第152話 パスワードはpassword

我らが主人公、ござるが家を留守にしている頃。


「ちっ、このパスワードもダメか」


「今何通り目ぇ?」


「256通り目です」


パスワードを掛けられたPS4Proを前に悪戦苦闘する三人。


「あんにゃろう意外とやるじゃねえか…」


「私なんか記憶共有してるはずなのにまるで当たらないなんてどういうことぉ?」


「彼もそれだけ成長しているということです。恐らく無意識に『自分の領域』を知られたくないと壁を作っているのでしょう」


「アカウントのパスも同じだったらこれさえ当てればこっちのもんなのになあ。あーあ」


ごろんと寝っ転がってポイとコントローラーを投げ出す。まさに投了、諦めの境地。


「そういえばさあ、武蔵野のデータファイルの中で載ってないことがあるんだけどさあ」


唐突に語り出すリエッセ。


「アイツの両親が実の両親じゃないのは分かってんだけどさあ、本当の両親のこと何にも載ってないんだけどよー」


「ああ、そう」


「ああそうって、アンタ気にならないのか?」


「私は彼と記憶を共有してるからぁ」


「私もなんとなくは察してます。私達の強さは持ち主の精神力で決まるところが大部分を占めているせいか、その影響も受けやすいようです」


「なあなあ、教えてくんねえ? アイツの過去」


「ダメよぉ」


「ダメですね」


即答だ。だが当たり前と言える。知らない内に自分のプライベートを土足で踏み入られたらどう思うか?


「知りたいなら自分で聞いてねぇ?」


「…アイツ喋ると思うか?」


「あなたがその領域まで達すればぁ、その時次第で

は話してくれるかもぉ?」


「なんかさ、アイツからあんまり信用されてねえ気がするんだ」


「それはないと思いますよ? 彼が不器用なだけですから」


「だってさー、アイツ自分のこと話さないじゃん?」


「一つだけいいこと教えてあげるぅ。私があげたのは力だけじゃない、復讐の機会」


「…お前!」


「言っておくわよぉ。例えどんな形でも、あなたが彼を遮る存在になるのなら、私はあなたを殺す」


「…」


張り詰める空気、満ちゆく殺気、溢れ出す狂気、底抜けの愛情。


「正しいとか間違ってるとか、それはあくまでも人間の摂理の中でのみ通じること。彼の復讐がどちらにあるかなんて関係ない。私は常に彼と共にあるわぁ」


「…青龍」


「私も彼と共にあります。命ある限り、いえ、この魂の尽きぬ限り、私は彼のそばにいます」


「あなたが私達と同じようにあるのなら、その時はあなたも感じるところになるわぁ。でもその時は世界も味方も、全てを敵に回すわよぉ?」


「どうしてそこまでする」


「惚れた女の弱味よ」


「…むかつくぜ」


肩に頭を預けられるほど隣にいる自分よりも彼を知っていて、自分よりも彼に近いところにいる二人。自分が一番じゃないことに苛立ちを覚える。もっとも、彼にそんなつもりは毛頭ないのかもしれないが。


「あーもうめんどくせえ買ってくるか!」


「え! いいのぉ?!」


「本体のパスを抜けるにはそれしかねえ! アカウントのパスせえ抜けたらデータ全部ぶっこ抜いてやる!」


「やりました」


「あぁ?!」


「パスワード抜けました。もう一台買ってくればあなたの部屋でバレずにやりたい放題です」


「よっしゃ! でかした!」


自分を誤魔化して目を背ける。と同時に諦めの悪さを発揮する。


(この二人、必ず越えちゃるわ!)


ここで前回の後半頭。ごさるくん帰宅。




「また雨か。あーあ、出掛けらんねえから暇だなー」


最近は豪雨ばかり。今度は大分でござる。50年に一度とか1000年に一度とか何回やったら気が済むでござるか。


「ってリエッセさん仕事やめて引っ越してきてからほとんど家でゲームしてるだけでござる」


「いいじゃなぁい? 美女四人に囲まれてゴロゴロしてられるんだからぁ」


「誰かさんのせいでインターネット出来ないからゲーム出来ないですしねー」


「リエッセさんの部屋はただの空き部屋だったから引いてなかっただけだし、勝手にパスワード使うからでござる」


知らない間にストーリー進んでたらそりゃ気付きますよ。そろそろこの巫女組には普通の服でも買ってくるでござる。もはや中身が現代人だから違和感なく着こなしそうだし、このままじゃコスプレ大会に見えるでござる。


「この子しっかりしててなかなか強情よ」


「あ…」


「い」


「う」


「はいはい繋げなくていいでござる。どうしたのなずなたん」


「起きた」


「ちん」


「言わんでよろしいでござる。それは起きたじゃなくておっきしたって言うほう」


「まだ言ってません」


おもむろに起き上がって、どこか明後日の方向を見て真顔になったなずなたん。こんなに真面目な顔するのは珍しいでござる。


「あの子、起きたわ」


「あの子ってだれー?」


「まさか…。いや、吾が輩も感じているでござる」


なずなたんと融合してそこそこ時間が経ったせいか、ついに彼女が感じるところを吾が輩も感じるようになってきたでござる。ソッコーでトモミンに電話を掛ける。


「あもしもしトモミン? なに? 今講義中? そんなのどうだっていいから熱海の実家に行くでござる。吾が輩もすぐ行くから」


「なんなんだよ」


「あー、母上には説明してないでござる?」


「なにがー?」


「この世界はコピーされた世界が云々とか」


「ううん聞いてないわよ?」


「取り敢えず、なずなたんが双子だったってことで」


「空き部屋って確か二つしかなかったような気がするんだけど…、まーいっか」


熱海に飛んでいくとと幸いなことに霧こそ出ているものの雨は無く、傘はいらなかったでござる。持ってきてたらヘシン! した姿で傘だけ持ってるのもなかなかシュールだったけど。


「教授に追加でレポート出せって言われちゃったじゃない」


「そんなのあとでコネ使って捻り潰せばいいでござる」


「レイミちゃんに似てきたわねぇ」


トモミンと合流して、洞窟に入ると相変わらず中は外に比べて異常に寒く、気温が下がってきたこともあってもう白い吐息が出るでござる。


「あれ? 本当に起きたの? 棺そのままじゃない」


「そんなハズはと言いたいところでござるが、フタもそのままでござる。開けて出てきてるかと思ったけど」


不思議に思って石のフタをゴリゴリとどけて開けると、中で気持ち良さそうにすやすや寝ている、もう一人のなずなたんがおったでござる。こんなに冷えている石の棺でよく寝られるなあ…。


ずびしっ


「二度寝しないのぉ」


「あいたっ」

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