第154話 ファッションコレクション in 我が家
金髪縦ロールさんを車で送って帰り、家に入るとファッションショーが開催されていたでござる。
「あ、おかえりなさーい」
「遅かったなー」
「カレンさんがほったらかしにしてる生徒会を差し入れついでにちょっと手伝ってきたでござる」
広いリビングのはずなのにもう完全にわっちゃわっちゃ。テーブルこたつは絨毯ごと隅に追いやられ二人のなずなたんと青龍たんが着ては脱ぎ着ては脱ぎを繰り返しているでござる。
「えっ、というかもうこっちに来たでござるか?」
外れて疲れた様子でくたばっているリエッセさんに説明を求める。
「トモミンをタケにけしかけたの知ってたみたいでよ、ボロクソに文句言ってたぜ」
「肉体も意識も共有したり入れ替わってたりしてたみたいだから、まあ記憶も共有してたところで疑問ではないでござるが…」
このとっ散らかった服達、絶対これ片付けるの吾が輩だよね?
「皆さん晩御飯は?」
「まーだー。朝イチで出掛けて合流して新しい服買ってそれでタケを驚かそうって魂胆だったんだが、かれこれ六時間このまんま」
母上、妹君、青龍たん、なずなたん×2が六時間このまんまだと。カオス。
「あそこの箱のタワーは?」
「まだ開けてないヤツ」
どんだけー。
「ちょっと青龍たん、あーた仮にも剣なんだから服いらないでござる」
「そんなことはありません。本体が肉体から剣に変わっただけです」
「あのスケスケ巫女服は?」
「あんなのもう二度と着たくありません。だいたいなんなんですかあれは。あんなの着た覚えありません」
「どういうこと?」
「どういうことは私のセリフです。儀式を
「スケスケ巫女服ってどんなの? おにいちゃんは見てるんだよね?」
「裸と大差ないでござる。むしろ着てる方が恥ずかしいくらいで、上はおっぱい丸出しで下はおパンティー透けてて真面目に隠れてるのはおヘソくらい」
青龍たんは実はおっぱいよりも鎖骨と太ももが素晴らしいでござる。くびれからゆったり流れて、艶かしい腰つきからぷりんっとした桃尻、細すぎず太すぎず健康的な肉付きのいい太もも。
「おおいマジかよやるなオイ」
「「やだぁ、そんなの絶対に着たくない…」」
「そこのストーカーコンビ、絶妙にハモるのやめてください。というか知っててそういうこと言うんですね」
「ハモるとか死語でござる」
なずなたんの本体は今でこそ肉体だけど、中国行った頃はまだ吾が輩の中だったでござる。そりゃ知ってるよね。
「で、あんた何したの」
「ぅおおおぅっ?!」
突如吾が輩の隣にレイミさんが現れたでござる。げ、玄関のピンポンは鳴ってなかったはずでござるが…。いつの間に?
「ああ、レイミちゃんにも合鍵渡してあるわよー」
「まだ何も言ってないでござる」
「顔に書いてあったから」
「つーかお義母さんから全員分って渡されて持ってメンバーに私が配ったから」
「ええ…」
特注のディンプルキーだからそんな安くないし、ほいほい作ってもらえるものじゃないんでござるが…。こりゃひょっとして相当前からバレてたでござるか。
「で、お兄ちゃんは今度は何をしでかしたんですか?」
「ちょっと妹君、人聞きが悪いでござる」
「あんた今度はイギリス貴族に喧嘩ふっかけたわね?」
「記憶にございません」
「生徒会副会長知ってるわよね? 彼女が帰ってくるなり家出したどういうことだって本家から大クレームよ!」
「生徒会副会長…、ああ、金髪縦ロールさんでござる。イギリス貴族?」
「あの子の家は王室に繋がってる直系の貴族なのよ。武蔵野には多額の寄付をしてくれてるイギリスで太いパイプの一つなの。そ!の! お嬢様を預かってたのに家出って!!!」
「まさか、将来王笏を持つかもしれないと?」
「当たり。イギリスは現王が女王だから前例もあるわ。王子の高齢化が進んでいてもし万が一のときは代理で…。もしくは子どもを産んで裏から…なんてことも」
「いやそれ乗っ取りでござる」
「あくまでも可能性の1つよ。おそらく表沙汰になっていない貴族同士の勢力争いやら王座争いやらで籠の中の鳥状態なのね。武蔵野で預かって英才教育してたのも半分以上花嫁修業を兼ねてだったし。出身が出身だから自分の身も人生も自分のものではないのよ。で、それが嫌で『もう家には戻りません』って荷物まとめて飛び出した。ついさっきの話よ」
「だははは! 行動に起こすのが早すぎるでござる! さっき帰ってくる前、彼女から『私を貰ってほしい』と言われてまして。もちろんお断りしますた。が、なるほどね。思い詰めた表情だったのはそういうことでござるね」
うーん、なかなかやるでござるなあ。これは彼女の評価を改めなければ。蝶よ花よで育てられたただの七光りかと思ってたらなかなかどうして行動力があるでござる。
「笑ってないで説明しなさいよ!」
「きょぬーおっぱい揉ませてくれたら説明するでござるよ」
「そんなのここには沢山あるでしょ!!!」
残念ながらこの中に一人だけ仲間外れがいまーす。
「妹君は慎ましいCカップでござる!」
「ぎゃー! お兄ちゃんのバカ! なんでバラすの!」
「胸くらい私達がチカラを込めて揉んであげればいいんですよ。ねぇ?」
「え?」
「前からがいーいぃ? 後ろからがいーいぃ?」
