第151話 ゴキバキギエピー!


「こんちはーでござる」


「いらっしゃい。じゃあ昨日の続きをしよ」


今日は昨日の大にぎわいと違って静かなサロン。吾が輩とリーシャさんしかいないでござる。いつも通り会員カードを出して貴重品を預けて、シャワーを浴びる。


「さー、ゴキバキ逝ってみよー」


「逝かない逝かない」


昨日マッサージしたときに力の流れが詰まってるからまた来てね、と言われたので早速でござる。


「今日は吾が輩だけでござるか」


「新入社員三人は日本一周してくるって、魔術師さんがガイドで」


「あと2ヶ月遅ければ紅葉が見られたのに」


まだまだ暑くて季節の変わり目までは遠く、風景はあんまり楽しめないかと思うでござる。それでも軍曹や刑事さんは富士山やらスカイツリーやらがあるか。


「今日は呼んでもらえてちょうどよかったでござる。巫女二人とリエッセさんがゲームしてばっかだからPS4にパスワード掛けたんだけど、これがまた凄い猛烈な抗議で」


「あはは、男の子一人だから多数決じゃ勝てないよね。じゃあちょっと失礼して…」


うつ伏せになっている吾が輩の上に重さを感じる。背中に跨られてさわさわされて背中をつうっとされる。ちょっとくすぐったいでござる。これがまたマシュマロのようでありながら弾力と重量、それでいて質の良い綿のロングパンツと肌で起きている擦れと素晴らしい共鳴が心地よい感触となって伝わるでござる。


「やっぱり背骨のライン曲がってるねー」


「あー、PCやゲームしてる時はだいたい姿勢が悪いからそれかと思われるでござる。普段はそんなことないんだけど」


「ところどころ変に負荷が掛かってて、力が素直に出てないかな?」


グッと背中を両手で押さえられる。なんだか嫌な予感が…。


「ふんっ」


ゴキャッ


「ほぎゃー!」


「全身まっすぐにするからねー、リラックスしててねー。変に力入れるとあぶないからねー」


「ちょっ、待っ」


「ほっ」


ベキャッ


「ギエピー!」


優しいマッサージかと思っていたらそんなことはなく、このまま半日掛かりで首から足の指先までバキバキされたでござる。いつもなら眠っちゃうほど気持ちいいのに…。


「はあ…、死ぬかと思ったでござる」


「そんな簡単には死ねないから大丈夫だよー」


軽くお昼をいただいてお風呂に入る。正直体をバラバラにされた気分でござる。


「ちょっとリーシャさん、ナチュラルにさわさわしてくるのやめてほしいでござる」


「そんな恐がらなくても大丈夫だよー、ちょっと触ってるだけだから」


いつもだったらおうふおっぱいがデュフフとかなるけど、今はふとした瞬間にバキッとされそうで恐いんでござる…。


「近い内に旦那さんになる人のカラダは知っておかなきゃねー」


恐い恐い。まさかリーシャさんがこんなゴキバキパワー系整体とは。


「そういえばござるくん、私の実家にも来る? お父さんとお母さんに紹介したいんだけど」


「…リーシャさんってどこの出身でござるか?」


「カナダだよ」


「あんまり寒いのはちょっと…」


カナダって確かアメリカの上にあって、その面積の多くが北極圏内でござる。ほとんどの人口もアメリカとの国境付近に集中してるとか。


「あはは、まだそんなに寒くないよ。夜は一桁くらいの気温に近いと思うけど」


「夏で一桁は十分寒い件について。うーん、行くなら翻訳機借りないといけないでござるね」


「お父さんもお母さんも日本語喋れるから大丈夫だよ?」


「えっ? カナダって英語とフランス語だったはず…」


「よく知ってるね。私もお父さんもお母さんも英語とフランス語と日本語は出来るよ」


3カ国語出来てマッサージに整体も出来て、サロンの雑務もこなして大学行ってる。そしてお決まりのようにスタイルが良く美人、巨乳さん。…地味にこの人もスペック高いでござるな。


