にリビングに向かう





ご馳走を見た瞬間愕然とした


そこにはFumiyaの好物がところ狭しと


並べられていた





「Rito、手洗っておいで」


そんな俺の気持ちも露知らず


母親はいつものテンションで話しかけてくる


テレビの前には今日の主役Fumiyaが


主役と言わんばかりにドカッと座っている





「あっ、Ritoおかえり


今日学校で先生に聞いたよ


コンクールで最優秀賞取ったって


来週の朝会でRito有名人になるね」


もうとっくに有名人のFumiyaに言われても


馬鹿にしてるのか





お母さん「えっ


Rito入賞じゃなくて最優秀賞


だったの?」


今さらだよ


「入賞も最優秀賞も別に変わんねぇよっ」





ダンダンダン


階段をすごい勢いで駆け上がる


バタン


ほんと今さらなんだよ





Reila


声を出して泣いてるおばぁちゃんに


なんとか質問を投げかける


「おばぁちゃん.....


私のこと嫌いになった?」


「どうして?」


「私がお父さんとお母さんを死なせたから


私が、私が、落とさなければ.....」


「Reiちゃんのせいじゃない


おばぁちゃんがいけない


おばぁちゃんがいけない」


「どうして....」





「Reiちゃんが落としたのは人形なんだよ


Reiちゃんがずっと欲しがってたから


おばぁちゃん買っておいたの


あの日スキー場に行く日の朝


Reiちゃんを喜ばせたくて


プレゼントしたんだよ


Reiちゃんすっごく喜んでくれてね


スキー場に持ってくってなったの


TakashiとMihoは置いてけって


なったんだけど


ずっと欲しかった人形だもん


持っていきたくなるのは当然


帰ってきてから渡せば良かった


そしたらReiちゃんはスキー場で人形を


落とすことはなかったし


Takashiも取りにいかなかったし


Mihoさんも探しに行くことには


ならなかった」


さっきから出てくるTakashiはお父さんで


Mihoさんはお母さんのことなんだろう





「おばぁちゃん.....」


「だからReiちゃん、自分のせいなんて


言わないで


Reiちゃんのせいではない


ごめんね、お父さんとお母さんを


Reiちゃんから奪っちゃったね」


ツー

(Reiから涙が流れる)





不思議


このスキー場での出来事は


私ではない他の魂が経験したことなのに


自分が経験したかのように


私もそこにいたかのように


涙をようやく流せたってどこか


ホッとしてる自分がいる


ずっとどこかいつも自分のせいだって


思っていたから


10才までの私はきっと心残りのまま


転生(人生)が終わってしまったのだろう





Seia


シャカシャカ

(鉛筆で慣れない漫画をなんとなく描く)


いきなり林さんみたいな漫画が


できるわけがない


フッ


あまりにも酷い絵に思わず笑ってしまう





チラッ


林さんのを確認する


うん、上手い、安定の出来映えだ


それに比べて俺は


見るも耐えない漫画だ


いや、むしろ漫画ですらない





シャカシャカ


「うーーん」


いつの間にかうなり声まで


出していることに気がつく





ボソッ

「はじめは4コマ漫画にしたら」


聞こえるか聞こえないかの声で


林さんからアドバイスが


一気にテンションが上がる





「4コマ漫画?」


「そう、4コマで絵も物語も完結させるの」


なるほど


それならまだできるかもしれない


シャカシャカ

「うーーん、うーーん」





フッ


えっ、今林さん笑った?  


笑ってくれた?  


笑われてこんなに幸せな気持ちになったのは


はじめてだよ





Miku


ガタッ 


「いいって言ってるじゃない


これ以上私に構わないで」


シーン


「ごめんね」

   




何で謝るのよ


それじゃあ私の悪い部分が


より際立つじゃない





バタバタバタ

(音楽の教科書を持って廊下に駆け込む)


何で謝ったりなんかするのよ


私のことは放っておいて


私は一人でいいの


ううん、一人がいいの


誰とも分かりあえないんだから


関わらないのが一番





今まで冬休みだけ図書館に通ってたけど


これからはすべての休み時間を


図書館で過ごす


そうすればこんなゴタゴタに


巻き込まれることももうない


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