わきわき、わきわき。
「答えは聞いてないわっ!」
「きゃー!」
巫女三人に襲われて洋服の海に沈んだ妹君はほっといて話を進めるでござる。
「望んでない結婚させられそうって相談されたとき、じゃあ逃げちゃえば?って言ったでござる」
「やっぱりあんたが原因なんじゃない」
たぶん吾が輩に相談する前に心は決まってたと思うでござる。最後に誰かに背中を押して欲しかっただけで。逃げられないと絶望して、最後の砦が吾輩だったと。
「取り敢えずイギリスまで謝りに行くわよ」
「だが断る」
「ネタはいいから!」
「もうすぐカナダ行くんだっとよ。リーシャんとこ」
「なんでこんなときに!」
「取り敢えずご飯食べてくでござる?」
「食べてく!」
1升炊きの炊飯器を買い足しましたとさ。
はい、そんなこんなで羽田空港国際線ターミナル。
「展開早すぎでしょ。家出女子高生どうすんのよ!」
「いいじゃないですか、たぶん大丈夫でござる」
「無責任な一言をありがとう」
たぶん本当に大丈夫でござる。
「例によってVIP扱いはいまだ慣れないんだけどこれはどうにかならないでござる?」
「ならないわよ。正体隠してもなぜかバレるし」
両サイドをCAさんでがっちり固められてお荷物はお持ち致しますの状態。しかもエスコート役までいる。吾が輩は表向きなんの関係もない、たまたま会長を助けた通りすがりの青年Aなのに。
(一見なんもなさそうなのに、この人には何かあると思われてるあたりが心苦しいでござる…)
変身能力から超身体能力、今の境遇も前世やらなにやらのおかげで吾が輩の実力であるところは何もない。今さら吾が輩の証券口座とか取引とかバレてて、実は裏で武蔵野が工作してましたとか言われても驚けないでござる。
「リーシャ、なにかあったらすぐにナイアガラに沈めていいからね?」
「心配し過ぎですよー。なんにもないもんねー。ねー? ござるくーん」
(あんたの頭の緩さが心配なのよ…)
「あるのは吾が輩の腕に当たっているおっぱいだけでござる」
モミモミ。
「やだーもー、えっちー」
「いやあ、ははは。いけないいけない」
(殺意湧くわ…。アタシだってクレーム処理なんかしないでそっちにいたいっての…!)
吾が輩とリーシャさんがのろけていると逆毛立ったレイミさんの雷が漏れ出てるでござる。静電気じゃなくて普通の電気が漏れてパリパリしてるでござる。
「取り敢えずこれ以上はなにもしないでよ? 副会長探しだって本当はあんたがやんなきゃいけないのに…」
「大丈夫でござる。なんとなくだけど察しはついてるから、吾が輩が帰ってくるまで本人にはゆっくりしてもらえば」
「たまには私の相手もしなさいよ? でないと浮気しちゃうんだから」
「ウィ」
大丈夫大丈夫、たぶん…。羽田空港からトロント・ピアソン国際空港まで直行で12時間。受付やら乗り降りの時間やら含めると14時間くらい。飛行機から降りてコンコースに出ると当たり前のようにお出迎え。
「すぐそばのホテル予約してあるから、チェックインしたらお風呂入ろ?」
「いくらファーストクラスでもやっぱり長時間のフライトは疲れるでござるなあ…」
ノビーッてして首をゴキゴキ腰をバキバキ。エスコートされてチェックインして、お風呂で洗い合って、キングサイズのベッドでぐでーん。抱き合いつつもお尻や太ももを撫でつつもだらだら話す。
「2日か3日くらいここでゆっくりして、そのあとどうする? 先に観光行く? お父さんとお母さんには大雑把にしか伝えてないから余裕があるんだけど」
「ナイアガラの滝は行っておきたいでござる」
「うーん、いきなりナイアガラかあー。それなら乗り物は避けて変身して飛んでった方がいいかも。また飛行機とか疲れるでしょ?」
「えっ?」
「このトロントからナイアガラフォールズまで直通の鉄道とか、電車乗り継ぎでも二時間はあるよ? 飛行機もあるにはあるけどやっぱり乗り降りの時間はあるし」
※ナイアガラフォールズとはナイアガラの滝がある都市のこと。東京から宇都宮くらいの距離。トロントから行って観光してお昼食べて帰ってきたらだいたい一日が終わるくらい。意外と遠い。
「…物凄いいまさらだけど、リーシャさんのご実家はどこでござるか?」
「バンクーバーだよー」
※バンクーバーはトロントとは正反対に位置する大きな都市の1つで、直線距離にして約3300km。車での移動だと約4300km、時間にして一日と16時間。直線距離の飛行機でも5時間掛かる遠いところ。
「ということは結局また飛行機でござるか…。カナダ広すぎでござる…」
※カナダの国土面積は世界最大のロシアに次いで世界第二位。アメリカや中国よりも広い。
「今は二人きりなんだから、ね? こっちもいいんだよ?」
そっと触れる唇が柔らかい。まだ風呂上がりなせいか、ぬるりと口内を犯す舌がいやに熱い。
(初めてはリエッセさんだったでござる…)
そんなことを、押し倒されながらぼんやりと思い出していた、ら。
「熱ッッッちゃ!!!」
「みんなみんなずるいんだ、キスマーク私だって付けたいのに。ここならわたしだけのものだよね?」
(あっ、この人もあかん人でござる)
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