第146話 ジム、プール、大浴場、専用機付き本社ビル
「妹君、この教科書って古典でござる?」
「そうだけど?」
「犯人、たぶんこの人でござる」
開いた古典の教科書に不自然に残っていたのは和歌とその作者。特に作者の名前が異様な存在感を放っていたでござる。というか、オーラというか邪悪そうな黒いもやもやが名前から漏れ出している。
「【
「菅原道真といえば大宰府天満宮に祀られてる神様だな。学問の神様で雷神の一面を持ってて、いろは歌の作者だと言われてる実在した人だ」
いろは歌は道真が藤原氏の陰謀により亡くなる前に遺したと言われている(らしい)。7段書きにすると下の部分が
「父上詳しいでござるね」
「これでもオカルト研究会終身名誉会長だからな」
(そういえば真っ黒いエルフの人がお姉ちゃんとお母さんのことになんか言ってたけど…、まさかねー)
「瑠姫ちゃんの教科書だけこうなってそいつの名前が残ってるってことは」
「菅原道真さんはかまちょなのねぇ」
ナウいでござるこの8000年ストーカー巫女。どこでそんな言葉覚えた。それにしてももう神様になって1000年経つおっさんがかまちょとかジェネレーションギャップって騒ぎじゃないでござる。一体吾が輩に何の用なんだか。
「こりゃー明日からまた出掛けることになりそうでござる」|д゜)チラッ
「なんでお母さんを見るの?」
「|д゜) ダッテ、ハハウエゴハンツクレナイ…」
「雷牙さんいるから大丈夫でしょ」
「うむ、レイミちゃんのおかげでもう海外行かなくていいし転勤もないし本社栄転でなんの心配もないぞ」
「それもそうでござるな」
「お義母さんはそんなに作れないんですか?」
「作れないことはないのよ? ただちょっと…その…苦手というか、めんどくさいというか…。本の通りに作るのが癪に障るだけで」
基礎基本が出来ないのにアレンジ♪とかなんとか言って変なもん混ぜるのはやめてほしいでござる。一番やばかったのはデスソースとドリアンとシュールストレミングを入れたやつ。
「お母さんはまずお父さんに習った通りにごはんを作れるようになるべき」
(メシマズなのか…。アタシも人に出せるレベルじゃねーけど…)
気付いたらレトルトやスーパーのお惣菜ばっかになってて、結局吾が輩が父上から教わってたでござる。
「おとうさんはなんでまた料理出来るようになったんですか?」
「まあそれには色々と事情があってね。台所に立てる男はモテるんだそうだ」
「青龍たん、『お父さん』でござる。はいもう一度」
「お父さん」
「う~ん、娘が増えるっていいなあ。これでまだ6人も増えるんだろ? いいよなあ、感動だよ! でかした息子よ! 苦しゅうないもっと増やせ!」
「ははあ~!」
「バカやってないで今度こそ晩御飯にしましょ。ほらあなた早く作って! お腹空いた!」
このあとめちゃくちゃ鯛料理した。一晩明けて車に着替えやらなんやらを詰めたキャリーバッグを積んで家を出る。そういえば全然用務員してないでござる。
「じゃまず武蔵野本社で、その次に太宰府天満宮でござるね。車は本社に置きっぱで」
「なかなか休まらねえなあ」
本当に休まらない。朝起きてトーストをかじりながらニュースを見ていると文字虫はついに全国に広がり、日本経済に大打撃を与えていたでござる。謎の
「ちーっす」
「レイミさん、生きてるでござるか?」
「あ、おはよう二人とも…」
しかしその前に電話で発狂してたレイミさんへ会いに武蔵野本社へ来たでござる。
「うーわひっでえ顔」
「誰のせいよ誰のー」
レイミさんは完全にくたびれた様子で目の下にクマを作り、髪はボサボサ、着てたであろうスーツのジャケットはその辺に放り出され、シャツがヨレヨレになったままソファに寝ていた。だらしがない胸元からブラジャーが全開してるでござる。今日は白か。デスクの上はリポビタンDで埋まっていてもはやブラック勤めの社畜でござる。
「
「なに? あれはそういう名前なの?」
「ううん今吾が輩が決めた」
二人で向かいのソファに座りつつ答える。テーブルには夜食と思われるコンビニの袋がいくつかそのままになっていてとっ散らかっているでござる。
「ああ、そう…。確かに消えたけど請求書やら抗議文やら始末書、顛末書も書類関係は全部パーになったわ…。ぜぇーんぶ真っ白!!! …ハァ」
「よっ! 作戦本部長!」
「違うわよ! ちょっと旦那貸して!」
「構わねえけど? いやつか、重婚するんだからお前のダンナでもあるだろ」
「?」
ハグー。
「はあ…、落ち着く…」
レイミさんの隣に座り直すと寄りかかられて抱き着かれたでござる。吾が輩は抱き枕かな?
