第4話【南方第十四守護艦隊所属超弩級機動要塞・白銀大公】
それが天上を覆う、鍋蓋か何かのように現れたのはつい数週間前の事。覆い尽くしたのは日本国旧居住領土:四国上空。もう居住者等居ないから、どれだけ騒音を出しても、日を遮っても文句は言われないだろう。
しかし、それにしても度過ぎている。
「はええ……デカイ」
馬鹿みたいに口を開けた間抜け面で、ボクはその真下から見ていた。
それは円形だ。楕円に近い円形。見た目は白に銀。此処では珍しい白銀世界の様。ボクの地元では珍しくない、親しんだ色。円形の途中が途切れている。分かりやすく言えば、アルファベットのCの様。多分、そっちが前なのだろう。中央には丸い球体が浮かんでいる。恐らく、あそこが中枢だ。そんな中枢を守るために幾つも黒々とした穴が見える。砲門だ、きっと。巨体のせいで遠近狂ってるから完全に視界に捉えれてはいないけれど無数で等間隔だから間違いない。左右前後は勿論、上下にもあるはずだ。
……上は見ようが無いから確信できないけど。普通、あるだろう。
しかしまあ、何をどうやって浮かしているのか。核融合炉だろうか。だとすれば何機積めばいいのか。そんなお勉強をしたことはないのでボクは答えに辿り着く事はできないだろう。
見上げ続けてくらくらしてきた。思わず手元のPDWから手を滑らしそうになる。肩がけしてるから落ちはしないけど、手を離すのは懸命ではなかったから急いで取り直す。
「あれ、上空何メートルにあるか知ってる?」
かと相棒の声。手元のPDWからボクは意識を向ける。ボクと同じ様に、
ちなみに波数を知っているのはボクらと司令部くらい。司令部とどっちかが裏切らない限り基本安泰だろう。
「さあ?」と問に疑問符を返せば「40000km」とんでも数字「全長634m、横も大体同じ」……巫山戯るな。
呆然と「嘘だろ……?」呟くと「マジ。設計書に書いてあった」聞きたくもない台詞が耳朶を叩く。
「……勘弁してくれ」
思わずボクは膝をついて許しを請いたくなる。やめてくれ。うちにはハムスター型アメーバがひまわりの種を待ってるんだ……。
「これで共犯だ……独りぼっちは寂しいからなあ?」
通信越しでも分かる邪悪な声色。きっと悪鬼スマイルだ。これは正しく人の生み出した悪に間違いない。
――邪悪、討つべし。ボクはタングステンのように硬く心に誓った。
何はともあれ。あれはそんなとんでも高度にあるらしい。
「ていうかどこで設計書を?」
素朴な疑問。さっきから疑問ばかりで申し訳ないが、まあ仕方ないと思って質問攻めを食らってもらう。
「SF部の先輩にみせてもらった」
何気ない一言。うわ、まじか。この時のボクの顔はきっと、それはそれは酷い様だろう。
「うへ……変人の巣窟じゃん……」
「うちにマトモな開発局があると思って?」諦め声に「いや、無い」首を緩く振った。
我ら極東軍には、三つの兵器開発部がある。
一つ、SF部。SFオタクの巣窟。
二つ、陰陽道。極東最古のオタクの巣窟。
三つ、火薬庫。愛すべきクソ馬鹿どもの巣窟。
――以上。三つである。何? 説明になってない? しょうがないじゃん。機密事項だし。ボクも通称しか知らないんだぜ?
「あーSF部かあ……納得だなあ……」
名前の通りだが、SF部の連中はSF系統の作品で見た兵器を実現するのに躍起なのだ。それはもうめちゃくちゃに予算を食い潰して。 これで不良品なんぞ作ってれば早々に取り潰しだっただろうけど、性能確かだったからもう手に負えない。
「ほんとねえ……」
そんな雑談をしながらボクは思うのだ。
平和だなぁ、と。
――だからまあ。うん。
次の瞬間、粉微塵に吹き飛ぶのもきっと自業自得なんだろうなーー……なんて。
走馬灯の中。上空でピカリと銀光。あーそういう? 誤射的な? もっとぴかぴか。ちげえ暴走してやがる。SF部め……許さん……! 帰ったら苦情出してやる……!
なーんて転送最中のバックアップにボクは刻み込んだのであった。
その後、四国は焦土となった。
件の超弩級戦艦の行方は知れず。太平洋の彼方に消えていったとか。
あの巨体が何処に消えたのやら……ボクは思うけど、ボクの知るところではないので思考をカットカット――するのであった。
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