第147話 アームド・アップ!

「見なさい、専用機よ」


「おおお、これ吾が輩がモチーフ?」


8機並んでいるパワードスーツ型試作戦闘機。ところどころこの間見た試作機とは違うでござる。


「正確には違うわ。ロイヤルセブンそれぞれの鎧を基礎に形状や専用武器をデザインしたワンオフ機よ。変身後に装着することを前提としていて、それぞれが持ってる武器にも外装が用意してあるわ」


「この間強奪されてたヤツが試作機なのにもう専用機があんのか?」


「あれは正式には先行量産型試作機。本来のタナトスを可能な限り現代の最新技術で軍用機として開発したものよ」


「じゃこっちは?」


「外貨が欲しい魔界や地球の資源が欲しい月と取引した結果完全にオーバーテクノロジーでオーパーツ化しちゃったから量産不可能になった、いわば欠陥機ね。間にタナトスが噛んでるからメンテは出来るけど」


「おい!」


「すいません月ってどういうことでござる?」


「要は宇宙人よ、宇宙人」


「宇宙人?! 宇宙人なんか本当にいるでござるか」


「皆知ってるじゃない、地球に住んでた宇宙人『かぐや姫』」


かぐや姫って竹取物語のかぐや姫でござる? 確かにお話の最後には月に帰ったとあるけど…。にわかには信じられないでござる。


「いやかぐや姫くらいアタシでも知ってるけどよ、そりゃおとぎ話だろ? いくらなんでも本当にいるワケねーよ。だいたい月にはアポロ11号が行ったじゃねえか」


アポロ11号といえば学校で必ず教わるあのアポロでござる。おとぎ話が本当のお話ならアポロの宇宙飛行士がかぐや姫に会ってたしてたりしそうなもんだけど、そんなぶっとんだ話聞いたことないでござる。それどころかアポロが月に行ったのはガセじゃないのかなんて話も。というか当たり前に話が進んでるけどレイミさんもタナトスたんと面識あるでござるね。


「一番最初にね。その後秘密裏に次々と飛び立ってG20の首脳で月に行ったことのない人はいないわよ。私も会ってきたし」


「会ってきたし?! なんでアタシは知りもしねーんだよ」


「ほいほい喋れないでしょこんなこと。リエッセはメンバーで一番口軽そうだし」


「そりゃあそうかも知れねえけどよ…」


「二人ともスマホ持ってきてる? ちょっと貸して」


「はい」


「ん!」


拗ねてるでござる。吾が輩はまだ仲間に入ってまだ短いから知らなくても当たり前かもしれないけど、ロイヤルセブンは結構前からその存在が囁かれてたくらいだから、隠し事があったのは好かないんでごさるな。


「既に仮想化してクラウドから出してるだけの状態だから、専用のアプリを入れて機体を登録すればいつでもどこでもスマホから出力したり遠隔操作出来るわ」


「なんつーモン入れんだよ」


「ぶっちゃけ自分で変身して空飛べて戦えるのに、こんな機動兵器必要でござるか?」


「必要よ! なぜならばカッコいいからよ! ってのは半分で、実際のところは通常兵器のみならず核兵器すら遥かに凌駕し、無効化する新世代の兵器開発計画よ。核に代わる抑止力、それがこれ」


「…好きなガンダムは?」


「ストライク!!!」


即答か。レイミさんもたいがいでござるなあ。


「ぶっちゃけ自分で変身して空飛んだ方が速えと思うんだがなあたしゃ」


「必要よ! なぜならばカッコいいからよ! 大事なことだから二回いいました!! ってのは半分で、実際のところは色んな国で核や原子力が開発続きってのが問題でね。もしこのまま世界が仲良くしないで喧嘩しまくったらオリジナルの連中と同じことになるから、核を超える抑止力を作ろうってことになったのよ。あと装着者への補助機能もあって、最悪戦闘中に気絶しても勝手に戦ってくれるわ」