「おっぱい全開でござるよ。というかめっちゃ当たってるんですが」
「当ててんのよ。アンタ私達全員嫁にするつもりなんでしょ?」
「ええ、まあ」
「私達もそのつもりよ。なら家族じゃない?」
「ええ、まあ」
「なら見えてても問題ないじゃない」
「じゃあ揉んでも問題ないでござるね」
「まあ、そうなるわね」
モーミモーミ。やはり特盛おっぱいは揉みごたえが違うでござるなあ。でも吾輩としては前から掴むより後ろから脇の下に手を通しておっぱいの下から支える感じのがいいでござる。
「ふあっ…、いきなり直で揉まないでよ。揉むよりもっと抱かせてよ」
「いやー、これ以上高そうなシャツにシワ付けるのはどうかなって思ったでござる。ブラジャーだってお高いんでそ?」
「それもそうか…」
勢いで手突っ込んで揉んでるけどなんのツッコミもこないでござる。
「というかデスクワークでどうやったら胸がはだけることになるのでござる」
「ここ食堂以外にジムもプールもあるし、もちろん大浴場もあるから。で行って帰ってきたらボタン止めるのめんどくさくなった」
「おおい揉むならアタシのにしろよな。今こっち正妻だからな」
「取り敢えずこんなバカなことしたバカをとっちめてぶっとばしてやりたいわ…。うぅ…、ん」
モーミモーミ。あかん、マジでツッコミが来ないでござる。こりゃ相当疲れてるな。途中から向き変えて肩揉んでるのにまったく気付いていないでござる。後ろからは乱れて髪留めから垂れる髪、うなじから首筋、鎖骨、谷間と流れる白い肌。疲れからか首がやや傾いていて、ほのかに火照り始めたピンク色の耳たぶ。たまに漏れる甘い吐息。巨峰の向こうを除けば広めの絶対領域。ネクタイがあるなら目隠ししたい感じ。色情をそそるこの艶かしさはもはや吾輩の語彙では現すことができない、陶器のような美しさ。一言で言うなら舐め回したい。そしてこのとき1つの疑問が浮かぶ。なぜ、吾輩は今、おっぱいを揉んでいないのだろうか?
「今朝のニュースは見たか?」
「お客さん凝ってますねえ〜」
「あぁ…、あー…、見たわよ。頭痛いわね。この間アルシオーネでやらかした分に重ねてこれだもん。あっあっ、イイ〜、そこそこ」
「はえーとこなんとかしないと」
「このへんですかねえ〜」
「ダメっ、あっ、ああ〜、イイ、そこ、もっとぉ…」
げ ん こ つ !!!!
「ペプシッッッ!!!」
「このへんですかねえ〜じゃねえよボケ! 相槌みてえに挟むんじゃねえ! 真面目にやれ真面目に!!」
文字の印刷されているものは
「早くどうにかしないと日本が潰れるわ、
「というところでこれでござる」
妹君から預かってきた古典の教科書を取り出して、例の道真のページを開いて見せる。
「なにこのページ? なんで残ってんの?」
「これ妹君の教科書なんでござるが、我が家でこうなったのは何故かこの教科書だけだそうで。ほかは全部真っ白」
「それは確実の話なの?」
「ウィ。妹君がLIMEでクラスメートに聞いたら皆なんともないと」
「菅原道真って言ったら太宰府天満宮か…、焼き討ちよ!!!!」
「いやいや太宰府は燃やしちゃダメだろ」
「何言ってんのよ見てよこの部屋の有り様を! 今日だけでどれだけの損失出たと思ってんのよ! 弁償よ弁償! 神だろうが仏だろうがケツの毛むしってでも身ぐるみ剥いででもむしり取るわよ!!! 行くわよ!!!!」
ぽちっ
ガコッ!
「ファ?」
「バッ?!!!」
ガシャアアアアアッン!!!!!
「あぶねーだろバカヤロー! 落とすんならせめて一言言えよ!」
「あててて、ここどこでござるか」
真っ暗な空間に目が慣れなくて何も見えない。突然レイミさんがソファのひじ掛けをぶっ叩くと床がバカンッと開きソファごと新幹線並みの瞬間速度で落下してジェットコースターさせられたでござる。
「地下保管庫よ」
「地下保管庫…?」
「見なさい、私達の専用機よ」
「うおっ、まぶしっ」
不意に照明で照らされ、8つのシルエットが浮かび上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます