第153話 人生の黄昏のときは、人によって違うのかもしれない

今日も今日とてぐうたらな日々、とはいかず用務員として出勤。切れてる蛍光灯を交換したり、ズレてる時計を直したり、周りの清掃をしたり。


(これ、用務員というよりただの雑用係でござる…?)


まあ戦うのと金融・先物取引とか以外に何か出来るのかと言われたら何も出来ないけど。


「くませんせー、くませんせー。こちらにいらっしゃったのですね」


「はーあーいー」


「戦野先生が風邪でお休みなので代わりに体育の授業お願いいたします」


姉上のことだからきっとお腹出して寝てたでござる。




「どえええっくしょいっ!!!!」




「じゃあエクストリームドッチボールでござる。本気で動き回る吾が輩に当てたら賞金100万円」


「無理です」


「ただしボールは何のボールでも何個使ってもよいものとする」


「バレー部と卓球部と野球部のマシン持ってこーい!」


ズドドドドド!!!


ヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!!!!


「にょほほほほほほ」


「やはり不可能ですわ」


「副会長、あの人本当に人間ですか?」


「ええ、はい、たぶん」


当たらなければどうということはない!


「おっとこんなところにメロンなボールが2つ」


「きゃっ」


ぽよーん。うむ、Fでござる。吾輩の目に狂いはない。制服のときから胸の突っ張り具合でおおむねのサイズは分かっていたものの、体操服から浮き出るブラの形や大きさを見ないと確証は持てないでござる。やはり金髪縦ロールさんもきょぬー。


「ちくしょう、羨ましいぜ…」


「「「俺も触りてえ…」」」


ククク、羨望の眼差しが眩しいでござる。羨ましいか? 羨ましいだろう。触れば体操服の上からでも分かるほどの形、大きさ、重量。淡い緑色か…、なかなか可愛いブラジャーでござる。


「じゃあ賞金100万円じゃなくて金髪縦ロールさんのおっぱい揉み放題で」


「ちょ?!」


「「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」」


「フケツ…」


「男子って本当にバカばっかり」


「くませんせー、終わったら女子ロッカーね」


ぎくっ


「一つだけ壊れちゃったんで直してください」


ほっ


(一瞬姉上にチクられるのかと思ったでござる…)


放課後、片付けもそこそこに差し入れを買ってきて生徒会室に顔を出す。ノックして入ると、静まり返っている生徒会室で金髪縦ロールさんが一人黙々と作業していた。


(薄暗いし、集中し過ぎて吾が輩に気が付いてないでござるな…)


「フッ」


「ひあああっ!」


「へいへーい、隙ありー。電気くらい点けないと目が悪くなるでござるよー」


そっと背後に忍び寄り、フッと耳に息を吹きかけるとまったく期待通りのリアクションをしてくれたでござる。明るくして隣に座ると耳まで真っ赤にしているのが分かる。


「い、いらっしゃるのならお声を掛けてくださいまし!」


「ちゃんとノックして入ってきたでござるよ?」


「き、気が付きませんでしたわ…」


「一息着けるでござる」


当たり前のようにお茶を淹れて買ってきたお菓子を広げる。思ったけど普通の高校の生徒会室にはきっと給湯室はないでござる。


「今日もカレンさんはサボりでござる?」


「ここ最近はずっとそうですわ」


生徒会長ェ…。副会長に仕事押し付けて何やってんの…。というか今まで副会長がいなかったはずないと思うんだけど、金髪縦ロールさんの前にいた人はどうなってるでござるか。


「なら元会長のイケメンくんは? 彼確か今は補佐でござる?」


「京介さんは縁談の打ち合わせとかなんとか…」


「まだ学生なのにお見合いとは大変でござるなあ」


「…ねえ先生?」


吾が輩先生じゃないけどね、教員免許持ってないけどね。ついでに同い年でござる。


わたくしをもらっていただけませんか?」


「ほ?」


思い詰めた様子でなんだかよく分からないことを打ち明けられたでござる。つまりどういうこと? 吾輩のハーレムにリアルJKがもう一人増えるでござる?


わたくしをもらっていただけませんか?」


「ほ?」


なにやら思い詰めた様子でなんだかよく分からないことを打ち明けられたでござる。いや沈黙続くからって同じこと2回も言わんでよろしい。


「うんいいでござる)」


「ええ…分かっていましたわ断られるなんてそんなこと…って、え?」


「最近似たようなことがあったから、吾輩でどうにかなるのならいいでござるよ?」


「いやいや早すぎますですのよ先生。あの、おっしゃっている意味がおわかりですか?」


「吾輩はいつでも大真面目でござる」


そう、おっぱいを揉むときもね。


「はあ、先生はデタラメですのね。そのおっしゃっていることといい、強さといい」


溜め息をついて呆れている。まあちゃんと自己紹介もしないままでこうやって話していて、私をもらってくださいって話に即おっけーってのはそりゃデタラメかもしれないでござる。


「一つお尋ねしても?」


「なんなりと」


「先生はなぜそんなに強くなったのですか?」


「カッコいいからでござる」


「だから答えるのが早すぎますわ」


えー。だって男なら誰しも特撮とかアニメとかに憧れるだろうし、アクションスターだってカッコいいでござる。一度はあんな風になれたらいいなあって。


「ぶっちゃけるとやりたいことは確かにあるし、でもこの強さは吾輩が努力して得たものばかりではないから、強くなったらどうしようなんて考えてなかったでござる。強くなるのに必死で必死で」


「先生のやりたいことですか…」


「人には言えないでござる。吾が輩にも許せることと許せないことはあるから。でも知られたらきっと反対されるでござる。かと思えばたんに吾輩がカッコいいの好きだからとかそんだけでしかなかったり」


二人きりで完全に暗くなった校庭に差すライトを眺めながら話す。


「意外ですわ。先生はもっと大きなものを見ているとばかり」


「吾輩も所詮、人間でござる」


人並み外れた身体能力や環境こそ特異かもしれないけどね、それ以上ではないと思っているでざる。


わたくし、この学校を卒業したら嫁ぐことになっているんですの」


「うん」


「政略結婚の道具にされて、家の名のために生け贄にされて」


「うん」


「先生が羨ましくてたまりませんわ。いえ、先生だけではなく普通の家庭に生まれた人全てが」


「うん」


静かに止まった時間を感じながらほとんど生返事。なんとなく事情は察したけど、やっぱり武蔵野学園は貴族階級のとかそういう人ばかりでござるか。


わたくしという個人が存在していられるここを離れたくありませんわ」


「吾が輩のコネでどうするこうするも容易ではあるけれど、けれどそこまで望んでいるでござる?」


「間違っていることも甘えていることも重々承知ですわ」


「…結論から言うと、吾輩は今のあなたとは結婚出来ません」


残酷かもしれないけど、これは後腐れのないようにはっきりさせておいた方がいいでござる。


「吾輩にとってこの力はね、誰かを守るためかもしれないけど、結局は自分の都合のためにしか使っていないでござる」


というかレイミさんに乗っかったり、まったく関係なく自由に暴れたりしているでござる。


「あなたは吾輩に何を望んでいるでござるか?」


わたくしは…、何も望んでなどいないのでしょう。ただ逃げたいがために先生を利用しようとしただけ…」


「じゃ逃げちゃえばいいじゃん」


「えっ?」


「上手くは言えないけど、逃げちゃえばいいと思うでござる。今までの全てを失っても、今の自分を忘れないでいられるのなら」


人には偉そうに言うけど吾輩なんか逃げまくってるでござる。現実逃避は得意だから逃げて逃げて逃げまくってこのまま人生振りきるぜ!


「無責任なこと言うなって思われるけど、こういうときって頑張れとも逃げるなとも言えないでござる。世の中頑張っても逃げなくても解決しないことは解決しないからね」


ドヤア。それらしいことをそれらしいように言えば聞こえの良いセリフになるでござる!


「…。少しだけ、やってみますわ」


「じゃあ今日は送っていくでござる」


「はい」


外はもう完全に真っ暗だった。あー、御飯炊いてないでござる。

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