胸の部分に大きくて菱形をした虹色に輝いているクリスタルが埋め込まれていて存在感を放っている。よく見ると魔方陣が仕込まれているでござる。


「この胸のクリスタルはなんなんでござるか?」


「マトリクスって言って、月で採掘した鉱石よ。元々は青白いんだけど魔界の魔法を掛けているせいで常に虹色に発光しているわ」


「こんなんでどうやって核を無効化するんだよ」


「よくぞ聞いてくれました! 既にこの状態でマトリクス内に特殊なエネルギーを貯蔵していて、それをそれぞれ専用の武器でビームを照射。対象をただの石ころに変えてくれるわ。マトリクス内のエネルギーは稼働とビームで使ういわば電池ね。これに頼っている間は装着者のエネルギーを大幅に節約出来るの」


「核保有国に嫌がらせできるでござるな」


皆で核保有国を襲って回ればすぐに核兵器のない世界になるでござる。


「世界を強請ゆする気かよ」


「無人島買ってお城でも建てるでござる」


「無理よ」


「なんでだよ」


「この8機建造するのにめちゃくちゃお金掛かったから脅迫してもその補填に消えるわよ」


「一体いくらつぎ込んだでござるか…」


「1機10兆! 先行量産型の10倍よ!!!」


「アホかお前は!!!!」


(8機で80兆? 30兆で浮かれてた吾が輩って…)


「で、これパワードスーツなんだろ? どうやって装着するんだよ」


「変身! アーム・ド・アップ!!」


「おおっ」


変身すると専用機が光る卵に変化して、掛け声と共にレイミさんを飲み込み、弾けると装着した姿を現した。戦闘機と言っていたのにコックピットがなかったのはこういうことね。本当に鎧の上からさらに着込んでるでござる。身長やら体格やら大変なことになってる。


「さあ! これで焼き討ちに行くわよ!!!」


「そうはさせぬ!」


「あ、菅原道真ミッチーさんでござる」


「どっから涌いたんだこのジジイ」


愛称はミッチーで。


「ミッチー言うなや!!」


「ディナーショーしちゃう?」


「それにしてもよく分かったな小僧! イカにもタコにもわしが菅原道真である!」


「なんかそれらしい格好してるからそうなんかなと思ったでござる」


「ちょっと! あんたのせいでどんだけ迷惑してると思ってんのよ! 早く元に戻しなさい!」


「いいじゃん別に。現代の人間にもう紙に書かれた文字など必要なかろう? 変な光る板みたいなのにかじりついてろくに教本も読まないし、純粋に勉学に励もうという若者も少ないじゃろ」


まあ…、本に限らず紙媒体である新聞や雑誌も発行部数は右肩下がりだそうでござる。あの手この手を尽くしたり根本的なテコ入れをしても売り上げは減るばかりとか。


「どうしてもと言うのなら小僧、和歌の一つでも詠んでみせい」


「和歌なんてやったことないでござる」


「なら俳句でもなんでもよい。わしを納得させてみよ。もしお前がわしを唸らせるほどのもの詠んでみせたら全て元に戻してやろう」


「血の池や 死体投げ込む DEATH《デス》の音」


「うんうんDEATHNOTE《デスノート》は面白いねって喧嘩売っとんのか! だいたい神にだって休みが欲しいんじゃ!!! 遊びたいんじゃ! 旅に行きたいんじゃ! 寝させろ! 和歌を書いて寝るだけの生活がしたい! 遊女巡りさせろー! 毎日毎日24時間365日年中無休で働かせおってどこのブラック企業じゃー!」


「ふざけんじゃないわよこのジジイ!」


「うるせー! やーい外れ陰陽師ー!!」


「やかましゃー!!! あたしは独学なのよ!!」


「吾が輩だって働きたくないでござる! 働きたくないでござる! 大事なことだから二回言いました! そのためにも元通りにしてもらってさっさと過労死してもらうでござる!!」


「上等じゃ小僧! かかってこいやー!」


「アームド・アップ!!!!」


「…むしろ焼き討ちしちまった方がジジイは休めるんじゃねーのか?」


「えっ?!」

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