かぽーん。


「ところでさー」


「なんでござるか?」


「専用機の受け取りに行かなきゃいけないんだけど一緒に来てくれない?」


「レイミさんは? って忙しいんでござるね」


いまさらだけどロイヤルセブンが超法規的存在にも関わらずちゃんとクレームやらなんやらの対応してるのは意外でござる。


「この間の騒ぎになかったことにしようとしたけど催促きてやっぱりダメだったって、忙しいから暇そうなござるくん連れてくれば?って」


「ご愁傷様でござる」


「んふふ、主にきみのせいだけどね」


まさか本当になかったことにしようするとは思わなかったでござる。風呂から上がって車でひとっ走り。武蔵野グループ本社に行き、非常階段を降りて例の地下保管庫に入る。


「あ、同伴出勤。死ねばいいのに」


薄暗いはずの地下保管庫は照明で明るく、一人先客がいたでござる。


「カレンじゃない。学校は?」


「雑な戻し方をした道真さんのせいで元に戻らなかった生徒会やら職員の資料があって、その復元に三日ほどお休みなりましたから今週はもうありません」


夏休み明けたばっかでまた連休とはラッキーでござるな。ん? 待てよ? 朝から妹君いなかったはず。休みになったのをいいことに遊び行ってるでござるか。


「生徒会長は手伝わなくていいんでござるか?」


「新しく副会長を任命したので大丈夫です」


「副会長?」


「金髪縦ドリル先輩です。三年生ですが進路決まってて暇そうなのでまる投げしてきました」


金髪縦ドリル…。いや間違ってはいないでござるが。


「それでカレンも来たんだ。皆色とりどりでまたこれで戦隊ものっぽくなったね」


「これの説明書読みますか?」


「えっ、説明書あるんでござるか?」


「えっ?」


ぶっつけでやった件について。というか装着する以外の説明受けてない件について。スマホのアプリを起動してメニューを開くと確かにマニュアルの項目があるでござる。


「レイミさん相変わらず雑ですね」


「それにしてもピンク色は目立つでござるなあ」


「それはほら、わたし7人の中では一番可愛いからー」


((なに言ってんだこの女…))


7人の中でも最も目立つピンク色。まさかリーシャさん本気で言ってるのかな…。しばらく変身したりしなかったり、説明書を読んだり読まなかったり。変身するときのポーズがしっくりこないでござる。ひとしきり練習して遊びもそこそこに学園へ行くと死屍累々。


「頑張ってるでござるか? 差し入れ持ってきたでござるよ」


「あ、くませんせーだ…」


「ちょっと! どういうことですの! なぜわたくしがこのような雑務を!」


「まあまあ」


職員室を訪ねると先生方は既に死屍累々、生徒会室に向かうと入るなりくたばった新聞部さんが白目を剥き、吾輩に気付いた金髪縦ドリルさんに詰め寄られたでござる。


「イケメンくんもいるでござるか」


「まあ、人手は足りませんから…ハハ」


死んだ目で笑いがカラッカラに乾いてるでござる。こりゃ相当修羅場ってる。


「本来生徒会室で飲食は禁止だと思うけど今日は例外ということで」


「ありがたいですわ」


「生徒会長はなにしてるんですか?」


「レイミさんのところにいるでござるよ」


仕事をしてるとは言ってないでござる。


「くませんせーは最近姿が見えなかったけどどこ行ってたの?」


「うん、まあちょっと所用で」


(なにか怪しい…)


化け物退治してたり他所の国で好き放題やってたとか言えないでござる。差し入れついでに復元作業を手伝って(と言っても終わった書類の誤字脱字チェックとかファイリングとか)帰宅。


「ということで近いうちカナダに行くことになったでござる」


「リーシャんとこに挨拶しにいくのか」


「ウィ」


「「「おー土産! HEY! おー土産!」」」


「なんでお師匠さまもいるのかはスルーで。妹君、学校休みなの隠して遊びに行ってたでござるね」


「ギクッ」


「あらあら瑠姫ちゃん」


「理数系はともかく、文系に関しては我が家にはその道のプロである万年妖怪が三人もいるんだから今度から家庭教師してもらうでござる。仮にも受験生でしょ」


「ちょっと! わたしやなずなさんを妖怪扱いとはどういうことですか! あんなのと一緒にしないでください!」


「そうよそうよぉー!」


「ああ? 吹くじゃないか小娘が! 覚えてるぞお前が私を弾いたの! 生意気にも結界なんぞ使いおって!」


「半年以上も前のことまだ根に持ってるんですか? 小さいですね! だいたいあなたなんか妖怪に持たれてたまるもんですか!」


「あーもう二人ともやめなって」


………。家に帰ってきて誰か人がいるっていいなあ。ぶっちゃけ騒がしいけど。


「人のPS4で遊んでた万年妖怪三人と黙って遊びに行ってた妹君、しばらくおやつ抜きでござる」


「「「「え゛ーーーー?!!!!」」」」

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