第3話 「モブおじさん」「誕生日」「時間停止」
「会場のモブおじさんんんん!! よくぞ集まってくれたぁぁぁ!!」
やけに媚た風でありながら抑えきれない熱が込められた少女の声が、拡声器を通してスタジアム全域に響き渡れば、高まりに高まり渦巻く熱気はさらなる狂宴となって噴き上がる!
柔らかな芝生のグラウンドには無数のモブおじさん。くっさい汗を撒き散らしながら興奮した様子で思い思いに叫び、拳を振り上げている。中肉中背のメタボリックシンドロームからガリガリ骨だけ。ハゲかけからハゲてないのまでよりどりみどりといった様だ。
観客席に居るのは――グラウンドとさして差のないモブおじさん。違うとすれば、彼らは興奮しつつもどこか悲しげな辺り。自分の無力を噛み締めている様にも見えた。
「今日は私、
拡声器の主――永久スバルは空中に居た。プロペラの様な音はせず、エンジンの駆動音も聞こえない。ピンクのスポーツウェアとハーフパンツにスパッツを履いた彼女は空をその細脚を以て自力で駆け、ツインテールの先を遊ばせ、踊るように大きくスタジアムを周り、観客席に花丸笑顔を振り撒いていく。
そう彼女は時間停止の能力を持つ超能力者! この第三帝国日本が誇る最凶の能力者なのだ! 故に、空気の時を止めて道のように扱うことも容易い!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
豚みたいな野太い歓声がグラウンドから上がる。観客席も以下同文。
「今此処に集っているのは全国四十八ヶ所の予選を勝ち抜いて、私の誕生日チケットを手に入れた精鋭モブおじさん!
皆……私のために頑張ってくれて、とっても嬉しいよ!!」
と、あざとウインク。観客席で血飛沫。出血多量で死者多数。誕生日パーティの運営には問題ないのでそのまま続行される。真っ白な防護服に身を包んだ処理班が周りのモブおじさんごと、火炎放射器で処理していく。
阿鼻叫喚が一部に巻き起こるが、全く誰も気に留めない。なにせモブおじさんはあの輝く笑顔の永久スバルちゃんにメロメロなのだ!!
「でも! まだなの……!」
ふっと演技っぽく目を伏せるスバルちゃん。しんと静まり返る会場。
「だって、まだ48人もいる……!!」
――嫌悪で言っているのではないというのを先に明言しておこう。
「まだ………!!」
ぐっと拳を握るスバルちゃん。
「最強最善最悪最低最凶のモブおじさんが決まってないじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああい!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
と振り上げて叫ぶスバルちゃん。全力絶唱。歌は歌はない。答える豚ども。燃え残りが延焼して丸焼きの出来上がり。※スタッフがこの後、美味しく頂きました。
「じゃあ、見せてみてよ! モブおじさんたちの全力全開のバトル!!」
拡声器に喰らいつかんばかりと凄みのある笑顔で叫んで。
「私、永久スバルは今この瞬間! 大乱闘モブおじさんズ! 永久スバル誕生日杯の開幕を宣言するわッッ!!」
この後めちゃくちゃモブおじさんが死んだ。
+++
現在、世界総人口の九割は時間操作の異能力者、
幼き日の終わり。2020年の始まりにそれは訪れた。
革新の日、終末の日。天地万物は仰天と意志のもとに引っくり返った。
2030年今現在、世界は戦乱の下にある。
時を手に入れた人々の行く末は、誰も知らぬか既に誰かの手のひらか。
道標は見えている。ただ、道は終わりをみせなかった。
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